【視察報告】ドイツのウクライナ避難民支援:なぜ100万人を超える避難民を受け入れられるのか

写真:ウクライナ・カフェの様子

100万4,000人。ドイツがこれまでに受け入れたウクライナからの避難民の数です。対して日本が受け入れた避難民の数は、2,126人(11月22日現在)。なぜドイツはこんなにも多くの避難民を受け入れることができているのでしょうか。

日本財団は、ウクライナからの避難民の受け入れをきっかけに、将来の難民・避難民の受け入れに向けた制度づくりのための政策提言にも取り組んでいます。その一環で、10月に移民や難民の受け入れの先進国であるドイツの視察を行いました。そこで見えたのは、移民の受け入れに試行錯誤をしてきたドイツの経験、そうした経験を通して作られてきた「外国人を社会の一員として受け入れる」ための制度でした。

この記事では、冒頭の問いへの答えとして、移民をめぐるドイツの歴史、外国人を社会の一員として受け入れるための制度をご紹介します。

写真
ベルリン州難民局への視察

4人に1人が移民の背景を持つ国、ドイツ

ドイツの人口は8,323万人(2021年末)。日本の人口の3分の2ですが、そのうち1,086万人(約10%)が外国籍です。日本の在留外国人の数が282万人(約2%、2021年6月末)ですから、実に多くの外国人の方が暮らしています。さらに、「移民の背景を持つ人」(本人もしくは両親のいずれかが出生時点でドイツ国籍を持たない人)で見ると実に2,230万人、4人に1人が移民の背景を持つ人となり、まさに移民社会と言えます。

しかし、ドイツももともと移民社会であった訳ではありません。1950年代~60年代にかけて、第2次世界大戦からの復興のためトルコなどから多くの短期出稼ぎ労働者を受け入れました。しかし、1973年のオイルショック以降、90年代まではむしろ外国人の受け入れを制限する政策をとり、自らを移民社会とは認めていませんでした。1950年代~60年代にかけて受け入れた多くの外国人もドイツ語をしゃべることができずそれぞれの外国人コミュニティを形成するなど、ドイツ国民との溝も深まっていました。

一方で、いまの日本のように少子高齢化に直面する中、2000年代に入ると外国人材の受け入れに舵を切り始めます。同時に過去と同じ失敗を繰り返さないよう、外国人へのドイツ語教育などにも力を入れ始めました。そうして作られたのが2005年の移民法です。この法律では、外国人をドイツ社会の一員として「統合(Integration)」していくための政策が定められました。

「自立」「統合」に向けた制度設計

日本語で「統合」というと、「同化(Assimilation)」をイメージされるかもしれません。しかし「統合」の理念は、お互いの文化の尊重や、受け入れられる移民側だけでなく受け入れるドイツ社会側にも受け入れる用意を求めるものであり、「同化(Assimilation)」とは異なることが強調されています。また、「統合」の理念で強調されているのが、「社会的、経済的、文化的な生活における機会均等と参加を可能とすること」です。例えば教育や就労を可能とすることが、「統合」では求められているのです。

そうした理念を実現するための具体的な政策の一つが「統合コース」の設置です。「統合コース」は、難民を含め、ドイツに長期間滞在する外国人が受けることのできる研修コースで、日常生活に必要なドイツ語を学ぶ語学コースと、ドイツの社会・文化を学ぶオリエンテーションコースから構成されます。教育や就労などの社会への参加のためには、言葉や社会・文化の理解が欠かせないとの考えから、スウェーデンやオランダの制度を参考にして作られました。1レッスンあたり2.29ユーロ払う必要はありますが、1回当たり45分のレッスンを、語学コースであれば600レッスン、オリエンテーションコースであれば100レッスンを受講することができます。なお、コースの最後に受ける修了テストに合格すると費用が払い戻されたり、失業給付を受けているなど生活に困窮している場合は無償で受講することができます。

こうした「統合」のための制度は、2015年に発生した欧州難民危機を経て、難民に対しても適用されることになりました。

画像:ドイツで統合コースについて。統合コースには語学コースとオリエンテーションコースがある。語学コースは、コース内容として、・日常生活の中での会話やドイツ語を書くために必要な語彙を学ぶ。・当局との連絡、ご近所の人々や職場の同僚との会話、手紙の作成、フォームへの記入なども学ぶ。回数は・600レッスン(45分/1レッスン)・6つのセクションで構成され、それぞれ100レッスン・条件を満たせばさらに上のレベルの300レッスンの受講が可能。オリエンテーションコースは、コース内容として、・ドイツでの生活について学ぶ。・ドイツの法制度や文化、近代の歴史なども学ぶ。回数は・100レッスン(45分/1レッスン)修了条件はどちらのコースも共通で、語学テストと「ドイツでの生活」テストに合格すれば修了。対象はどちらのコースも共通で、・難民のみならずドイツに滞在許可を得た外国人が受講可能。・十分なドイツ語能力を持たないドイツ国民も対象。費用はどちらのコースも共通で・レッスンあたり2.29ユーロ。修了すると払い戻しの制度あり。・ただし、失業給付や社会扶助受給者など、経済的な理由で困窮している場合は費用負担は免除。また交通費補助もあり。提供主体はどちらのコースも共通で、・連保移民難民局に認定された、民間の語学学校や専門学校、自治体が運営する市民大学等、7,000近い組織が提供。ベルリン州では200以上の組織が統合コースを提供。
統合コース

ウクライナ避難民への「統合」「自立」に向けた支援

ウクライナ避難民の受け入れも、こうしたドイツ社会の一員となるための「統合」のための制度に則る形でなされています。ドイツに到着したウクライナ避難民は、到着センターと呼ばれるところで登録をすると就労も可能な2年間の一時滞在許可が出され、その上で、居住する自治体で住民登録をすることで行政サービスを受けることができるようになります。さらにドイツのウクライナ避難民支援で中心的な役割を果たすのが、日本の職業安定所にあたる、失業保険の給付や求職支援を行うジョブ・センターです。避難民は地域のジョブ・センターへ申請し審査を経て支援が決定すると、最低限の生活をするための失業給付が受けられたり家賃補助を受けられるようになるほか、就労に向けた支援を受けられます。一方で、先程ご紹介した「統合コース」の受講が義務付けられます。ドイツの特徴が、「統合」に向けて「支援」すると同時にしっかりと「要求」する点です。

こうした最低限の生活を保障した上でドイツ社会に「統合」するための支援は連邦政府レベルが統一的に実施していますが、日々の生活の支援は、居住する各自治体が行っています。各自治体には、移民の「統合」を担当する専門の部署があり、その部署が中心となって、自治体の他部署やジョブ・センターとも連携しながら必要な支援を行っています。また、ドイツの特徴がNPOやボランティアの活発な活動です。例えば、私たちが視察で訪問したNPOは、ウクライナ・カフェという場を定期的に開催し、地域に避難している避難民が相談できる場所を提供しています。こうした草の根の市民社会との連携も統合の担当部署が担っています。

写真:ウクライナ・カフェの様子
ウクライナ・カフェの様子

ウクライナ避難民の受け入れの経験を、より開かれた社会の実現へ

ドイツでは、移民を積極的に受け入れる中で受け入れる外国人がドイツ社会に積極的に参加し活躍するための「統合」の制度が形作られ、その制度が2015年の欧州難民危機時のシリア難民の受け入れや、今回のロシアのウクライナ侵攻に伴うウクライナ避難民の受け入れを通じて、難民・避難民へも拡大されてきました。

こうした「一時的な避難のための人道的支援」にとどまることのない、受け入れた避難民が自立し活躍するための「自立・統合に向けた支援」は学ぶべきところが多くあると感じています。6月13日にウクライナ避難民支援基金を立ち上げた際に、在日ウクライナ大使のコルスンスキー大使が訴えた「今回の避難民の受け入れは、ウクライナと日本の懸け橋になる人材への投資だと考えてほしい」という言葉が思い出されました。

日本財団はソーシャルイノベーションのハブとして、今後も日本社会における海外からの難民・避難民の受け入れのあるべき姿について考えていきます。また、その先行事例ともいえるウクライナ避難民の受け入れをサポートしていくとともに、避難民と日本社会の双方が将来にわたって協力していける環境の創出を目指します。

日本として受け入れたウクライナ避難民の方々に寄り添ったサポートを実現していくため、今後も皆さまからの温かいご寄付をお待ちしております。

ウクライナ避難民支援室 藤田滋

日本で生きていくという選択肢を、ウクライナの人々へ。

日本財団では、ウクライナ避難民支援を行う各団体への助成プログラムのほか、これまで独自でウクライナ避難民支援も行い、合計1,428名(2022年10月26日時点)に渡航費・生活費・住環境整備費支援を行ってきました。

また、日本に避難してきたウクライナの人々へさらなる支援を行うため、ウクライナ避難民支援基金を開設しています。いただいたご寄付はウクライナ避難民の皆さんが安心して生活を送り、地域に溶け込むことができるように、日本語学習の支援、生活相談窓口、物資の配布(交通系ICカード等)、地域イベントでの交流などに使われる予定です。