世界銀行(WB)/世界保健機関(WHO)2016年春季大会「影の外へ:メンタルヘルスをグローバルな開発の優先事項に」ハンセン病制圧活動から得られる示唆とメンタルヘルスへの応用

米国・ワシントンD.C.

今回、主催者から、このシンポジウムへの出席のご依頼を受けた時、私はメンタルヘルスの専門家ではないので、この場にふさわしくないのではないかと思いました。しかし、私が長年携わってきたハンセン病へのアプローチを参考にしたいとのことだったので、自分の経験が役立てばと思い、出席させていただくことにしました。

私は40年以上にわたり、ハンセン病制圧活動に取り組んでおり、2003年からWHOのハンセン病制圧大使として活動しております。

ハンセン病は、古くから呪いや神の罰と恐れられ、世界各地で患者や回復者に対する隔離政策が行われていました。

19世紀後半、ハンセン病はある種のバクテリアによる感染症であることが判明し、20世紀後半には、投薬による有効な治療法が確立されました。

こうして、それまでのハンセン病に対する人々の認識は誤解であることが証明されたはずでした。しかし、多くのハンセン病患者を抱える開発途上国を中心に、ハンセン病は現在も未だに公衆衛生上の問題であり、病気に対する誤解や当事者への差別は続いています。

ハンセン病は、簡単に伝染する病気ではありません。生命を直接脅かす病気でもありません。その結果、差し迫った問題として顕在化せず、国によっては政策上の優先順位が低く、保健政策の中にきちんと位置づけられていません。加えて、ハンセン病の専門家はほとんどいません。

本日は、ハンセン病制圧のための私の3つのアプローチについてお話したいと思います。政治指導者に直接働きかけること、ハンセン病の普及啓発に努めること、コミュニティを巻き込むことです。

まず1つ目に、政治指導者に直接働きかけることは、ハンセン病の制圧に対してその国のコミットメントを取り付ける上での鍵になります。私はWHOハンセン病制圧大使として蔓延国を訪れ、政治指導者と面会するようにしています。ハンセン病の問題の深刻さを説明し、解決することの重要性を説いて、政策上の優先順位をより高めてもらうよう求めています。このアプローチが功を奏し、いくつかの蔓延国において、ハンセン病対策の予算が増やされ、この問題に国を挙げて取り組んでもらえることにになった例もありました。

2つ目は、普及啓発に努めることです。私は、この病気が、「治ること」、「差別は不当であること」をより多くの人に知ってもらうことが重要であると考えており、メディアはその中心的な役割を担います。ハンセン病は多くの地域でタブー視され、メディアで大きく取り上げられることはほとんどありませんでした。言い換えれば、影に隠れていた問題だったのです。そこで私は、ハンセン病の回復者に対し、彼らの経験や、彼らが苦しんできた差別と誤解についての話をしてもらえないかと働きかけるようにしています。その経験が共有されることで、より多くの人たちがハンセン病について知ることにつながるからです。このように、私は影の中に隠れていたハンセン病に光を当てようとしています。

3つ目のポイントは、地域を巻き込むことです。ハンセン病は、早期発見・早期治療が非常に重要です。ハンセン病患者の中には、病気に関する基本的な情報を知らなかい人たちや、病気に伴う差別の恐れなどから受診をためらう人たちがいます。その結果、症状を悪化させてしまうこともあります。さらに、地域の中にハンセン病の専門医がいない場合も多くあります。ハンセン病の疑いがある人たちが迅速に診察を受けられるよう、コミュニティ全体を巻き込んだ活動を行うことが効果的です。例えば、インドのある地域では、同じ地域に住むハンセン病経験者が、ハンセン病患者や回復者同士の自助グループを作る手助けをしています。こうしてできた自助グループは、地域でハンセン病と疑われる症状の人がいたら、その人を適切な医療機関に紹介するという活動を行っています。彼らは医師でも医療スタッフでもありませんが、同じ経験者だからこそわかる初期症状にいち早く気づくことができ、治療に行くよう説得することもできます。

このような地域に根ざした活動は、未治療の患者を早期に治療に結びつける上で大きな成果を上げています。私は、専門家であるか否かに関わらず、地域の人たちが協力することが、潜在的な患者の発見と、その後の治療やケアにつながることを学びました。

本日は、ハンセン病の制圧における私のアプローチとして、政治指導者に直接訴えること、普及啓発活動を行うこと、コミュニティを巻き込むことについてご紹介させていただきました。この中には、メンタルヘルスに通じることもあるかもしれません。私の話が少しでもお役に立てばと思います。