日本財団×東京大学 海洋プラごみ対策事業人体への影響、“消えた”プラスチックの行方など
世界的にも初めて明らかにされた成果も含め、一挙発表

日時:2022年4月19日(火)14:00~15:00
場所:伊藤謝恩ホール(文京区本郷7丁目3−1 本郷地区キャンパス)

日本財団と東京大学(総長 藤井 輝夫)は4月19日、世界的に増加し続けている海洋プラスチックごみ(以下、海洋プラごみ)の問題に関して、科学的知見を充実することを目的として2019年5月に開始した共同プロジェクトの記者発表会を開催しました。データやエビデンスが特に不足している大きさ1mm以下のマイクロプラスチック、さらに小さいナノサイズのプラスチックの「海域における実態把握」「生体への影響」、そして「海洋プラごみの発生フロー解明と削減管理方策」の3テーマに係る研究成果や、結果から示唆される今後の対策や可能性について発表しました。
発表内容の要点と、関係者のコメントは以下のとおりです。

写真:日本財団×東京大学 海洋プラごみ対策事業記者発表会でのフォトセッションの様子
第二フェーズの開始も発表

テーマ1:海洋マイクロプラスチックに関する実態把握

概要:海に流出したマイクロプラスチックについて、海域における動きや行方に焦点をあてた研究

<海洋中におけるプラスチックの動き>

  • マイクロプラスチック存在量の粒径分布は、海面近くの海水と海底の泥の中で異なります。泥の中には、より小さなサイズのものが多いことから、小さなプラスチック粒子が、一定の法則に基づいて選択的に海水中から除去され、海底に堆積していることがわかりました。
  • 海底に沈む要因は複数想定されるが、動物プランクトンや植物プランクトンなどの作用(プラスチックを誤食した動物プランクトンの糞や死骸が海底に沈降したり、植物プランクトンが出す物質にからめとられて沈降する等の可能性が挙げられます。この点については今後も検証していきます)が影響している可能性があります。
  • 現場海域(対馬周辺)におけるマイクロプラスチックの採取結果と海流のシミュレーションを組み合わせて微細プラスチックの動きを推定しました。その結果、島の東側は、西から東に流れる対馬暖流の島影にあたり、流れてきた粒子はそこに発生する渦状の流れに捕えられてより長く滞留するため、島の東側に劣化が進んだプラスチックが多いという観測事実をシミュレーションによって説明できることがわかりました。

<プラスチックによる海洋汚染状況の推移>

  • 【世界初(実際の海水サンプルから汚染の進行状況を把握できた点)】
    国内(水産研究・教育機構)に保管されていた、日本周辺から北太平洋における過去約70年分(1949年から2016年)の海水サンプル7,000本の中に含まれていた微細プラスチックを分析した結果、1950年〜1980年代まではおよそ10年で10倍というペースで海洋プラスチックごみが増えており、その後も確実に汚染が進行していることがわかった。また、1950年代から最近まで、長期的に徐々に小型のプラスチックの割合が増えてきていることがわかりました。

ポイント

  • 微細化した後に、動物・植物プランクトンの作用で海底に沈むことが明らかになってきた
  • 太平洋におけるプラスチックの汚染状況、汚染は確実に広がっていることが明らかになった
  • サイズや種類によって異なる動き(沈みやすさ・漂流しやすさ)をすることがわかった

結果から示唆されること

より環境負荷が小さいプラ類を製造者・利用者側に提示し、利用・使用を促していく必要がある

テーマ2:マイクロプラスチックによる生体への影響

概要:微細プラスチックが人体や海洋生物に侵入した場合に及ぼす影響を把握・評価する研究

<海洋生物への影響>

  • 海域によっては、増加したプラスチックの粒子濃度が、生物に炎症などの悪影響を及ぼすレベルに近くなっています。例えば多摩川河口の水棲生物(魚や貝類)には、10μm~300μmのマイクロプラスチックが蓄積していることが確認されました。
  • 【世界初(フィールドと室内曝露実験を組み合わせ、両者で観測した点)】
    プラスチック以外の汚染源が少ないと想定される離島(沖縄県座間味島および西表島)において、各島でプラスチック汚染の進んだ海岸とそうでない海岸の、生息生物(オカヤドカリ)へのマイクロプラスチックおよびプラスチック関連化学物質(プラ製造時に添加される難燃剤や漂流時に付着した化学物質)の蓄積を調べた結果、前者では後者より蓄積が進んでいることがわかりました。また、蓄積した化学物質は生物体内での代謝の過程で変化(具体的には、難燃剤が毒性の高い物質に変化し、体内に蓄積する)することがわかり、これについては、室内曝露実験でも確認しました。
  • 補足:プラスチックを摂食した生物の体内に化学物質が蓄積することは、国内外での室内実験においても観測されてきた一方で、「実際の環境中と条件が違い、実際に環境中で起きているのかどうかわからない」という課題がありました。また、フィールドでの生物観測についても、室内実験に比べれば数は少ないものの(例:ベーリング海における海鳥の研究等)調査がなされていますが、これについては「プラスチックの摂食以外が原因となっている」という可能性がありました。今回、室内実験とフィールドの両方で「プラスチックを摂食すると化学物質が摂食した生物に蓄積すること」
  • 【世界初(微細プラスチックは大きさによって海洋生物(貝類)体内の滞留時間が異なることを観測した点)】
    海洋生物(ムラサキイガイ)に微小なプラスチック粒子を暴露する実験を行った結果、粒子の大きさ(1μm~90μm)によって海洋生物体内の滞留時間が異なることがわかった。小さい粒子(1μm)は初期の排出は速いが一定量は長くとどまるのに対して、大きめの粒子(90μm)は初期の排出は緩やかながらいずれすべて排出されることがわかりました。

<人体への影響>

  • 【世界初(人の培養細胞を用いて微細プラスチックを投与し、人体への取り込み経路を明らかにした点。数十nmの微小粒子は血流、一方で数百nmのものはリンパ系に入る)】
    培養した腸管細胞培養系から、数十nmの微小粒子は血流、一方で数百nmのものはリンパ系(リンパ液を運搬する導管ネットワーク)に入ることが判明しました。体内に取り込まれた後は、免疫系細胞にも取り込まれ、その活性化(免疫細胞が異物と認識して対処しようとする)を引き起こしますが、プラスチック粒子が分解されないために、抗原提示(免疫応答の一つ。異物と判断されたもの情報を、他の細胞に伝える反応)を介した獲得免疫反応には至らないと考えられます。しかし、長期の継続的な取り込みによる組織の炎症等の可能性については今後のモニタリングが必要と考えられます。

ポイント

  • 微細化したプラスチックは、人間や生物の体内に取り込まれ、影響を及ぼすことがわかった

結果から示唆されること

「入ったものは排泄物等と一緒に体外に出る」と楽観視できない。長期的なモニタリングと影響評価が求められる

関係者コメント(一部抜粋)

日本財団 会長 笹川 陽平

「今回得られた知見を、世界のルール作りや実社会に役立てていき、海洋プラスチックごみ問題の分野において、日本が世界をリードするきっかけになることを願っています。」

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日本財団会長 笹川陽平

東京大学 総長 藤井 輝夫

「海洋プラスチックごみに関する科学的知見をより一層深め、広めていき、それらの科学的知見が今後講じていく様々な対策に資するものになることを祈念いたします。」

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東京大学総長 藤井輝夫

東京大学との事業について

日本財団は、海洋ごみ対策を目的とした「海と日本プロジェクト・CHANGE FOR THE BLUE」を2018年11月に開始しました。産官学民一体となって、各セクターにおける有力なパートナーと連携しながら、科学的エビデンスやデータにもとづいた海洋プラごみ削減の「モデル」をいち早く構築することをテーマに掲げています。
本プロジェクトの一環として、東京大学と共同で2019年に開始した「海洋プラスチックごみ対策プロジェクト」は、問題解決の基盤となる科学的知見をより充実させるとともに、科学的根拠に基づく正しい情報を、世の中に広く周知することを目指しています。

お問い合わせ

日本財団 海洋事業部 海洋チーム海洋事業部

  • 担当:吉野、高階