障害のある子どもたちに身近な場所のキャンプ体験を一般社団法人Burano

誰もがキャンプを楽しめる社会に

新鮮な空気を思いきり吸って、鳥の声を聞いて、風の心地よさ、自然を身体いっぱいに感じて……。大好きな家族と青空の下で過ごすと、ご飯も格別においしく感じます。それがキャンプの醍醐味です。

生まれてから一度もそんな体験をしたことがない子どもとその家族がいます。医療的ケアや障害があることで、キャンプどころか家の外に出ることも大変な子どもたちです。医療の進歩により、その数は年々増えており、全国には人工呼吸器や経管栄養などの医療的ケアが必要な子どもは約2万人いると言われています。

一般社団法人Burano(ブラーノ)は、そんな子どもたちに障害にかかわらずいろいろな体験をしてもらおうと、キャンプ体験のプロジェクトを立ち上げました。外出への難易度を下げ、体験を通して喜びを感じてもらいたいと、交流イベントやキャンプイベントを開催。当たり前に誰もがキャンプを楽しめる環境を創れたらと考えています。

きっかけはBuranoの新しい施設の芝生スペースでの、医療的ケアや障害がある子のきょうだいの「ここでキャンプをしてみたい」という一言でした。

「自分たちでキャンプのイベントを開催したら楽しいけれど、せっかくやるならそれで終わらずに、全国の誰もがキャンプに行けるようにしたい──そのための情報発信や枠組み作りをしようと考えました」と理事の秋山政明さんは話します。

Buranoは秋山さんを中心に障害のある子どもの親が立ち上げたプロジェクトチームです。医療的ケア児の居場所、母親の就労支援、きょうだい児の支援などに取り組みながら社会の新しい仕組みを作るための様々なプロジェクトを進めています。

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お泊まりキャンプには4組の家族が参加。多くのサポーターも駆けつけてくれました

ドキドキわくわく!初めてのキャンプ

アウトドアブランドの株式会社スノーピークの協力の下、2022年11月に栃木県の三王山ふれあい公園でデイキャンプ、新潟県燕三条のキャンプフィールドでお泊まりキャンプを開催しました。

デイキャンプでは自然を散策しながらウォークラリーをしたり、テントやコット、シュラフを体験し、寝転がってリラックス。新潟のお泊まりに挑戦する家族は、ランプや器具の配置、事前の準備を入念にしました。

新潟のお泊まりキャンプでは自家用車と新幹線に分かれてそれぞれの家族がキャンプ場に到着。昼間は暑いぐらいでしたが、夜は肌寒く、秋の深まりを感じます。色とりどりに染まった紅葉に囲まれて1日を過ごし、夜は美しい星空の下で焚火を囲んで、非日常のひと時を楽しみました。言葉は出なくても、子どもたちは雲をじっと目で追ったり、焚火の暖かさを感じるなど、野外でのかけがえのない体験を重ねました。

今回準備をしたことで、キャンプに関わらず外に出かけるハードルが下がったことも収穫だったと言います。また、災害時の対策にもなりました。

きょうだいたちが走り回って楽しそうにしていたのも印象的な光景でした。
「ひと家族でゆったりと自然に触れ合いながら過ごす良さと、複数の家族で過ごす楽しさがあります。それぞれの良さを伝えていきたい」と秋山さん。

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満天の星空の下、初めての焚火。自然を身体いっぱいに感じる大切な時間でした

自然の中でたくさんのことを感じて

以前、秋山さんがカブトムシを自宅に持ち帰った時には嫌がっていた息子さんが、テントに迷い込んだ芋虫をコップに入れて、登ってくると落とす遊びを繰り返していました。室内では虫の存在を不自然に感じても、自然の中では虫がいることを自然に受け入れていたのです。自然環境の中で子どもは自発的に遊びを作り、その環境にいることで世界が広がります。自然の中でたくさんのことを感じているのです。

キャンプ用品は各家庭が持参することを想定したところ、実際にやってみるとバギー、呼吸器などの機器や着替えなど、荷物があまりに多く、キャンプ用品などは前もって送るかレンタルをする前提の枠組みが必要だと気付きました。

「インクルーシブなキャンプ用品を企業と共に開発して、いつでも貸し出しができる仕組みを作り、対応ができるスタッフが全国に増えるように働きかけて、誰もがキャンプを楽しめるようにできたらと思っています」。

今回の経験を元に、医療的ケア児のキャンプをサポートするガイドブックを作りました。
準備リストやお勧めグッズを食、道具、遊びなどのカテゴリーに分けてわかりやすく網羅。キャンプのノウハウや心得が充実しています。

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キッズフェスのあそびのむしのおもちゃで遊ぶ女の子

みんなが一緒に過ごす場所を作りたい

2024年2月には、障害のある子と健常の子どもたちが一緒に楽しめる機会を作ろうと、「すべてのこどもたちのためのBuranoキッズフェス」を茨城県古河市にある古河福祉の森会館で開催。朝夕の2回、計500人以上の子どもと家族が参加し、そのうちの1割は障害のある子どもとその家族でした。

プラネタリウム、総和おもしろ科学の会の科学体験、(特)芸術と遊び創造協会(東京おもちゃ美術館)のあそびのむしのおもちゃたち、デジタルで遊ぶことがリハビリになるというデジリハ……と、とても魅力的な出展者が勢揃い。
「みらいのもり」と銘打った森の中のそれぞれのアトラクションをめぐり、森の生き物のレアアイテムをゲット。自分の持っていないパーツのアイテムは他の子どもと交換して、自分だけの森の生き物が完成!
そこでは子どもたちは、それぞれの個性を当たり前のこととしてそこにいて、共に楽しい時を過ごしました。

「学校、施設、社会の枠の中で、日頃は障害のある人と出会う頻度が少ないのが現状です。子どものうちから、障害のある子とない子が一緒にいられる経験ができる場所がもっと増えていったらと思っています」。

「インクルーシブな場を作って、社会の枠組みを根本から変えていきたい」。
Buranoは障害のあるなしに関わらずみんなが共に生きる未来を願い、そのための新たな挑戦を続けます。

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キッズフェスで作ったオリジナルの森の生き物と記念撮影!

日本財団 難病の子どもと家族を支えるプログラムでは、日本全国に難病の子どもと家族の笑顔を増やしていきます。

「日本財団 難病の子どもと家族を支えるプログラム」に興味をお持ちの方は、ぜひ難病児支援ページをご覧ください。

文責 ライター 玉井 肇子
日本財団 公益事業部 子ども支援チーム