第4回ハンセン病と人権国際シンポジウム

モロッコ・ラバト

本日は各国政府、国連、NGO、その他の国際機関、人権専門家、回復者のリーダーの皆さまにお集まりいただき、ありがとうございます。日頃からハンセン病制圧活動のために多大なるご尽力をくださっているモロッコ保健省の皆さま、WHO関係者の皆さまに心より感謝申し上げます。また、潘基文国連事務総長、ダライ・ラマ法王からはハンセン病を取り巻く差別の問題に対して心強いメッセージをいただき、厚く御礼申し上げます。

今回は第4回目のハンセン病と人権国際シンポジウムです。ハンセン病は人類の歴史の中で最も誤解され、差別を受けてきた病気のひとつとして知られています。何世紀にもわたり、世界各地で、ハンセン病患者・回復者は故郷を追われ、人里離れた村や島に隔離されていました。そして、その差別はハンセン病患者・回復者本人だけではなく彼らの家族にまで及びました。

1980年代になると、多剤併用療法(Multidrug Therapy:MDT)という有効な治療法が開発され、1990年代後半からは、世界中どこでも無料で薬が手に入るようになり、多くの人々が病気から解放されました。また、早期発見・早期治療が的確に行われれば、障害が出る前に病気を治すことができるようになりました。このように医療面では突破口が見つかったにも関わらず、長い間、ハンセン病患者・回復者を苦しめているスティグマや差別は残ったままです。

私は40年以上にわたり、ハンセン病制圧活動で世界各地に足を運ぶ中で、多くのハンセン病患者・回復者に出会いました。社会からの差別を恐れてコロニーを離れることを拒む人々。ハンセン病を患っているということが明らかになってしまったことで、仕事を失ったり、離婚を余儀なくされてしまった人々。差別に苦しむ人々の人生はどれ一つとして同じものはありません。しかし、彼らの過酷な苦しみは世界各国に共通する深刻な問題です。

私はこうした社会の不正と闘わないわけにはいかないと強く感じました。そこで2003年、私はハンセン病を取り巻く人権問題について、国連人権高等弁務官事務所に訴える決意をしたのです。各国政府やNGO、関係者の皆さまの粘り強く、誠意あるご協力により、7年の歳月を経て、2010年12月、「ハンセン病差別撤廃決議」が国連総会の総意をもって採択されました。この国連決議は、ハンセン病との闘いにおいて非常に大きな一歩でした。国際社会はこの時はじめて、ハンセン病患者・回復者の見過ごされてきた人権問題や彼らに対するスティグマや差別をなくすことの重要性について認識したのです。さらに重要なことは、この国連決議により、ハンセン病患者・回復者が他の人々と同様に自分にも基本的な人権があることを自覚できたことでした。

本決議は、各国政府等に対し、「ハンセン病差別撤廃決議」と原則及びガイドラインに十分な考慮を払うことを求めています。原則は、ハンセン病患者・回復者が病気を理由に差別されることなく、人としての尊厳と基本的人権・自由を有することを謳っています。そして、ガイドラインは、各国の取り組むべき具体的な指針を示しています。例えば、差別的な法律や制度の撤廃や出版物から差別的な表現を取り除くことなどです。

しかし、国連決議には法的拘束力がありません。国連決議と原則及びガイドラインは、実際に社会の中で適用されなければ何の意味も持たないのです。つまり、現状は何も変わらず、ハンセン病患者・回復者に対するスティグマや差別はそのまま残り、彼らは厳しい差別に苦しみ続けることになってしまうのです。

そこで、私は国連決議と原則及びガイドラインを各国政府、政策立案者やその他の関係者に広く浸透させ、社会の中で確実に適用されることを目的に、世界の5つの地域において「ハンセン病と人権国際シンポジウム」を開催するに至りました。すでに、ブラジル、インド、エチオピアにおいてシンポジウムを開催しました。ブラジル会議の後、国際ワーキンググループが発足し、各国で原則及びガイドラインを実行してもらうための具体的な行動計画を練っているところです。

ハンセン病患者・回復者を取り巻く多くの問題は、社会のハンセン病に対する誤解や無知に起因しています。ここ、中東地域においても、ハンセン病は未だに恐怖の対象となっています。ハンセン病は感染率の高い病気であるから、彼らを排除しなければならないという誤った認識をしている人もいます。

では、どのようにすれば、差別のない社会をつくることができるのでしょうか。原則及びガイドラインにも明記されていますが、ハンセン病患者・回復者やその家族の人権や尊厳を尊重するためには、各国政府がNGO、市民社会、メディア、ビジネスセクターなど様々なステークホルダーとの連携を通じて、政策立案や行動計画の作成に取り組み、社会の認識を変えていくことが不可欠です。先ほど申し上げたように、現在、国際ワーキンググループがこのモデルとなり得る行動計画を策定中です。この地域においては、特に、女性の役割と歴史保存をより重要な課題と捉え、この後のセッションで取り上げます。こうしたことについて、モロッコ政府がコミットメントをくだされば、今までにないような大きな一歩を踏み出せることでしょう。

このシンポジウムで闊達な議論がなされることで、中東地域における具体的な取り組みがはじまる契機となることを願っています。