海と日本PROJECT総合開会式

日本・東京

本日は多くの小学生、中学生の皆さんにお集まりいただいています。私たちは海の日に合わせてたくさんのイベントを計画していますが、この場をお借りして、皆さんと一緒に、目の前に広がる「海」のことを考えてみたいと思います。

現在、この海では大変深刻な問題が起きています。たとえば、私たち日本財団がカナダの大学と共同で行った研究によると、赤道に近い一部の地域では、皆さんがスーパーや魚屋さんでいつも目にする魚が、今から三十数年後の2050年には、今の約半分しか獲れなくなってしまう可能性があることが分かりました。皆さんの食卓に並んでいる魚は、海外の遠い海で獲られたものも多いので、このままでは、皆さんが働き盛りを迎えるころには、魚を使ったお寿司や海鮮丼が、今のようには食べられなくなってしまうかも知れません。これは遠い未来の話ではなく、わずか30年、40年先の話です。

もう一つ、太平洋に浮かぶ「キリバス」という小さな島国のお話をしたいと思います。皆さんの目の前に見える海は、太平洋という大きな海に繋がっています。その太平洋をずっと南東の方角に進んだ赤道近くに、ちょうど日本の対馬と同じくらいの大きさの「キリバス」という小さな島国があります。このキリバスという国では、ここ数十年で、だんだんと海の水が住民の暮らしている陸地に押し寄せてきてしまい、近い将来、島全体が海に沈んでしまうかもしれないと言われています。自分が暮らしている家や学校、そして生まれ育った国が海に沈んで消滅してしまうのです。このままでは、キリバスに住む人たちは、いずれ故郷を離れ、他の国に移り住まなければなりません。島の人たちはどんな気持ちでいるのでしょうか。今、私がお話したことは、海で起きている問題のほんの一例です。海ではこのような変化がたくさん起きているのです。

本日スタートする「海と日本PROJECT」は、日本の子どもたちや若い皆さんに、海で今さまざまな変化が起きていることを知ってもらうきっかけになればという思いから生まれました。そして私たちがいかに海の恵みを受けながら生きているのかを実感して欲しいと思っています。このプロジェクトの中には、普段目にすることのない大型船に乗って、船の仕組みや船員さんの仕事を学ぶ見学会、海岸でのゴミ拾いを通じて海の環境を考えるイベント、海の底に眠っているまだ知られていない資源について学ぶ体験プログラムなど様々なものがあります。皆さんには興味を持ったイベントに参加して、海の面白さや可能性を感じてもらいたいと思います。そして皆さんの中から、将来、私が先ほど話したような海に起きている問題について深く知りたい、解決に取り組んでみたいと思う仲間が誕生してくれたら、これほど嬉しいことはありません。

今年も多くの関係者の方々のご協力をいただき、日本の海の未来を担う子どもたちを主な対象とした130を超える多彩なプログラムが全国各地で実施されます。いくつかの地域では、すでに海に親しむ体験型のイベントなどが開催され、子どもたちが楽しみながら、学んでいる様子もご報告いただいております。このプロジェクトは、昨年より日本政府や全国の自治体、NPOや企業など様々なセクターの皆さまと一体となり、オールジャパンで推進してまいりました。国の政策において「海洋」を重要な柱と位置づけられている日本政府の皆さまと私たちは「海に守られた日本から、海を守る日本へ」という認識を共にしています。

海で起きている様々な問題に対して、日本が世界でリーダーシップを発揮し、「世界の海を守る日本」へと進化を遂げられるよう、共に進んで行きたいと思います。この「海と日本PROJECT」がそのきっかけになればと願っています。