ノバルティス財団ハンセン病対話イベント「ハンセン病における残り1マイルの道のり:イノベーション・インテグレーション・コラボレーション」
ノバルティス財団のアン・アーツ博士、国際ハンセン病学会理事長のマルコス・ビルモンド博士、ご出席の皆さま。
この度、ノバルティス財団、ブラジル保健省とこの会議を共催できることを大変嬉しく、光栄に思います。私たち日本財団とノバルティス財団は、民間財団として、ハンセン病で苦しむ人々をなくすという共通の目標に向かって、共に闘ってきました。1980年代、多剤併用療法(Multidrug therapy:MDT)が開発され、ハンセン病の治療に転機が訪れました。日本財団は1995年から1999年までの5年間、世界保健機関(World Health Organization:WHO)に5000万ドル提供し、世界中のハンセン病患者に薬を無料で届けてきました。その結果、患者数は大幅に減少しました。そして、2000年以降、私たちの活動をノバルティス財団が引き継いでくださり、ハンセン病の患者をなくすために、今も治療薬の無料配布を行い続けてくれています。日本財団は、ノバルティス財団と共にハンセン病制圧活動に貢献できたことを大変光栄に思います。
多くのステークホルダーの協力と努力により、世界的な患者数の減少を達成することができました。ある意味では、100マイル中の99マイルまで辿りついたと言えるかもしれません。しかし、日本には、「百里の道も九十九里をもって半ばとす(100マイルの道も99マイルをもって半ばとす)」という諺があります。私自身も残りの1マイルの道のりを確実に歩むためには、まだまだやるべきことがたくさんあると痛感しています。
患者数が減少したことで、各国におけるハンセン病の問題がマイナーなヘルスイシューとなっていきました。しかし、ハンセン病がマイナーなヘルスイシューになったことで、必要な資金が調達されなくなり、政治的コミットメントが低下してしまうという懸念があります。現在も14カ国のハンセン病蔓延国において、20万人以上の新患が報告され、ここ5年以上で患者数が横ばいの状況が続いています。
もちろん、データ上、患者数が横ばいの状況が続いている背景として、関係者の努力により患者の早期発見が進んでいることの表れであるともいえるかもしれません。しかし、治療薬が無料であり、早期に発見すれば障害を防ぐことができるにも関わらず、障害が生じてから患者が見つかることに私たちは戸惑いを覚えています。
その理由として、リーチしにくい隠れたホットスポットの存在、病気に関する臨床的な専門知識の喪失、一般の人々の意識の低下などが挙げられます。私たちが今直面している課題は多様化しており、クロスセクターの連携だけではなく、これまで以上のリソースを含めたイノベーティブなアプローチが必要なことは明白です。
さらに、ハンセン病との闘いを続けてきた私としては、差別に対する恐怖が引き起こされるのは、病気の発見と治療が遅れることが一因であると考えています。私はコミュニティから追い出されることを恐れて病気を隠し、障害を生じさせてしまった多くの人々にお会いしてきました。ここブラジルにはMORHANというハンセン病患者・回復者の権利擁護のための活動をしている団体があります。彼らは、ブラジル国内のヘルプラインを設置し、ハンセン病の治療に行けずに悩んでいる人々のために電話やメールでの相談事業を行っています。
この2日間の会議の重要な目標の一つは、これらの重要な課題や障壁となっている問題を特定し、残りの1マイルを確実に歩むために私たちに何ができるか考えることです。ノバルティス財団は「ハンセン病を再びグローバル・アジェンダへ」と呼びかけています。ハンセン病患者は世界各地に点在しており、今尚、グローバルな問題です。さらに、ハンセン病が蔓延していない国においても差別の問題は残っています。ハンセン病を再びグローバル・アジェンダへと戻すことは、すべてのステークホルダーが一致団結し、世界からハンセン病をなくすための残り1マイルを確実に歩むためのスタートラインになるといえるでしょう。
ハンセン病の制圧に向けて、私たちはそれぞれの専門性を活かしてグローバルに取り組んでまいります。私自身は主に次のことに取り組んでまいりました。まず、ハンセン病蔓延国におけるハイレベルサミットで各国のリーダーや団体の方々と直接お会いし、政治的なコミットメントを継続していただくよう働きかけてきました。また、メディアや教育機関を通じて、ハンセン病に関する人々の意識を高めるための活動を行ってきました。そして、日本財団としては、2013年にイノベーティブな事業を支援するための基金をWHOに設置しました。
この2日間の会議で、私たちの役割を明確にし、参加者同士が互いから学び合い、ハンセン病で苦しむ人々をなくすための新たな一歩を踏み出すために、共に取り組める道を探ることができればと願っております。