頼れる就学後の相談先。町直営で運営する「子ども家庭支援センター b&gらんざん」

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小学校の隣にある拠点。玄関や部屋の窓には描かれたイラストが描かれていて、楽しい雰囲気になっています。

埼玉県のほぼ中央に位置する、比企郡嵐山町。人口約1.7万人のこの町に、「子ども家庭支援センター b&gらんざん(以下、b&gらんざん)」は、2019年、県内3番目の子ども第三の居場所として開所しました。3年間のB&G財団からの助成が終了し、2022年春からは町の独自財源により運営を続けています。

町にもう一つの子どもの居場所を

b&gらんざんは、嵐山町福祉課の管轄。役場職員の太田直人さんと内田淳也さんが行政側の担当、そして現場マネージャーとして、三神典子さんが保護者と子どもに寄り添ってきました。

かつて嵐山町にあった施設は、学童保育室(放課後児童クラブ)と嵐山町放課後子供教室のみ。「児童館はなく、子どもの居場所が不足していた」と太田さんは話します。

特に、困難を抱えた子どもや家庭に対して役場からアプローチする手段も少なく、保護者が役場や学校に相談をしてようやく課題が顕在化することも多かったそうです。そうした状況を改善すべく、嵐山町は子ども第三の居場所事業に手を挙げ、相談を待たずに手を差し伸べられる環境づくりに注力してきました。

卒業を目標にした支援のあり方

困難な背景を抱えた子どもを支援する方法は様々あります。その中で、b&gらんざんが重点を置いたのが、子どもを預かる施設ではなく、家庭を支援する施設になることでした。

「門戸を広げて誰でも来れる拠点にするのではなく、あくまで支援が必要な子どもに特化した場所にしたいと考えました」(太田さん)

夕食やお風呂などの生活支援が必要なケースにおいては、拠点でサポートをすることもありますが、「食事やお風呂は家庭でするもの、家庭の状況が改善しなければいけない」という考えのもと、提供するのは基本的におやつのみ。17時までに保護者に迎えに来てもらいます。

過去5年の運営で、令和2年度は通所人数22名のうち10名が卒業、令和3年度は20名中7名、令和4年度は14名中4名が、「卒業」という形で拠点から巣立って行きました。卒業は年度区切りではなく、あくまで「利用世帯が居場所を必要と思わなくなったら」利用を終了します。個別支援であることが特徴的です。

「食事提供ももちろん大切な支援です。しかし、子どものお腹を満たすだけでは、根本的な課題を解決できません。そのため、b&gらんざんでは、家庭を支援することに注力し、家庭全体の状況を見ながら、子どもに関わっています」(内田さん)

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拠点は小学校の隣にあります。小学一年生から高校生までが一つの室内で過ごします。

b&gらんざんを支える2つの理念

困難を抱えた子どもをサポートするため、b&gらんざんは2つのことを意識して取り組んできました。
一つは、家庭・学校・行政と連携することです。町直営のため、管轄の福祉課はもちろん学校とも密な連携を取りやすいことはメリットの一つ。役場や学校からの相談から、利用に繋がることもあります。
もう一つは、体験活動の場を提供すること。一般的な体験活動と聞くと、アウトドア活動が思い浮かびますが、b&gらんざんは拠点で過ごす日常生活も「体験活動」と捉えています。室内でのゲーム遊び、お絵描き、宿題、おやつなども全て体験活動と捉え、異年齢で生活を送ることを大切にしてきました。

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茶摘み体験や芋掘り、栗拾いなど、自然豊かな町をフィールドにした体験活動も実施。拠点を利用していない親子と出会う機会や、利用者の保護者と信頼関係を構築する機会にもなっています。

「コンプライアンス意識の高まりから、日々の生活の中で、保護者が『危ないからダメ』『これはダメ』と選択肢を提示していないケースも多く見られます。居場所では、子どもが自分で考えて選択できるよう、失敗できる環境を用意してきました。同時に、困った時はSOSを出してもらえるよう安心・安全な居場所であると思ってもらえるような関わりをしています」(三神さん)

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農園でのピザ作り。畑で採れた野菜を使ってみんなで作って、食べました。

子育てに一緒に悩む伴走者になる

子どもがのびのびと過ごせるような居場所であることを意識する一方で、帰る先である家庭の状況にも寄り添います。送迎時に保護者とコミュニケーションをとる以外に、状況に応じてカウンセリングを実施。じっくりと保護者の話を聞いて、子どもの背景にある困難な状況を解消できるよう寄り添います。

「何度もお話をし、子育てに一緒に悩むことで、子どもの背景にある課題の本質が見えてきます。課題がクリアになることで、私たちも必要な手を差し伸べやすくなります。また、回数を重ねるごとに保護者も元気になり、子どもにも良い影響を与えています」(三神さん)

中学校を不登校だったある子どもは、拠点に通い、様々な大人や子どもと関わる中で、絵が得意であることに気づいたそう。同じ利用者である小学生や中学生向けに絵の講師もしてもらいました。

「アイデンティティを認識することで、進路も自ら決めることができるように変わりました。高卒認定資格を取った後は、美術系の専門学校に進みました」(三神さん)

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ホワイトボードや窓には、絵が得意だったかつての利用者が描いた絵が描かれています。

対面でのカウンセリング以外にも、メールや電話でも相談を受け付けていて、困った時は「ひとまずb&gらんざんに連絡しよう」と考える保護者が増えています。

5年運営して改めて思う、家庭支援の必要性

開所から5年が経ち、様々な家庭に寄り添ってきたb&gらんざん。多くの子どもの変化を目にする中で、改めて子どもを預かる施設ではなく、家庭を支援する施設であることの意義を感じていると語ります。

「福祉という言葉は重いですよね。支援が必要な家庭ほど、マイナスイメージを持たれています。でも、福祉課には話せなくても、b&gらんざんになら相談できると連絡をくれる方もいます。地域の中にセーフティーネットが増えることで、困難な状況にある子どもと出会う機会が増えています」(太田さん)

「未就学児であれば保健センターに相談できますが、就学後の相談先は充実しておらず、学校以外にない状況です。b&gらんざんは就学時の相談場所にもなっていますので、利用希望の有無に関わらず、気軽に子育ての悩みを話に来てもらいたいです」(内田さん)

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嵐山町の内田さん(左)と太田さん(右)

今後、継続した運営をしていくには人員や予算面の課題もあります。嵐山町では社会福祉士や精神保健福祉士を積極的に採用し、支援の肝である「人」を充実させていく予定とのことです。また、地元のNPOとの連携も考えながら、町として10年、20年続く子ども第三の居場所になるよう、すでに次の一歩を考えています。

取材:北川由依