国連海洋法条約30周年記念スピーチ

アメリカ合衆国・ニューヨーク

世界海洋デーであるこの6月8日という日に、国連海洋法条約30周年を記念する重要なイベントにお招きいただいたことを大変光栄に存じます。

国連法律顧問はかつてこの条約を「海の憲法」という言葉で見事に表現されました。

私たちは今、本条約にかかわる取り組みについて、あらゆるレベルと領域において満たされていない部分を把握し、それらに対して効果的に取り組むために、過去30年間で積み上げてきた成果を評価しなければならないときを迎えています。

海事および海洋法はもともと多分野横断的なものではありますが、現在かつてないほどにその領域を拡大しており、外交官、法律・政策立案者、官僚、経営者、科学者、そして市民社会を含むあらゆる関係者から絶え間なく、細やかな注意が向けられなければならない領域となっています。

人類は海洋に特有の性質および根源的な重要性に起因する課題に直面しています。今日、人口は70億人を超え、人類の海への依存や海に対する負荷は高まるばかりです。また、国家間の利害対立が海で表面化し国際社会の安定を脅かすような状況も見受けられます。

私たち日本財団は、海洋の問題に対して効果的に取り組むためには、人類が海洋に対して持っている共有の責任を受け入れることと、私たち人類は相互に結びついており、ひとりひとりの人が課題解決の礎なのだと認識することが大切だと考えています。次世代に持続可能な形で海を引き継ぐためには、今日私たちの世代が、未来への責任を引き受けると共に、これまでの取り組みからの教訓を活かさなくてはならないでしょう。

世界の海はつながっており、それにかかわる問題は相互に結び付いているため、海を守るためには国家や関係機関の国際的な連携が必要であるということは周知のことです。それにもかかわらず、少なくとも、成果という観点から見たときに、効果的な国際的連携は形成されているとは言えません。

私たち日本財団は国や機関、そして分野を超えた連携を加速させるため、世界的かつ学際的なビジョンを持ち、既存の枠組みの外へと私たちを連れ出し、それぞれの枠組みの間のつながりを新たに創造し育むことのできる人材の育成が不可欠であると考えています。

日本財団はすでに国連、研究機関、大学、政府、NGOやその他世界中の海洋分野の第一線の機関と連携し、グローバルかつ学際的な人材育成プログラムを実施しています。

私たちの人材育成のプログラムの第一の目的は、人々の意識と行動を変えるためにリーダーシップを発揮することのできる新世代の海洋分野のプロフェッショナルを輩出し、育成することです。それと並行し、海洋の問題に従事する人たちが、それぞれの立場を超えて協力・協業するためのネットワークを作ることを第二の目的としております。

私はこの場において、日本財団がこれまで100カ国を超える地域において700名以上の海洋法や海洋政策の専門家を育成してきたこと、彼らの間で問題解決のためのネットワークを構築してきたことを報告させていただきます。

海洋問題に関わる外交官や国連関係者として本日この場にお集まりになった方々の中にもご参加いただいた方がいるかもしれませんが、私たちの取り組みの具体例の一つが、国連・海事海洋法課と連携した奨学金プログラムです。このプログラムは世界中の大学とパートナーシップを組み、途上国の行政官やその他海事の専門家に能力開発の機会を提供しています。個人に合わせた研究カリキュラムと国連本部での実務を通じた多国間協議プロセスへの関わりを組み合わせることにより、参加者にユニークで豊富な学びの機会を提供しています。

過去8年間にわたって、このプログラムは新世代の海洋分野の外交官やその他専門家の育成に貢献して参りました。これまで45カ国70名のフェローがプログラムを修了し、今も同窓会活動を通じて、分野と国境を超えた活発なネットワークが築かれています。

私たちは、このような取り組みを引き続き支援していく所存です。

私は海に対する人類共同の責任と、次世代に海を引き継ぐという責務のために、近い将来、新たな人材育成のプログラムを立ち上げ、この取り組みをより一層強化することをここでお伝えします。その新しい取り組みは、今後10年間の海洋に関するハイレベル会合の開催とそれを通じて明らかになったニーズに対応するための人材育成を考えております。それらを通じて、たとえばRIOプラス20の海洋分野での成果など、国際社会が海洋に対して持つ責任について検討し、またその責務を果たすことをサポートしていきたいと考えています。

私たち日本財団は、小規模ではございますが、このような取り組みを通じて、将来の世代へ持続可能な海を引き継ぐため、「海の憲法」の理念を全世界で具現化していくための取り組みを支えていきます。