バチカンにおけるハンセン病国際シンポジウム ~誰も取り残さない社会の実現~

於:バチカン

聖職者の皆さん、お集りの皆さん。

はじめに、フランシスコ教皇台下におかれましては、これまでも世界ハンセン病の日に合わせ声明を発表下さっていることに感謝申し上げると同時に、本日は、フランシスコ教皇台下をはじめとするバチカンの皆さんのハンセン病に対する格別の協力を賜り、2016年以来2回目となるハンセン病国際シンポジウムをバチカンで開催できることを嬉しく思います。また、本シンポジウム開催に協力頂いたみなさんに感謝申し上げます。ハンセン病と病気にまつわる差別のない世界の実現に向け、現状と課題について大いに議論いただけることを期待しております。

また、昨年末にベネディクト16世名誉教皇台下が崩御されたことに、衷心から哀悼の意を表します。ベネディクト16世名誉教皇台下は、ハンセン病患者のケアに人生を捧げたダミアン神父を聖人に列する決定をされるなど、ハンセン病にも深い理解と同情を示してくださいました。ベネディクト16世名誉教皇台下の功績に心からの敬意を表します。

ご承知の通り、ハンセン病は最古の感染症の一つです。今では薬を服用すれば完治する病気となりましたが、ハンセン病の特徴として、罹患しても痛みも熱も伴わないため、なかなか病院へ行かず障害が発現してしまう患者が沢山いることを私自身世界中の現場で見て参りました。ハンセン病には早期発見・早期治療が何よりも重要ですから、ここにお集まりのWHOをはじめとする医療部門の方々には積極的に患者を見つけ、治療につなげる活動を引き続き強力にお願いしたいと思います。私自身、引続き皆さまと共に、現場を訪れ、早期発見・早期治療に向けた活動に尽力して参ります。

一方、ハンセン病は病気自体が完治してもなお、患者、回復者ひいてはその家族を苦しめているものがあります。それは、「差別」です。ハンセン病患者、回復者に対する差別の歴史は長く、根深く、そして現在進行形の問題です。古くは神罰・業病と言われ、感染すれば社会、友人、そして家族からも捨てられ、隔離されました。ハンセン病に対する差別法と呼ばれるものすら未だに残っている国もあります。また、偏見と差別の中で困難な生活をされている患者そして回復者の中には「自分たちに人権があるのか」といったセルフ・ディスクリミネーションすらもっています。こうした差別は、まさに社会の側の無知や誤解が引き起こした人権問題であると私は考えています。

人権問題としてのハンセン病という観点で、私は7年間国連人権理事会で専門家を説得して2010年の国連総会における「ハンセン病患者、回復者とその家族に対する差別撤廃決議」と「原則とガイドライン」の全会一致での採択に尽力致しました。決議により患者、回復者の皆さんは「自分たちには正当な権利がある」と自信と誇りをもって活動できるようなりました。しかしながら、世界に未だに存在する様々な人権問題の中でも、ハンセン病患者、回復者とその家族を含めると数千万人といわれる人々が世界各国で等しく現在も厳しい差別を受けていることを知る人はごくわずかです。

また、2020年に発生した新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、多くのハンセン病当事者は生計手段を失い、日々の糧を得ることが困難になりました。各国でハンセン病対策事業が中断・遅延したことから、統計上は新規患者数が減少したように見えますが、実際は診断や治療を受けられていない人も多数存在しています。こうした状況に鑑み、2021年に”Don’t Forget Leprosy”キャンペーンを立ち上げ、「コロナ禍においてもハンセン病を忘れるべきではない」というメッセージを世界中に発信して参りました。そしてWHOも「2021-2030 世界ハンセン病戦略」の中で、ゼロ・レプロシーを目指す方針を明示致しました。また、奇しくも、今年はハンセン博士がらい菌を発見して150周年の年であり、ラウルフォレロ氏の提唱によって始まった「世界ハンセン病の日」が70回目を迎える年でもあります。

今こそ、パンデミックで停滞していた活動を加速させ、一致団結してハンセン病と病気にまつわる差別のない世界の実現に向けて協力していく時ではないでしょうか。本会議を通じて、ハンセン病と病気にまつわる差別のない世界、そして誰も取り残さない社会は必ず実現出来ると固く信じ、これからも共に活動していこうではありませんか。ありがとうございました。