国際ワークショップ「変化する北極の海洋安定化、安全保障、国際協働の確保」

帝国ホテル

ジェイソン・P・ハイランド首席公使在日米国大使館首席公使、ダニエル K・イノウエ・アジア太平洋安全保障研究所(The Daniel K. Inouye Asia-Pacific Center for Security Studies :DKI APCSS)のダニエル・リーフ所長、会場の皆さま、おはようございます。

日本財団と海洋政策研究所(Ocean Policy Research Institute:OPRI)はNGOとして、北極海航路に関する研究を行い、長年にわたり、このテーマに関する国際会議を開催してきました。この度、米国が北極評議会の議長国を引き継いだこの年にDKI APCSSと共にこのような国際ワークショップを開催できることを大変光栄に思います。

これから3日間のワークショップでは、北極海に関する様々なテーマのもと、自由闊達な議論が展開されることでしょう。ワーキングセッションでの議論が我が国をはじめアジア諸国が北極政策を策定・履行する上でのヒントとなることを期待しています。しかし、最も重要なこととして、この国際ワークショップに参加の皆さまが率直な意見交換をし、北極地域のガバナンスにおいて、さらなる国際的な協力関係を構築するための共通の認識を探る機会となることを願っています。

さて、日本では、来週の月曜日、7月20日は「海の日」です。日本では「海の日」を「海の恩恵に感謝し、海洋国家の繁栄を願う日」という趣旨で祝日としています。7月は「海の月間」でもあり、この機会に北極海について考えることはタイムリーかつ大変意義深いことです。

日本の極地研究には長い歴史があり、科学的にこの地域の理解を深め、地球環境の動向を把握するための取り組みを行ってきました。

さて、日本財団と海洋政策研究所は1990年代はじめから北極航路の研究に関する取り組みを開始しました。当時、ノルウェーの外務大臣が当財団を訪問くださり、「21世紀の挑戦」と呼ばれる北極海航路に関する共同プロジェクトを実施しないかとの打診を受けました。これは、当時の旧ソ連による「北極海航路開放宣言」の機会を捉えてのことであります。私は、非常に時宜を得たチャレンジだと考え、日本、ノルウェー、ロシアとともにこの研究プロジェクトを開始しました。

北極海航路の商業航路化の可能性について研究する「国際北極海航路開発計画」(International Northern Sea Route Programme:INSROP)という学際的なプロジェクトには、14カ国から400人近くもの研究者が参加しました。本日の会議にも当時INSROPに参加していた団体の代表者の方がご出席くださっていることは大変素晴らしいことです。

1993年から1999年まで、INSROPは北極海航路の利用とこの地域の開発についての様々な可能性を検討しました。その結果、INSROPは、北極海航路を国際的に商業航路化するためには、経済的、技術的、環境的な側面からも実現可能ではあるが、これらの3つの側面について多くの解決すべき課題がある、という結論を導き出しました。この研究期間に蓄積された膨大な研究データは海運業界や潜在的な利用者等の関係者と共有され、この分野における研究の基盤となっています。

ご承知の通り、ここ30年の間に北極海を取り巻く環境は劇的に変化しました。気候変動により、北極海の氷はかつてない速さで融け出しています。このような状況の中、世界中の国々が氷の下に隠れているチャンスを掴むための競争に参加しようとしています。

しかし、北極海は新たに深刻なリスクを抱えています。このまま北極海の氷の減少がつつけば、北極海の生態系とそこに住む人々の暮らしを根本的に変えてしまうリスクが高まるだけではなく、地球全体に影響を及ぼすグローバルなシステムまで変えてしまうリスクが高まっていくのです。

たとえば、海流の変化、生態系への影響、地球温暖化などの問題が世界中で予測されています。実際に、地球温暖化による気候変動は世界の海の環境を著しく変えています。日本財団は最近、プリンストン大学、デューク大学、ケンブリッジ大学などの海洋の専門家と共に、気候変動と海洋資源に関する科学的な研究レポートを発表しました。本レポートは、気候変動の影響によって、赤道付近の島嶼国は2050年までに魚資源を60パーセントも失ってしまう事態を招くかもしれないと予測しています。こうした懸念が高まりつつある中、北極海を取り巻く問題は、沿岸国だけではなくユーザー国も責任を持って対処すべき問題となってきています。

2013年に日本を含むアジア諸国が北極評議会のオブザーバー国になったことで、北極海沿岸国ではない国々が議論に参加する機会を得ました。私たちの知識、知恵、そして努力を結集することで、最新の科学的根拠に基づいた研究の可能性を確実にすることができるでしょう。アジア諸国の中には、より積極的な科学研究の開発計画を立案している国もあります。日本は内閣官房内に総合海洋政策本部を設置し、本部長である内閣総理大臣が主体となって取り組んでいます。海洋基本計画の中では、気候変動に伴う北極海で発生する変化に対応するための包括的かつ戦略的な措置をとることの重要性が謳われています。遠からず、日本政府から我が国の北極政策が発表されることを期待しています。

私たちが危機に瀕していることは明らかです。しかし、同時に、できることも多くあると信じています。そのような意味からも、このような国際ワークショップを開催することがますます重要になっていきます。この機会に、北極海の持続可能な管理に向けて、私たちが協働できることを共に探っていきましょう。

日本財団と海洋政策研究所は、NGOとして、この目的のために貢献できることを模索していく所存です。