グローバル・アピール2017 宣言式典 ~ハンセン病に対するスティグマ(社会的烙印)と差別をなくすために~

インド・ニューデリー

私がハンセン病との闘いの旅を始めたのは、今から40年ほど前になります。そのきっかけは、あるハンセン病病院で患者の人々に出会ったことでした。患者たちはベッドに横たわっているだけで、何の感情も示していませんでした。彼らは、生きる希望を失っているように思え、私は大きな衝撃を受けました。

その時私は、ただ立ち尽くし、彼らを見つめるだけで、何もできませんでした。自らの無力さを感じました。

私はこの訪問と、そこで目にしたことを決して忘れることができませんでした。そして、私は、彼らの苦しみを和らげるために何かできることはないかと思うようになりました。

その後、多剤併用療法(Multi-Drug Therapy: MDT)という治療法が確立し、ハンセン病が完治するようになると、1990年代に私は、日本財団の代表として、薬を無償で提供することを決めました。その結果、ハンセン病患者は大幅に減少し、ハンセン病を制圧するという望みが見えてきました。

しかし、ハンセン病コロニーで私が見た状況は、期待していたものと全く異なるものでした。病気から治った人は他に行き場がなく、コロニーに住み続けなければならない状況でした。ハンセン病回復者に対する差別は未だに根強い問題であったのです。

このことは、私にとって無視することができない問題でした。そして、「ハンセン病による差別のない世界を目指す」ということが、この旅の新たな目標になりました。

2006年、日本財団は、ハンセン病の差別は不当だというメッセージを世界に発信しました。以来毎年、このグローバル・アピールを、医療や看護の専門家や、次世代を担うビジネスリーダーなど数々のパートナーの皆さまと共同で発信してきました。

今年は、列国議会同盟(Inter-Parliamentary Union: IPU)がこの旅に加わってくださり、グローバル・アピール2017を共に発信してくださることを大変心強く思います。

IPUは、170カ国以上の立法府の代表からなる国際組織です。このグローバル・アピール2017のメッセージの中で、IPUは、ハンセン病患者や回復者に対する非差別的な法律を制定し、そのような法や政策の施行を進めることを表明されています。

実は、ハンセン病患者や回復者への差別を撤廃するということは、世界の国々がすでにコミットメントを表明していることでもあります。

2010年、国連総会で「ハンセン病患者、回復者とその家族に対する差別撤廃決議」が193カ国全会一致で採択されました。加盟各国が、ハンセン病回復者の人々への差別の撤廃と、彼らの人権を促進し、守り、尊重することに賛同したのです。

この決議に賛同した国の議員である皆さまには、この決議を実践し、ハンセン病の差別を撤廃するために、今、大きな役割を果たしていただけると信じております。

一つ、すばらしい事例をご紹介しましょう。ここにいらっしゃるIPU議長のサベル・チョードリー氏は、バングラデシュで100年以上続いた差別法の廃止にご尽力されました。詳細については、後ほどご本人からお話を伺えると思います。

もう一つご紹介したいのは、ここインドにおける事例です。何人かの議員が立ち上がり、ハンセン病患者、回復者とその家族の権利の擁護、尊厳の回復、そして生活、福祉の向上などのために、ハンセン病問題に関する国会議員連盟を結成されました。この連盟には現在、約50人の議員が加盟しています。

今回、IPUの皆さまと共に発信するグローバル・アピールを通じて、このような活動に弾みがつくと共に、他の国にも波及することを期待しています。

これまで私は、世界中のハンセン病コロニーを訪問する中で、差別に屈せずに人生を送ろうとする多くの人に出会ってきました。

少年時代にハンセン病を患って以来、70年以上もの間、ハンセン病療養所で暮らし続けているある人は言いました。

「自分はひどい差別を受けてきたが、私を差別してきた人たちを、私は赦したいと思う。彼らを赦すことで、自分の人生は豊かになると信じているから。」

彼のような人々の言葉を通して、私は、どんな過酷な状況においても屈しない、人間の強さを知りました。

また、コロニーを訪問する中で、自分たちも希望をもっていいのだと、今は信じることができ、一歩一歩前に進んでいる人々にも出会いました。

そして、自信を持てるようになった人たちの笑顔に接するたび、彼らのような力強い人たちがいるということを、そして今変化が起きているのだということを、もっと多くの人に知ってもらいたいと考えるようになりました。

本日、こちらの会場には、多くの回復者の方々にもご参加いただいています。何人かの方には、午後のラウンドテーブルでお話しをいただきます。

また、多くのメディアの方々もご参加いただいております。みなさんは、過去に何が起こり、今、何が起こっているのか、一般の方々に伝える重要な役割を担っております。

私は、本日ここにいらっしゃるすべての皆さまの積極的なご参加が、グローバル・アピールのメッセージをより広く伝えていただくことにつながると期待しています。

私はハンセン病との闘いの旅を40年以上続けてきました。

この旅を、多くの同志、各国政府、国際機関、NGO、これまでグローバル・アピールに賛同してくださった方々、そして何より、ハンセン病患者、回復者の皆さまと共に歩んできました。

私たちはここまで来ることができました。ハンセン病の制圧まで最後の1マイルというところまで来ているとも言われています。

しかし、この旅はまだまだ終わりません。

私たちは、ハンセン病患者や回復者に対する差別のない社会の実現に向けて、取り組まなければなりません。

それが私たちの最終目標です。そして、この旅にロードマップはありません。

その道はより険しいものになるかもしれません。

しかし、多くの旅の仲間や支持者の皆さま、そして今日この旅に加わってくださる皆さまと共に、私たちは道を拓いてゆけるでしょう。私たちはこれからも、ハンセン病との闘いを一歩一歩、前進していきます。