グローバル・アピール2014 宣言式典 〜ハンセン病に対するスティグマ(社会的烙印)と差別をなくすために〜

インドネシア・ジャカルタ

ハンセン病の差別撤廃を世界に発信するグローバル・アピールは、今年で9回目を迎えることとなりました。今年は各国の国家人権機関の皆さまと、ここインドネシアにおいてグローバル・アピールを発信できることを大変嬉しく思います。

ハンセン病は、世界において、最も誤解され、深刻な差別を伴う病気のひとつです。非常に残念なことに、病気が完治するようになった今なお、社会とハンセン病患者・回復者の間にはスティグマや差別という高くて厚い壁が立ちはだかっています。この壁は、ハンセン病患者・回復者とその家族をコミュニティから排除し、教育・雇用・結婚などの機会を制限し、彼らの希望、夢、そして、尊厳を奪っています。

私たちは、ハンセン病を取り巻く根深い差別の問題を広く世界に訴えるために、2006年にグローバル・アピールの実施を開始しました。これまでノーベル平和賞受賞者、世界のリーダー、世界医師会、国際法曹協会等にアピールいただいておりますが、毎年のアピールの根底には「ハンセン病患者・回復者の尊厳と人権の回復」という共通の目的があります。

このイニシアチブと並行して、私たちは国連にもアプローチをしてまいりました。2003年、私は国連人権高等弁務官事務所にハンセン病を取り巻く問題を人権侵害問題として取り上げるよう働きかけました。関係者の皆さまの多大なるご協力により、7年の歳月を経て、2010年12月、「ハンセン患者・回復者及びその家族への差別撤廃決議」およびその原則とガイドラインが国連総会の総意をもって採択されました。国連決議は、ハンセン病患者・回復者とその家族が病気を理由に差別されることなく、人としての尊厳と基本的人権・自由を有することを謳っています。この時、国際社会においてはじめて、ハンセン病患者・回復者の見過ごされてきた人権問題や彼らに対するスティグマや差別を根絶することの重要性が議論されました。そして、これまでハンセン病患者・回復者が参画することが困難であった教育、選挙という基本的な権利を保障する明確なガイドラインが示されました。

このような前向きな動きがあるにも関わらず、日常において、社会のスティグマや差別に直面する人々の生活はなかなか変わりません。ここインドネシアでも、ハンセン病患者・回復者と社会を隔てる高くて厚い壁が立ちはだかっています。多くのハンセン病患者・回復者が病気を理由に解雇されたり、コミュニティから排除されたりという経験をし、基本的な社会・経済活動を行うことさえ不可能な状況に直面しています。

こうした状況に対応するために、ここインドネシアではPerMaTa(ペルマータ)という当事者団体がハンセン病患者・回復者とその家族の人権回復を推進するために精力的に活動しています。しかし、2007年にPerMaTaが設立された当時は、基本的な権利・自由であるはずの公共施設で会合を開催することさえ困難でした。彼らがホテルで会合をしようとした際、ホテル側から「他のお客様のご迷惑になりますので」と追い出されるという出来事がありました。日本においても、かつてハンセン病回復者がホテルなどの公共施設への入館を拒否されたり、控えさせられたりという出来事が起こったことがありました。これらの例は、いかにハンセン病患者・回復者への偏見と差別が世界中の至るところに存在しているかということを示しています。そして、これがハンセン病が長い間、社会の差別の対象から解放されない根深い問題となっている要因なのです。

メンバーの大変な努力の甲斐もあり、PerMaTaのイニシアチブは、コミュニティにおけるハンセン病患者・回復者とその家族に対する態度や認識を変えつつあります。しかし、社会全体の認識を変えるには、様々な社会セクターからより多くの人々の努力を必要とするでしょう。

私たちは本日ここに集まり、第9回のグローバル・アピールを発信することになりました。今回は、世界各国の国家人権機関が私たちの呼びかけにご賛同くださり、ハンセン病患者・回復者に対する人権侵害について、世界中にアピールしていきます。

国家人権機関は、ハンセン病患者・回復者とその家族の人権を守り、促進すること、彼らが直面する様々な人権侵害を調査し、政府に進言すること、国内関係者や市民社会と協力して継続的な啓発活動と一般向けのキャンペーンを行うことなど、重要な役割を担う強力なパートナーとなってくれるでしょう。非常に心強いことに、国家人権機関は既にNGOや政府と協力し、世界中の多くの国で活動を行っています。ここインドネシアでも国家人権委員会はPerMaTaと協力し、ハンセン病を取り巻くスティグマや差別に対する啓発のために様々なキャンペーンを実施していると伺っています。

私はこうしたイニシアチブが、さらに世界中に広がっていくことを心より期待しています。変化を起こすには長い時間と多大な努力を要しますが、固い決意を持った人々が集まれば、ハンセン病患者・回復者を社会から隔離している高くて、厚い壁を壊し、ハンセン病患者・回復者に対するスティグマや差別のない社会を築くことができると確信しております。