Ocean Census開始式典

於: ロンドン

林肇・駐英日本国大使閣下、ルパート・グレイ・Nekton財団会長、お集りの皆さん。本日Nekton財団と共に、海洋の生態系を解き明かし海洋環境を守るという壮大で、夢とロマンに溢れた事業の船出を迎えられたことを嬉しく思います。

日本財団は次世代に豊かな海を引き継ぐため、海の未来を切り開く多様な取り組みに創設以来力を入れて参りました。その取り組みには、150ヶ国から1600名を超える海の専門家の育成や未知なる北極海航路の開拓、海底地形図の作成、無人運航船の開発など沢山の心躍る事業が含まれています。私自身、ジュール・ヴェルヌの「海底二万マイル」を幼い頃に読んだ時、夢とロマンあふれる海に心を奪われました。海底の大冒険、巨大タコとの闘い、見たこともない食べ物・・・など、どれも新鮮な衝撃でした。中でも様々な海洋生物との遭遇は幼い私にとって、未知なる海へ強い好奇心を抱く大きなきっかけとなりました。こうした「未知なる海のことをもっと知りたい」「海の謎を解き明かしていきたい」という気持ちは、84歳の青年となった今一層強くなっています。

しかしながら、既に火星の地形を100%把握しているほど近年の科学技術は驚くべきスピードで進歩しているにも関わらず、実は我々は「母なる海」のことはほとんど分かっていないのが現状ではないでしょうか。特に、海洋生物については全体の10%程度しか把握していないと言われています。こうした海に潜む様々な未知なる生物を発見することがOcean Census事業であります。

こちらの映像をご覧ください。その昔クラーケンと呼ばれた海の怪物がいたことは皆さんご承知の通りですが、クラーケンの正体はダイオウイカであるという説もあります。こちらの映像は深海1000mに潜む体長10メートル近いダイオウイカで、日本のNHKが撮影に成功致しました。こちらは、海洋研究機構が撮影したヨコヅナイワシの映像です。ヨコヅナイワシは数年前に日本で発見された新種で深海2000mに生息する深海のハンターです。次にご紹介するのは、コナス・マグナスというカタツムリで固体自体は300年近く前に発見されています。しかし近年研究でコナス・マグナスの毒が鎮痛剤としてモルヒネよりも1000%強力な成分であることが分かりました。このように、これまで空想に過ぎなかった生物が発見され、また、既に発見されていた生物においても我々人類の生活を一層豊かにする可能性を秘めた新しい生態や特長が判明しています。

Ocean Census事業においてもこうした胸躍る素晴らしい発見があることを心から期待しております。また本事業には、数多くの未知の海洋生物を探査するのみならず、探査によって集められた膨大なデータを解析・管理し、こうした情報を世界中に発信していくという特徴があり、ひいては生物多様性並びに海洋環境の保全にも繋げていきたいと考えております。

御高承の通り、地球の7割を占めるのが海洋です。また、国は200近くに分かれていても、海洋は1つで繋がっており、人類共有の財産であります。人類が共栄していくための最も基本的な要素が海洋であると考えれば、海の謎を解き明かしていく本事業が我々人類の更なる発展のきっかけとなることを願ってやみません。そして、このように壮大で、夢とロマンに溢れた事業は我々日本財団そしてNekton財団だけでは成しえません。是非とも世界各地で活躍する海洋研究所をはじめ、お集まりの皆さんと連携しながら、海の謎を解き明かしていきたいと思います。本日は改めて皆さまと事業の船出を祝えることを嬉しく思います。ありがとうございました。