国際的な未知の海洋生物探査プロジェクト「The Nippon Foundation-Nekton Ocean Census」始動生物多様性の保全、生命の進化の解明、医療や薬品など科学の発展を促進

日本財団とNekton財団(英国、会長 Rupert Grey)は、国際的な未知の海洋生物探査プロジェクトとなる「The Nippon Foundation-Nekton Ocean Census」の始動を発表しました。

新種の海洋生物の平均発見数は1800年代からあまり変化しておらず、現在記録されている約24万種は全体の約10%程度に過ぎません。発見から登録までの期間は、最短でも1~2年かかり、原始の海に誕生した生命の進化の歴史を紐解く鍵である生物種が発見されないまま絶滅してしまうことが危ぶまれています。

そこで、海の諸問題解決に長年取り組んできた日本財団は、海洋の解明および海洋環境の保全のために海洋探査を推進している英国のNekton財団へ助成し「The Nippon Foundation-Nekton Ocean Census」を立ち上げることとしました。本プロジェクトでは、未知の海洋生物を発見するため、世界中の海域のうち生物多様性が豊富とされているホットスポットを表層から深海まで探査します。また、新種発見から登録までのプロセスを大幅にスピ―ドアップし、数カ月程度で完了させ、最初の10年間で少なくとも10万種の新種発見を目指します。その後、新種の情報を一元的に管理し、誰もが自由にアクセス可能とすることで、海洋生物の多様性保全や進化の解明にとどまらず、環境変化の予測や、遺伝子情報の解析による新しい医療・薬品等のバイオテクノロジーの発展など、様々な分野に貢献させることを目指します。2023年度~2025年度を第1フェーズとし、初年度は400万米ドルの予算規模を予定しております。

日本財団は、本プロジェクトを通して、専門家のみならず一般市民や子ども達にも、未知の海洋生物発見の楽しさやロマンを伝えていき、次世代に豊かな海を引き継ぐための基盤づくりを進めてまいります。

写真
未知の海洋生物探査プロジェクトで協力を決めたNekton財団会長Rupert Grey(右)と日本財団会長笹川陽平(左)(2023/4/27イギリスRoyal Institutionにて)

「The Nippon Foundation-Nekton Ocean Census」の概要

Ocean Censusは、日本財団とNekton財団によって設立された未知の海洋生物探査プロジェクトです。未知の海洋生物を発見するため、世界中の海域のうち生物多様性が豊富とされているホットスポットを表層から深海まで探査します。採取された生物サンプルはプロジェクト本部となるオックスフォードの「Ocean Census生物多様性センター」をはじめ、世界中に設置予定の生物多様性センターで解析されます。また、解析された情報はオープンソースとして一元的に管理され、科学者や政策決定者のみならず一般市民など、誰もが自由にアクセス可能とする予定です。

The Nippon Foundation-Nekton Ocean Census ロゴマーク

すでに大手の海洋財団の一つであるシュミット海洋研究所やREV Oceanをはじめ、22の研究機関、大学や企業と協力・提携を進めており、今後も科学、メディア、ビジネス、市民社会など各セクターとの連携の輪を拡大していきます。

プロジェクトにおける3本の柱

1.各海域の探査

深度によって、ダイバー、有人潜水艇、遠隔操作船(ROV)、自律型海中ロボット(AUV)といった高度な技術を組み合わせ、世界中の海域のうち生物多様性が豊富とされているホットスポットを表層から深海まで探査。Ocean Censusの単独探査だけではなく、研究機関、政府機関、民間企業等によって既に企画されている探査に研究者を派遣する協力調査など、様々な探査手法を通じて、多様なセクターとの協働で探査を推進していきます。また、他団体の探査にポータブル式解析キットを提供し、採取されたサンプルを本プロジェクトのセンターに送ってもらうことで、効率的な情報収集の体制を構築。初年度の新種発見数として4,650種を目標とし、最初の10年間で少なくとも10万種の新種発見を目指します。

2.生物多様性センターでの解析

採取された生物サンプルは、オックスフォードの「Ocean Census生物多様性センター」(本プロジェクト本部)ほか、世界中に設置予定の生物多様性センターに送られ、高解像度での画像化およびDNA塩基配列の決定が行われます。DNAシークエンシングや機械学習などの最新技術を活用するほか、クラウドベースでの分類学者のネットワークを構築することで、最短でも1~2年かかると言われている新種発見から登録までのプロセスを、本プロジェクトでは数カ月程度で完了させることを目標とし、大幅なスピードアップとスケールアップを図ります。

3.海洋生物情報発信による周知啓発

生物多様性センターで解析された情報は、形式を標準化したうえでデジタル化、「Ocean Census Biodiversity System」においてオープンソースとして一元的に管理されることで、科学者や政策決定者のみならず一般市民など、誰もが自由にアクセス可能となります。さらには、探査の途上で得られた映像記録等を通して、オリジナルコンテンツの制作やメディア・SNS上での発信を行い、専門家のみならず一般市民を巻き込んだ形で、未知の生物の発見という海の可能性および生物多様性や海洋環境の把握の重要性を訴求していきます。

期待される成果

2023年3月、公海における生物多様性の保全および持続的な生態系の活用に係る国際協定が国連で合意されたことなど、世界的に生物多様性の保全に注目が集まる中、本プロジェクトで得られる未知の海洋生物の情報は、生命の進化の解明につながるだけではなく、海洋における生物保護区の設置に係る政策への多大な貢献が期待されます。

さらには、新種の海洋生物の発見を通して、海洋情報の刷新による環境変化の予測や、遺伝子情報の解析による新しい医療やバイオテクノロジーの発展など、科学を大きく前進させることが期待されています。一例として、海洋遺伝資源は、多くの医薬品や栄養補助食品の供給源となっており、これまでに海洋生物由来の医薬品は、癌、神経障害性陣痛、COVID-19、HIVエイズ、抗ウイルス剤の治療など13種類が臨床承認されており、さらに24種類が臨床試験中、250種類が非臨床試験中です。海洋遺伝資源を活用することで、病気治療のための新薬の発見や持続可能なバイオプラスチックの特定など、海洋バイオテクノロジー産業の活性化が見込まれます。

記者発表会関係者コメント(一部抜粋)

日本財団 会長 笹川陽平

人類が共栄していくための最も基本的な要素が海洋であると考えれば、海の謎を解き明かしていく本事業が我々人類の更なる発展のきっかけとなることを願ってやみません。そして、このように壮大で、夢とロマンに溢れた事業は我々日本財団そしてNekton財団だけでは成しえません。是非とも海洋研究所をはじめとするここにいらっしゃる多くの皆さんと連携しながら、海の謎を解き明かしていきたいと思います。

Nekton財団 会長 Rupert Grey

Ocean Censusによってもたらされた発見を通じて、政府関係者は海を守り、その資源を最大限に活用するための規制を厳密に定めることができるようになります。とはいえ、可能になるだけであって、確実になされるわけではありません。それは、国家と政府、そして国際機関の仕事です。私は彼らがこの課題に取り組んでくれることを願っています。

(英文)

The discoveries which Ocean Census will make will enable those in government to regulate strictly the manner in which the Ocean is protected and its resources managed to best advantage. Enable, but not ensure. That is for nation-states and their governments and international agencies. I pray they are up to the task.

Nekton財団について

Nekton財団は、2015年に英国の慈善団体として設立されて以来、海洋の解明および海洋環境の保全を加速させるため、海洋探査等を推進しています。

Nekton財団ロゴ

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