国内人権機関国際委員会

スイス・ジュネーブ

本日は、国内人権機関国際委員会の場において、お話をする機会を頂戴し、誠に光栄に存じます。

ハンセン病は、太古の時代から不治の病として人々に恐れられ、激しい差別と排除の歴史をつくりだしてきた病気です。有効な治療法が開発され、治る病気となり、患者を強制的に隔離する法律がなくなった今でも、一度、ハンセン病という「社会的烙印」を押された人々に対する差別は深く根を下ろしたまま、消えることはありませんでした。

世界には、今も、多くのハンセン病患者・回復者が故郷や家族のもとに帰ることができず、人里離れた療養所やハンセン病患者・回復者だけで構成された定着村に暮らしています。彼らは他の人々と同じように自分の力で生きたいという意欲や能力も持っています。しかし、彼らの多くは、学校に通い、友達をつくり、仕事をし、結婚をして家族をつくるという人として当たり前の社会生活を送ることができずにいるのです。

こうした問題は回復者本人にとどまりません。回復者の子どもたちまでもが、就学や就職、結婚という場面において、世代を超えた差別から抜け出せずにいます。このように、ハンセン病という「社会的烙印」を押された人々やその家族が、社会に生きる上で、最も基本的な人権を奪われ続けているのです。

私はハンセン病を取り巻く問題を広く国際社会に人権問題として捉えてもらうために、2003年にジュネーブの国連人権高等弁務官事務所への働きかけを開始しました。それから7年間の歳月を経て、各国政府、NGO、回復者組織など様々な関係者の協力のおかげで、2010年12月、国連総会で「ハンセン病患者・回復者とその家族への差別撤廃決議」およびその原則とガイドラインが全会一致で可決されました。

この国連決議の採択により、世界中の患者・回復者をこれまで長い間苦しめてきた差別という厚い壁に風穴を空けることができました。この決議によって、差別や偏見が自動的になくなるわけではありませんが、もし、私たちがこの原則とガイドラインを有効に使って行動すれば、差別の壁への風穴を開けるための強力なツールとなるでしょう。

本日、世界中からお集まりの国内人権機関の代表である皆さまにおかれましては、国内の人権推進と保護のために、日々、ご尽力をされていることと存じます。私は、この場をお借りして、日頃から人権問題に高い意識をお持ちの皆さま方のお力をハンセン病と人権の問題にお貸しいいただけるよう、お願いを申し上げます。

私は、2006年より、ハンセン病を取り巻く差別の撤廃を世界に訴えるために、グローバル・アピールを実施してきました。これは、ハンセン病患者・回復者の声を広く世の中に伝え、彼らの生き方に尊厳を取り戻すための啓発活動です。これまでに、ノーベル平和賞受賞者、政治、宗教、ビジネス、教育、医療、法律といった分野の世界中のリーダーとともに、差別撤廃を求めるメッセージを世界各国に発信してきました。

来年1月、第9回目となるグローバル・アピールでは、ぜひ各国の国内人権機関の皆さまのお力をお借りしたいと心より願っております。皆さまがこのアピールに賛同され、ハンセン病患者・回復者と共に闘うと意志を表明してくだされば、彼らにとっても非常に心強く、彼らの人権擁護、尊厳の回復に向けて大きな力となります。

さらに、各国の国内人権機関の皆さまには、自国において、ハンセン病患者・回復者の人権問題にも、常に注意を払い、国連総会で採択されたハンセン病に関わる原則とガイドラインが、現実の社会にきちんと反映されているか、実践されているかを検証し、もし、そうでない状況を目にした場合は、声をあげて現状の改善を進めていただきたいと考えております。

人々の心に深く根付いた差別の意識が簡単になくなることはありません。これは、あるハンセン病回復者の言葉です。

「ハンセン病療養所の壁はたった20cmの厚さですが、それは私と世界とを隔てる壁なのです」

見えない壁を壊すことは簡単なことではありません。しかし、私たち一人ひとりがハンセン病患者・回復者たちの声にならない叫びに耳を傾けることで、この壁に少しずつ風穴を開けることができると私は信じています。

皆さまとともに、社会の一人ひとりに呼びかけ、ハンセン病患者・回復者に対する差別のない世界をつくることを、第9回目のグローバル・アピールを通じて、世界に向けて発信できることを切に願っております。