震災から半年、刻々と変わるニーズに応える。石川県輪島「わじまティーンラボ」
2024年1月1日、令和6年能登半島地震が発生。輪島市の中心部にある子ども第三の居場所「わじまティーンラボ」(運営:特定非営利活動法人じっくらあと)も被災しました。鉄筋3階建ての建物は、幸い倒壊や火災を免れたものの、壁の一部は剥がれ落ち、地割れの影響で建物が浮き上がるなどの影響を受けました。周辺道路はひび割れや段差が発生し、震災から半年が経過した今も車が通れない道が多数あります。
「わじまティーンラボ」は、半年間の改修工事を終えて、2023年12月24日に本格開所したばかりでした。「さぁこれから」という時に被災。安全面から居場所の受け入れを一時は停止せざるを得ませんでしたが、少しでも早く子どもに日常を取り戻してもらう必要があると考え、応急修繕で安全を確保したうえで震災から2カ月目の3月26日から再開し、週5日開所しています。
現在、子どもたちはどのように居場所を活用しているのでしょうか。輪島を訪れました。
クリニック併設の子ども第三の居場所
居場所がある建物は3階建て。1階には総合診療を提供する「ごちゃまるクリニック」、2・3階に「わじまティーンラボ」が入っています。クリニックで働く小浦詩さん(医師、じっくらあと理事長)が、子どもの居場所の必要性を感じ、活動を開始。2022年7月に特定非営利活動法人じっくらあとを設立し、2023年から子ども第三の居場所になりました。
「わじまティーンラボ」のコンセプトは、”ミチクサ”-新しい時間の過ごし方。家や学校でもない安心して過ごせる居場所を目指して運営しています。
玄関を入り2階へ上がると、明るい日差しが差し込むコミュニティカフェスペースがあります。おしゃべり、食事、勉強など何をして過ごしてもOK。イベントがある際は会場になります。
スペースの両隣には、寄付で集まったたくさんの漫画が並ぶマンガ図書室と、半個室の自習室を完備。集中して勉強したり、のんびり一人の時間を過ごせます。
3階はさまざまなことにチャレンジしたり楽しんだりできる部屋があります。ビリヤードやダーツがあるプレイルームに、エレキギターやベース、ドラムを完備した音楽スタジオ、卓球台や全身鏡がある運動室、ものづくりをしたり絵を描いたりしやすい作業室、そしてまったりくつろげる和室と、目的に合わせてさまざまな使い方ができます。
対象は小学生から高校生まで。1日平均25名、多い日は40名近くの利用があります。
災害支援NPOと連携し、「みんなのこども部屋」を開設
震災によって避難生活を余儀なくされた子どもたち。しかし、十分な避難場所を確保できず車中泊している家族も少なくありませんでした。また、日中に避難所生活の事や家の片付けをしたくても子どもの預かり先がなく思うようにいかないなどの声もあり、子どもの居場所を求める声はあちこちから上がっていました。
「わじまティーンラボ」の建物自体は子どもの受け入れを停止しており、じっくらあとは、災害時の緊急子ども支援も行っている認定特定非営利活動法人カタリバと連携し、1月14日、輪島高等学校の一室に、被災した子どものための居場所「みんなのこども部屋」を開設。子どもの預かり・居場所・遊び支援を実施し、生活環境の復旧に時間を要するなかで、つらい思いをする子どもたちや保護者・家族の負担を少しでも減らせるようサポートしました。
同時に「わじまティーンラボ」を利用する子どもの安否確認も進め、避難所生活を送る子ども、仮設住宅に入居した子ども、遠方へ一時避難した子どもなどを把握し、こまめな連絡をとりながら子どもと繋がり続けました。
異学年での活動の成果が生きた、屋根瓦式サポート
「みんなのこども部屋」の活動には、拠点を利用する高校生もボランティアスタッフとして参加しました。ボランティアのきっかけは、「わじまティーンラボ」のスタッフに誘われた子、友達から誘われた子などさまざま。
日頃から「わじまティーンラボ」を利用する高校生には、居場所で培ってきた年齢の上の子が下の子の面倒を見る支援体制「屋根瓦式サポート」が身についており、非常時にも生きていたと、「わじまティーンラボ」のスタッフは話します。
ボランティアに参加した高校生はこのように振り返ります。
「今の小学生ってこんな遊びをするんやなと驚きました」(高校2年生・男)
「年上、年下いろんな人の考え方を知れました」(高校2年生・男)
「みんなのこども部屋を利用していたけど、小学生が元気に遊んでいる中で一人だけくつろいでいるのが申し訳なかった。ボランティアをすることで、役割があって居やすくなりました」(高校3年生・女)
「みんなのこども部屋」のボランティアにとどまらず、「わじまティーンラボ」再開に向けた片付けや準備をお手伝いした高校生も複数いました。スタッフの皆さんは、「輪島のために何かしたい」という高校生の熱量の大きさに驚きながらも、喜びを感じています。
震災から半年、小中高それぞれの課題
発生直後は混乱の中にありましたが、3月、「わじまティーンラボ」は子どもの受け入れを再開。2次避難先から輪島に戻ってきた子どもたちもおり、居場所は震災以前よりも賑わいを見せています。
変化の時期を共に過ごす中で、震災によって小学生・中学生・高校生それぞれが抱える課題も見えてきました。
現在、学校の運動場には仮設住宅が立ち並び、子どもたちが思いっきり走り回れる場所がありません。また、避難所や仮設住宅は集団生活のために大声も出しづらく、小学生からは「体を動かしたい」「大きな声を出したい」というニーズが強まっています。
中学生は、ニーズが顕在化しにくいことが課題です。子どもから大人になる過程にあり、嫌なことや困りごとを言葉にしづらい年齢になります。そこに避難生活が加わり、環境が目まぐるしく変わる中で、「自分たちの居場所を奪われている感覚を持っている」とスタッフは話します。そうした声なき声に寄り添い、安心できる居場所を提供することが求められています。
高校生は進路選択を迫られる時期。特に震災当時2年生だった現3年生は輪島に残るのか・外に出るかの選択をしなければならず、不安定になっている日も多いと言います。自分らしい選択ができるよう、スタッフのみなさんはじっくり話を聞いて、一緒に考えるスタンスを大切にしています。
刻々と移り変わる居場所へのニーズ
地震発生から時間が経過する中で、子どものニーズも刻々と変化しています。また、年代によっても求める支援は異なり、一人ひとりに合わせたきめ細やかな対応が必要です。
少しずつ日常を取り戻しているものの、学校には仮設住宅が立ち並び、仕事を失った保護者も大勢います。大人にも十分な心の余白がない中で、子どもが安心安全に過ごすことができ、じっくりと話を聞いてもらえる場は、平時以上にますます求められています。
取材:北川由依