第20回国際ハンセン病学会

フィリピン・マニラ

フランシスコ・デュケ・3世・フィリピン保健大臣、ロック・クリスチャン・ジョンソン国際ハンセン病協会会長、ご参加の皆さま。
第20回国際ハンセン病学会で再び皆さまにお会いでき大変嬉しく思います。

この病学会は、医師や医療従事者のみならず、NGOやハンセン病回復者という多様なステークホルダーが参加する大変ユニークな学会です。世界には数多くの学会がある中で、その病気を経験した当事者が積極的に参加できる学会は、おそらく国際ハンセン病学会だけでしょう。国際ハンセン病学会の皆さまのたゆまぬご活動に心より敬意を表します。

今から40年前、私は父、笹川良一に伴って、初めてハンセン病の療養所を訪れ、ハンセン病患者たちに出会いました。それまで、私は健康な生活をしていましたので、彼らのように病気の苦しみと闘っている人がいることを知り、大きな衝撃を受けました。

彼らは家族から捨てられてしまった人たちでした。
彼らは社会から隔離されてしまった人たちでした。
彼らは自由も奪われてしまった人たちでした。

すべてハンセン病が原因でした。

父は、重い障害のあるハンセン病患者の手を握り、言葉をかけ、抱きしめ、そして号泣しました。それは私が生まれてはじめて見た父の涙でもありました。彼らに真摯に向かい合う父の姿を見て、胸に熱い想いがこみ上げてきました。その時、私は人生を捧げて父の活動を引き継いでいかなければならないと決意したのです。

以来、世界各地で私のハンセン病とそれにまつわるスティグマ(社会的烙印)と差別をなくすための闘いの活動がはじまりました。私の闘いにおける武器は、情熱、継続、そして忍耐です。私の「闘いの現場」には、問題点と解決策があります。私は、アフリカのジャングル、不毛の砂漠、アマゾンの奥地など世界中の僻地を訪ね、数え切れないほど多くのハンセン病患者、回復者に会ってきました。今、私は80歳ですが、この40年間で世界120の国と地域を訪問しました。

「一人でも多くの人にMDT(Multidrug Therapy:多剤併用療法)を届けたい」
私は、多くの現場を訪れ、患者に会う中でこのような想いにいたりました。この想いから、日本財団は、1994年にベトナム・ハノイにてWHOと第1回国際ハンセン病会議を共催しました。その会議の場で、私は日本財団として5000万ドルを拠出して、MDTを全世界で5年間無償配布することを正式に発表しました。その結果、5年間で332万人の患者が治療されました。2000年以降は、ノバルティス製薬が協力してくださり、今もMDTの無償配布が続けられています。この場をお借りして、ノバルティス製薬に心より感謝申し上げます。

私は、明るい未来が訪れると自信を持っていました。しかし、当初思い描いていたのとは全く違った状況でした。薬は無料なはずなのに、患者は治療をしていませんでした。さらに、発見されていない患者も数多くいました。

私は、病気さえ治れば全てが解決すると単純に思っていました。しかし、私は間違っていました。ハンセン病は治るようになっても、社会に感染してしまった偏見や差別といった病気を治せる薬はなかったのです。

ハンセン病患者、回復者は家族から引き離されていました。
彼らは学校に通えなくなってしまいました。
彼らは仕事を失ってしまいました。

ハンセン病というだけで、彼らは差別に苦しんでいました。差別を恐れ治療を受けず、症状が進んでしまっている人も多くいました。私は、ハンセン病は、単純な医療の問題ではなく、明らかに人権問題であるということを認識しました。

私は、グローバルな課題が議論され、加盟国によってアクションが提案される国連に、この問題を訴えることを決意しました。2003年、私ははじめて、ジュネーブの国連人権高等弁務官事務所を訪問し、ハンセン病を人権問題として扱ってほしいと説明しに行ったのです。しかし、私が落胆し、驚いたことに、ハンセン病はこれまで一度も人権問題とし認識されたことがなかったのです。その後何度も足を運ぶうちに、国連人権理事会の職員に向けた説明会の機会を得ることができました。

しかし、はじめての説明会にはたったの5人しか出席しませんでした。当時のハンセン病問題への関心の低さを物語る結果となりました。次いで、ジュネーブにて人権セッション会期中に日本財団は複数回説明会を開催しました。多くの人の関心を集めるため、軽食を配るという方法で私たちの発表を聞いてもらおうと試みました。しかし、彼らは無料の軽食を手に取ると、足早に立ち去ってしまいました。定員50人ほどの会議室に、やって来たのはたったの10人でした。

しかし、私は決して諦めませんでした。私たちは、7年もの間、試行錯誤を繰り返しながら、懸命に取り組んできました。その間、多くの影響力のある方々が私の協力者となり、ついに、2010年12月、国連総会で、ハンセン病差別撤廃決議が全会一致で採択されました。この出来事は、私たちを大きく後押ししてくれました。

私はどの国を訪問する時も必ず、その国の指導者に面会することにしています。ハンセン病の問題を解決するためには、トップの理解と協力が欠かせないからです。彼らの協力が得られなければ、ハンセン病制圧と差別撤廃に取り組むための予算を確保することができないからです。

今年7月にブラジルを訪問した際、ボルソナーロ大統領に会い、ハンセン病制圧と差別撤廃のための私の活動に対し、多大な協力をいただきました。私は大統領に、「ブラジルは世界で2番目にハンセン病患者が多い。ハンセン病に対してさらなる努力をお願いしたい」と訴えました。すると大統領は「では、今すぐ一緒に国民に呼びかけよう」と、自分のスマートフォンを取り出し、フェイスブックでライブ配信を始めました。その配信の中で大統領は、ハンセン病対策はブラジル政府が取り組むべき課題であり、私と一緒に取り組んでいくつもりだと強く主張されました。私は、「ブラジルのハンセン病をゼロにしよう」と、早期発見の重要性を強調しました。この13分あまりの動画は再生回数が70万回を突破し、数え切れないほどのコメントが寄せられました。このように国の指導者が私たちの活動に協力してくださるのは大変心強いことです。

私は、あらゆる病気の中で回復者がこれほど活躍している病気は他にないと考えています。私は2006年、インドの回復者組織の立上げ支援しました。これまで、世界中のハンセン病回復者の皆さまと共に闘ってきました。世界各地にハンセン病回復者が中心となって活動している組織が数多くあります。彼らのたゆまない努力のおかげで、私たちの活動の歴史の新たな章を開くことができると信じています。

回復者組織の重要な役割は、3つあります。一つ目は、各国に残る差別法の撤廃など、回復者たちを苦しめているあらゆる社会的制約の解消です。二つ目は、回復者の生活レベルの向上です。三つ目は、ハンセン病は治る病気である、薬は無料である、差別は不当だ、と社会に訴える啓発活動です。本日、ご参加の回復者組織の皆さんたちは、こうした3つの重要なミッションの遂行に尽力されています。

日本財団と笹川保健財団は、昨年から、アジア、アフリカ、ラテンアメリカで、各地域の課題や解決策を議論するための回復者組織が集まる地域会合を連続で開催してきました。

そして、土曜日から本日まで、その総決算である「ハンセン病回復者組織グローバル・フォーラム」を開催しました。世界23カ国から60名以上の回復者が参加し、これまでにない大規模な会合となりました。また、実務的なトレーニングを充実させ、参加者にも実りのあるものになったのではないかと思います。後ほど、CLAP(Coalition of Leprosy Advocates of the Philippines)のジェニファーが、参加者を代表して、このフォーラムの成果について発表する予定です。皆さまには、ぜひ回復者の声に耳を傾けていただきたいと思います。そして本日はこの会場に、23カ国の回復者組織の代表者の皆さまがいらしています。どうぞご起立ください。皆さま、彼らに大きな拍手をお願いいたします。

これまで、ハンセン病の「制圧」(elimination)に向かって、多くの関係者が努力を続けてきました。私の活動において、ハンセン病の「制圧」は重要なマイルストーンだと考えています。このような中、「Global Partnership For Zero Leprosy」という様々な関係者が参画する新たなネットワークが立ち上がったことを心より歓迎いたします。このコラボレーションは、「ゼロ・レプロシー」の実現に向けた取組みを大きく前進させるでしょう。

このことを考えますと、私は、ハンセン病が顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases:NTDs)の一つとして扱われていることに反対の立場であることを表明いたします。ハンセン病は、患者や回復者自身にとって、そして、患者のために尽力している人にとって、一日たりとも顧みられない病気ではありません。このNTDsという医学用語は、患者を見下している言葉であり、日々ハンセン病問題に取り組まれている方々にとっても失礼にあたると考えています。

ハンセン病は現在進行形の問題です。

本日ご参加の医療従事者の皆さまには、ハンセン病の感染経路の究明や予防ワクチンの開発、そして、障害のある方の義手義足の開発に、引き続きご尽力をいただきたく、お願いを申し上げます。グローバリゼーションと人の移動に伴い、以前はほとんど新規患者がいなかった国においても、新規患者が発見されています。どの国も例外ではありません。
しかし、最近は世界中でハンセン病の医療専門家が急激に減少しています。

最後になりますが、特にハンセン病専門医の皆さまには、ぜひハンセン病の診察と治療の知識と技術を持つ後継の育成にご尽力いただくことをお願いしたいと思います。

さあ、皆さま。

「ゼロ・レプロシー」という人類の歴史的な課題に向かって、一致団結していきましょう!

ありがとうございました。