地域力で子どもを見守り、育てる。図書館やカフェを併設、北海道・苫小牧拠点

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サロンではさまざまなイベントを開催し、一般に広く募集している

新千歳空港から車で約25分、空港のある千歳市のお隣、苫小牧市に常設ケアモデル「だい3のいばしょ東開町2丁目」はあります。

場所は、小中学校や市営団地が立ち並ぶ住宅地の一角にある「苫小牧市東開文化交流サロン(以下、サロン)」内。図書機能と福祉拠点機能を兼ね備える、苫小牧市の公共施設では初となる共生型地域福祉拠点として2022年12月にオープンして以降、地域住民の憩いの場となっている建物です。

その一部を利用し、2023年度から子ども第三の居場所「だい3のいばしょ東開町2丁目」が開所しました。地域の人が行き交う場所で、常設ケアモデルを運営するにあたり、何を大切に運営し、子どもたちと関わってきたのでしょうか。

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図書館の蔵書数は約3万冊。うち5,000冊は絵本で、子どもが読みたくなるような展示や選書がなされている
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「パーラー東開町2丁目」は就労継続支援A型の事業所として運営されており、さまざまなサポートを受けながら障害のある人がカフェスタッフとして働いている

地域で子どもを見守り、育む居場所

「だい3のいばしょ東開町2丁目」は、子どもたちが未来への希望を持ち、これからの社会を生き抜くために必要な力を育むために生まれました。「地域が子どもたちを支え、子どもたちが地域を元気にする」をコンセプトに、学習支援、生活習慣の形成、食事や豊かな体験の提供などをしています。

誰もが自由に出入りできるサロンの特徴を活かした関わりも豊富です。イベントを通じた多世代交流や、地域のみなさんと共に取り組む畑での活動など、地域で暮らす様々な人が関わり合い、子どもたちを見守り育む機会づくりを行ってきました。

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畑での収穫イベントの様子。みんないい笑顔!

絵本の読み聞かせに来る親子、勉強をしに来る高校生、レンタルスペースで趣味のサークル活動を行う大人など、1日を通してサロンには様々な人がやってきます。そのため、居場所の登録者が誰なのかは一見わかりません。

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絵本の読み聞かせに参加する親子

運営する社会福祉法人ゆうゆうの髙橋健さんに話を聞くと、オープンな場であるからこそ「スティグマを生まないように気をつけている」とのこと。例えば、利用募集は開所前から現在まで表立ってしていません。SNSやチラシ、メディアへの発信を行えば人数は増えるとわかっていながらも、必要な子どもに手を差し伸べたいという想いを貫き、地道な声かけや紹介で利用人数を増やしてきました。

「開所から半年は登録人数0。焦りもありましたが、人数を増やすことよりも届けたい人に届けることが大切と考え、我慢の時期を過ごしました」

そうした努力が実り、2024年9月時点で小学生から中学生まで14名が利用登録をしています。児童相談所や市役所からの相談もあれば、サロンで開催するイベント、一般来館から利用につながるケースまでさまざまです。

子ども一人ひとりに寄り添った支援

一方で、利用登録をしている子どもに対して必要な支援を届けるための工夫もしています。

居場所の開所時間は月曜から金曜の10〜19時。その間であれば誰でも自由に訪れることができます。しかし、利用登録をしている子どもについては、「丁寧に関わりを持つためにあえて利用時間を決めている」と髙橋さん。例えば、不登校のある子どもは10時~15時頃、放課後に利用する子どもは宿題・遊び・食事などを済ませて19時頃に帰宅するなど、一人ひとりの子どもや家庭の状況に合わせて決定することで、オープンな場所でありながらきめ細やかな対応を可能にしました。

取材に訪れた日は、小学生の女の子が利用していました。彼女は現在、週2回居場所を利用しています。この日は、拠点の裏にある畑で栽培していたミニトマトや枝豆、藍の葉を収穫した後、スタッフと共に枝豆や藍の葉の秘密について調べていきます。

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枝豆をよく観察してスケッチ。枝豆から大豆になり、豆腐や醤油に変わることも調べた
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畑で収穫した藍の葉を、「苦い〜」と言いながらスタッフの髙橋さんと実食。調べると葉も実も食用として親しまれていた、身近な薬草であることがわかった。

他にも、機織り体験、魚釣り、藍染め体験、日本舞踊、畑で採れた野菜を使った漬物作りやポップコーン作りなどを実施。子どもの興味関心に合わせて、様々な体験をしています。

サロンでの学習の他に、こうした活動も登校扱いとなるように働きかけたところ、活動記録を提出すれば「出席」として認められるように!関係機関とも連携しながら子どもに寄り添っています。

また、登録はしていなくても、サロンを訪れる中で不登校だった子どもが学校へ戻ったケースもあるそうです。

地域力が子どもの自己肯定感を育む

開所から約1年半という短期間で、目にみえる成果をあげている「だい3のいばしょ東開町2丁目」。どのような点を意識して子どもと関わってきたのか、髙橋さんに聞くと、「役割を持てるようにしてきた」との返事が。
居場所を利用する子どもには、皿回し名人、釣り名人、折り紙名人などたくさんの名人がいて、日常やイベントの中で発表したり教えたりする機会があるそうです。

同時に、サロンだからこその外部環境も好影響を与えているようです。「助けてくれる人、声をかけてくれる人がたくさんいることが、地域の中で認められている意識に繋がり、子どもの自己受容感を育んでいるのではないか」と髙橋さん。サロンで子どもたちと触れ合うことを楽しみにしている来館者も多く、「◯◯ちゃんと喋っていると元気になる」と話す地域の方もいます。

まさにコンセプトで掲げている「地域が子どもたちを支え、子どもたちが地域を元気にする」の体現です。

遊びの延長線上に個別支援がある

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皿回しの様子

図書館やカフェ機能を併設するオープンな場所に子ども第三の居場所があることで、プライバシーへの配慮や居場所専用スペースを確保する難しさはあります。
一方で、多機能だからこそ家族支援に繋げやすかったり、様々な人との出会いや交流から好転していく機会になったりもしています。また、髙橋さんによると、「普段からサロンへ遊びに来ている子どもが多く、その延長線上に個別支援がある」とのことで、行き慣れた場所だからこそ子どもが安心して通えるメリットもありそうです。

地域みんなで見守りながら、子どもが自然と育っていくような場である「だい3のいばしょ東開町2丁目」は、これからも日常の中にある大切な居場所として愛されていくことでしょう。

取材:北川由依