第18回国際ハンセン病学会

ベルギー・ブリュッセル

第18回国際ハンセン病学会でお話する機会をいただき誠にありがとうございます。

本日、この会場には医療専門家、科学者、各国政府代表、国際機関、NGO関係者、そしてハンセン病患者・回復者の皆さまがいらっしゃいます。私たちは各々、専門分野は異なりますが、ハンセン病を取り巻く様々な問題を解決したいという共通の目的を持ってここに集まりました。実際、このユニークな学会は私たちが抱える共通の課題を解決するために、どのようにして全体的に取り組むべきかを示してくれる重要な場となっています。

ハンセン病を取り巻く環境は、前回インドで開催された5年前の学会から今日までの間に大きな前進を遂げました。

まず医療面においては、ハンセン病に対する予防療法や新薬の開発、より効果的な治療方法など様々な研究が進められています。また、WHOがグローバル・ストラテジーにおいて、ハンセン病患者・回復者を重要なパートナーであると認識し、ハンセン病サービスの中に当事者の意見を取り入れるよう努めていることは特筆すべき成果であります。

さらに、社会面においては、2010年に「ハンセン病差別撤廃決議」が国連総会の総意をもって採択されました。同時に、各国政府等が「ハンセン病患者・回復者及びその家族に対する差別を撤廃するための原則及びガイドライン」に十分な考慮を払うことが求められました。原則はハンセン病患者・回復者とその家族の基本的人権と自由を謳い、ガイドラインは具体的な行動指針を示しています。

私は、この国連決議を広く社会に浸透させるため、ハンセン病と人権国際シンポジウムを開催し、各国政府に対して「原則とガイドライン」の理解と社会での適用を促し、ハンセン病患者・回復者とその家族に対する差別法や差別的慣習の撤廃を働きかけています。

このように医療面、社会面の双方で大きな成果が出てきています。

しかし、私はハンセン病を取り巻く現状に危機感を覚えています。なぜなら、都市部のスラムや山岳地帯等でハンセン病患者蔓延ポケットが世界の様々な地域で見つかる一方、各国における医療知識を含む利用可能なリソースが減り続けているからです。そして、厳しいスティグマと差別がハンセン病患者・回復者とその家族を苦しめ続けています。こうした様々な課題に直面しているにも関わらず、大きな成果を得たことによる満足感により、関係者の意識が低下しまっていることは、この場にいらっしゃるすべての皆さまにもご同意いただけると思います。

私たち日本財団は、こうした問題を世界に訴えるために、WHOに呼び掛け、今年7月、国際ハンセン病サミットをWHO・日本財団で共同開催しました。このサミットには、ハンセン病蔓延国を含む各国の保健大臣と世界各地で活躍する専門家が出席し、今後の課題を共有するとともに、バンコク・デクラレーションを採択しました。このデクラレーションは、多くの問題の中から特にハンセン病蔓延地域に焦点を当て、早期発見による障害の発生を予防することの重要性を強調しています。

ハンセン病蔓延国の政府がポリティカル・コミットメントを表明したことは、私たちのハンセン病との闘いにとって非常に大きな成果であったといえるでしょう。

しかし、このポリティカル・コミットメントを採択しただけでは、実際にハンセン病患者・回復者の生活を改善し、さらなる感染を防ぐことはできません。

ここにお集まりの科学者、医療専門家、国際機関、NGO、そしてハンセン病回復者を代表する皆さまが一致団結して、ハンセン病を取り巻く問題に取り組む必要があるのです。

ハンセン病の解明のために献身している研究者、日々遠方の村まで足を運んでいるヘルス・ワーカー、そして、自分たちの声を届け、社会の中で尊厳のある立場を取り戻そうと立ち上がった人々など、私たち一人ひとりが、この問題に対して変化を起こすための重要な役割を担っているのです。

医療関係者の皆さまによる分子免疫学や遺伝子学等、研究の継続は今後も必要不可欠です。同時に、ハンセン病感染と障害を予防する質の高いサービスを提供するための専門的な医療知識とノウハウの維持が重要です。

私たちは、スティグマと差別のない世界を実現するために、ハンセン病患者・回復者の社会的・経済的エンパワメントを支援する努力を続けていなかくてはなりません。また、私たちは、ハンセン病問題に対する誤った知識や無知を改めるための社会啓発や教育活動を続けていかなくてはなりません。

そして、最も重要なことは、異なる分野の専門家が一堂に会して、情報共有やネットワークの構築をし、互いに学び合うことで私たちの共通の課題に対する革新的な解決策を探すこと、つまり、この会議のようなプラットフォームを継続して持つことです。

ハンセン病との闘いは終わっていません。

私たち一人ひとりが自分のなすべきことを果たし、共に手を携えて協力し合うことで、近い将来、ハンセン病とそれに伴う差別のない世界を実現しましょう。

ご清聴ありがとうございました。