日本財団ネレウス海洋科学会議

米国・プリンストン

ご紹介、ありがとうございます。みなさま、おはようございます。
本日は、海の未来について情熱的に研究を進めている皆さまが一同を会する場に立つことができて、大変嬉しく思います。

日本財団は60年前に父、笹川良一が海事産業の発展と多分野における人材育成のために発足しました。海洋に間する高等教育及び研究は国連や世界海事大学とともに実施してきましたが、これまでに134カ国から1300以上の卒業生を輩出してきました。

私は海に強い関心を持っており、9年前にフィリップ・キュリー教授の本が私の目に止まりました。この本を貪るように読み、その結果、海が直面している大変な危機に真っ向から対峙しなければならないという強い刺激を受けました。海事と海洋に貢献する財団として、この深刻な状況に対しての強い責任を感じ、設立当初から守ってきた日本財団の原則に基づき、早急にこの考えを行動に移しました。そして2011年に、わずか一年足らずでこのネレウスプログラムは、未来を予測するという前例のない取組として誕生したのです。この貴重な取組への呼びかけに応えて下さった才能にあふれる皆様方と、この8年間、ともに仕事ができたことを誇りに思っています。

プログラムの成果は、目を見張るものがあります。約300本の論文、世界各国のメディアで取り上げられた記事、また国連をはじめとする国際会議での発表など、調査研究において常に世界の先端を走ってきました。もちろん、今回出版した本は、その集大成と言えるでしょう。

しかし、それ以上に、価値があるのは、このプログラムを進めるなか構築された、優秀な頭脳と海への情熱とエネルギーを持った人々によるグローバルなネットワークです。今後の「海の未来」を先導するこのグローバルなネットワークは、人類にとって大きな成果の一つではないでしょうか。わたしたちはこのネットワークを次世代に引き継ぐ責任があると自覚しています。

この8年間、ネレウスは海洋について科学的知見に基づく様々な警告を発してきました。皆様御存知の通り、17世紀に「自由海論」を提唱したオランダの法学者グロティウスは、海の自由な航行と利用を訴えました。しかし、今日、世界人口が70億に達し、更に増え続け、そして海洋環境が急速に悪化する中でも、まだ17世紀の考えを主張している声に、私は憤りを感じています。いまこそ、国際社会は共通の認識に基づいた協力態勢を確立する必要性を認めなくてはいけないことは明白です。海水温の上昇や酸性化対策、漁業資源の保全など、国連を中心に国際機関は様々な基準を設けてきました。しかしながら、このような取組は断片的で、統一した法的拘束力のある体制がないことによって、上記のような努力は効果が薄れ、効果的な対策の開発も阻害し、最終的には人間の存続にも甚大な結果を及ぼしています。

国連加盟国は現在、193カ国ですが、「母なる海」は一つです。国際社会は今こそ結束して行動を起こさなければなりません。我々は、“母なる海”からの悲鳴をこれ以上無視してはなりません。皆様の秀でた論文の集大成である「海の未来を予測する」は、発言力のある世界の人々の良き教科書として、そして海の危機の背後にある、科学的根拠を説明するための強力なツールになると確信しています。人間の存続は海の未来の予測に対して、我々が取るべき行動に依存しています。私はこの会議こそが、この取るべき行動の第一歩であると思っています。

ネレウスフェローの皆さん、各大学の先生方、そしてご協力いただいた研究者、学生の皆さん、この8年間に渡る大きなプロジェクトを完了まで導いて下さり、感謝申し上げます。特にネレウスを率いて下さった教授陣、ディレクターであるチャング先生、そしてプログラム当初から完了までの大役を務めて頂いた太田先生に、心から感謝を申し上げます。

みなさん、ネレウスフェローシッププログラムは完了します。しかしながら、みなさんが築き上げたネットワーク、そして我々が得た「海の未来」の知見を活かす重要な仕事が残っています。私たちはネレウスプログラムによって、「未来に何が起こりえるか」、を理解しました。人類がそれにどのように適応し、行動すべきかを示すこと、そして世界を変える切っ掛けを作ることが次の大きな仕事になるでしょう。その重要な仕事にはこのネットワークを発展・拡大させること、そして新たなキャパシティを生み出すことが必要だと理解しています。

次のステップとして、私達はこのネレウスプログラムによって構築されたネットワークを引き続きサポートし、そして新たな学際的なグローバルなプログラムに挑みます。

みなさま、今を生きる我々には千年先の人類に健全で美しい海を引き継ぐ責務があります。私はまだ80歳の青年です。人間は成長年齢のピークの25歳の4倍から8倍生きると父は言いました。父は残念ながら96歳で、天国に用事があると言って、行ったまま、まだ帰ってきていません。単純計算をすると私には、まだ20から120年の余裕があるのですから、引き続きみなさんとともに、海の将来のために一歩一歩、歩き続けることを約束します。

ご清聴ありがとうございました。