2024年度『夢の奨学金』活動報告会着実に学びを得て社会に羽ばたく!
「夢の奨学金」を活用して学業を終え、新たな一歩を踏み出す奨学生たちが、これまでの学生生活について発表する活動報告会が、2025年3月8日(土)日本財団(東京・赤坂)にて開催されました。2024年度で卒業する奨学生は6人。在学中の奨学生、次年度から仲間に加わる第10期生、すでに社会で活躍する奨学生OB、ソーシャルワーカー、日本財団スタッフ等、多くの参加者が祝福し見守るなか、これまでの学業や活動、これからの進路などを発表しました。
新しい門出を迎える6人の奨学生
卒業シーズンである年度末に毎年開催される「夢の奨学金 活動報告会」は、卒業する奨学生がこれまでの学業や活動について報告する会です。夢の奨学金の中でも、もっとも多くの関係者が集まる行事です。
日本財団佐藤英夫常務理事より、挨拶がありました。
「本日発表をされる6人の卒業生の皆さん、おめでとうございます。現役の奨学生の皆さんも数多くお集まりいただきました。選考委員でもある木村選手、奨学生OBの方もお忙しいなか来てくださり、お礼を申し上げます。
夢の奨学金は、大きな志を持った若い人たちを励ましたい、支えたいという思いで成り立っています。本日ご報告される皆さんの元気なご様子を寄付者の皆さまにも報告いたします。寄付者の皆さまもお喜びになると思います。それでは短い時間ですが、発表者の皆さまを囲んで素晴らしい時間を過ごしましょう」

続いて、昨年度までに卒業して社会人として活躍する奨学生OBもメッセージをくれました。駆けつけてくれたのは、2期生、3期生、5期生の6名のOB。児童養護施設を支援、看護師6年目、弁護士として活躍、広告制作会社勤務、放送局の関連団体勤務、そしてさまざまな奨学金を一堂に集めたプラットフォームを立ち上げた企業に転職した人など、個性を発揮して活躍する先輩方の話を現役奨学生は聞き入っていました。
続いて、夢の奨学金の選考委員でもあるボートレーサーの木村光宏選手が今年も参加してくださいました。児童養護施設で育ったご経験から、奨学生との交流の機会を作ってくださっています。
「第1回にスペシャルゲストとしてお話しさせてもらって9年になります。モーターボート協会にはさまざまなイメージがあるかもしれませんが、現場で働いている選手や関係者、関連団体2万人は誇りを持って活動をしています。それが日本財団のさまざまな社会貢献につながっていることがモチベーションです。今日は発表を楽しみにしています」
続いて、新年度から『夢の奨学金』の仲間に加わる第10期生の紹介がありました。皆さん壇上で名前と進学先を紹介し、学校での目標や将来の夢を仲間に伝えてくれました。

「一流ホテルに内定」「本の業界で頑張りたい」
いよいよ卒業する奨学生の活動報告がスタートしました。これまでの学生生活を振り返り、どのようなことを学んだか、自分はどう考えたか、これからの進路や後輩へのメッセージ等を伝えてくれました。
トップバッターは、観光学部観光学科で学んだ6期生。大学では座学以外に多くのフィールドワークがあり、多様な観光地で研修を重ねました。長野や京都などの著名な観光地での貴重な経験を写真と共に紹介してくれました。学業以外には地域でのボランティアも行いました。市のお祭りのボランティアで、地域の人と触れ合いながら地域振興に貢献しました。4年生の夏には大学のオープンキャンパスで、大学の魅力を語り、高校生に自分の学びの紹介もしたということです。懸命な就職活動の結果、4月からは都内の一流ホテルに就職が決まりました。
「夢の奨学金の交流会には積極的に参加し、企画委員を経験したことはとても有意義でした。沖縄の交流会は大切な思い出です。大学の先生方、友人、アルバイト先の皆さま、日本財団を通して出会えた仲間、ソーシャルワーカーの皆さま、これらの出会いがなければ、今の私はなかったでしょう。出会いは新しい価値観、考え方を知るきっかけとなります。仲間との何気ない会話や話し合いの中で、私は自分の視野を広げ成長することができました。
これからも出会い、つながりを大事にしていきながら、自分の道を切り拓いていきたいと思います。そして、いつか私も、誰かにとっての大切な人、いい縁と思っていただけるような存在になれたらなと思います。ここで得た学びや経験を生かし、社会に貢献できる人材へと成長したいと考えております」

続いて、国際教養学部国際教養学科で学ぶ6期生です。読書家で出版関係の仕事を目指しています。入学の2021年は新型コロナウイルスの影響で、2年間は常にマスクを付けた大学生活。授業もリモートだったせいで、友達ができなくて寂しかったそうですが、3年生では長期インターンシップに参加しました。希望職種が編集者ということもあり、出版社で高校生を対象とした就職支援雑誌の特集を担当。企画を立案し、高校生にインタビューするなど、学びの多い刺激的な日々を過ごしました。出版社を目指した就職活動では辛い思いもありました。自分を見失いかけたとき、夢だった海外留学へ。言葉も文化も異なる環境で、改めて日本での生活が恵まれていると実感しました。英語を話すという経験も糧になり、自己肯定感が持てるようになったといいます。
「4年間大学生活を支えてくださり、ありがとうございました。私は高校3年生の頃、好きなことを仕事にすべきではないという周囲の言葉や、金銭面において不安があり、一度は大学進学を諦めました。今後のキャリアについて考え直した時、好きなことを仕事にできる自分でいたい、職の選択幅を広げたいと思い、金銭面には不安を感じつつも大学進学を決断しました。そんな中、夢の奨学金が支えとなり、有意義な4年間を過ごすことができました。これからも書籍やコミックなど出版業界への貢献とともに、後輩たちの見本となるよう日々精進してまいります」
「夢の潜水士へ」「企画委員の経験が力に」
水族館直営の専門学校のドルフィントレーナー科で学んだ8期生です。18歳のときに動物関係の専門学校に進学したい夢がありました。しかし、いったんは就職を選択。整備関係の会社に入社した社会人1年目は、仕事と資格取得でクタクタの日々。社会人2年目に自分を見つめ直し、電気工事関係の会社に転職しました。ここでも作業員として働き、電気工事士の資格を取得。給料も上がり、何不自由ない生活を送る中、専門学校のことが頭をよぎり、また自分を見つめ直す時が来ました。給料は高くても自分の仕事のやりがいや達成感を感じないと思うようになり、動物の専門学校に行くことを決意。2年間の専門学校では厳しい水族館の飼育員の実習に壁を感じ、また自分を見つめ直すことに。本当に自分は水族館の飼育員に向いているのか。そんな中ダイビングに興味を持つようになり、潜水士という仕事に惹かれ、資格を取りました。潜水士とは潜水服を着用して水中や海中で作業を行う専門職。仕事内容としては、潜水工事の一般、水中溶接、切断、水中設備保守点検、水中操作、回収などを行います。
「潜水士は、これまで私が陸で行っていた仕事を水中で行うイメージです。自分を見つめ直しながら、潜水士という仕事に出会えました。この仕事を通して世の中に貢献できるような人になりたいと思っています。また、今までお世話になった人たちのことを忘れず、今度は自分が世の中に貢献する番だと思っています。後輩の皆さん、1人で抱え込まず、誰でもいいので相談してください。絶対に助けてくれる人はいると思います。あとは何事も恐れず挑戦してください」
国立大学の大学院に通う理系の8期生。主な研究内容としては、溶液中でのヨウ素の状態を解析する研究をしています。大学時代と併せて6年間テニスサークルも続けてきました。大学4年生から大学院までの3年間での学びとして、難しいことや分からない分野についても、自分の頭で考える力を身につけることができました。研究活動を通して、日程を決めたり、計測結果を予測したり、計画的に物事を進める力がついたことも大きな学びでした。テニスサークルでは、10チームが参加する大きな大会で優勝。サークルも6年間続けられたことで継続する力、達成感がありました。奨学生としては企画委員の活動にも参加。SST(ソーシャルスキルトレーニング)も参加し、人前で話すときの発表の仕方を学べたことはとても有意義でした。
「奨学金のお礼の言葉として、大学院2年間分の奨学金をいただき、誠にありがとうございましたと。おかげさまで自分の研究テーマにおける課題を解決し、一定の結果を出すことができました。また、学業以外でもテニスサークルで活動してきたのですが、その時間的・経済的な余裕が奨学金のおかげで生まれたと思っています。また、交流会では2年間にわたり企画委員を務め、人前での活動を通して自信を深めることができたと思います。将来的には大学進学に困っている人々を支援する一員として、社会に貢献できるよう努力していきたいと思います」
「夢は変わっても」「国際学会で発表」
国立大学の大学院で宇宙物理学の研究を続けてきた8期生は、大学生活に続いて奨学金を得て研究に没頭しました(※現在は1学位までとなっています)。研究内容は、宇宙物理シミュレーション手法のアルゴリズム開発。宇宙で起きている現象を粒子でシミュレーションする、というようなものだそうです。もともと研究者を目指して研究に励み、論文も完成させ掲載され研究者の道も模索しました。しかし、研究者になるにはさらなる下積み期間が必要で、就職か研究か、進路に迷いました。そして、結論としては就職の道を選びました。自分を振り返ると、研究自体は楽しかったが、やりがいや意義をあまり感じられない、という気持ちがあったからです。研究が楽しい、というだけでは、その後の長期的な研究者としての自分を支えるものがないかもしれないと。そこで就職活動に切り替えて、コンサルティングの会社に就職することになりました。
「私が皆さんにアドバイスするのはおこがましいですが、私は学業の途中で研究内容や進路も変更しました。夢や目標は変わることもあります。理由もさまざまです。奨学金をいただいているのに、夢を変えることには抵抗はありました。でも、やっぱりこれがやりたいです、と言っても温かく受け止めてくれる人の方が多いと思います。奨学金は自分の夢とかやりたいことを叶えるために有効に使いましょう。
私は卒業後、次の2つのことに取り組んでいけたらと思います。1つ目は、仕事を通して社会に貢献するということ。コンサルの仕事を通して、いろんな専門性を持った人々を巻き込みながら、様々な企業の課題解決をして変化していくことで、社会に貢献していきたいと思います。2つ目は、次の世代の若い人たちに、寄付者の方々が私に与えてくださったようなものと同じようなチャンスを提供できるような人間になっていきたいと思います。この2つを実行することを通して、皆さまが私にくださったご支援の最大の恩返しをできるのではないかと思っています」

ラストは1年間の大学院での奨学金支援を受けた第9期生。複合材料の研究を続けてきました。複合材料とは、異なる2種類の材料を合わせた素材のことで、身近なものとしては、鉄筋コンクリート、バスタブ、釣り竿、車の部品など、身近にあります。複合材料は用途によって機械的な性質、強さや硬さなどを変えることができるとのこと。奨学生はポリマー材の研究に尽力しました。複合材料は2種類以上の材料を使うことで、接着しづらいものをしやすくして、素材がどれだけ強くなるかを測っていきます。この研究で5回の学会発表を行い、そのうち2回は英語での発表も成し遂げたということです。
「私は高校生の頃まであまり勉強をする方ではありませんでした。しかし、入所していた養護施設からカナダを訪れ“子どもの権利”について知りました。そこで価値観が変わり、頭の良し悪しと、今後を見据える力は別だと感じ、学ぶことの大切さを知りました。私は修士2年から日本財団の奨学金の奨学生として活動してきましたが、その1年間で、夢だった国際学会の参加や発表もできました。高校の在学中から考えていたことですが、自分の夢を諦めないこと、そのためにできることを最大限活用し行動することが、大学と大学院生活の中で発揮できました。私の研究は物づくりであり、人々の生活に密接に関わっています。この研究を通して人生の知見を得られたこと、多面的な視点から物事を考える力を学びました。この力のおかげで、私は第1志望である企業から内定をいただき、また1歩先へ進むことができます。ありがとうございました。」
ソーシャルワーカーよりはなむけの言葉
それぞれの発表の後には、担当のソーシャルワーカーから卒業のはなむけの言葉が伝えられました。折に触れて面談をしたときの思い出、奨学生の長所や魅力、努力してきたことを明かしてくれました。すべての発表後、改めてソーシャルワーカーから挨拶がありました。
「皆さんが学生生活で学んだことや経験したことが発表の中から伝わってきて、それを聞いたら私もとてもパワーをもらいました。そのパワーは私たちの仕事にもつながっていて、自分の仕事でさらに頑張っていこうという思いになりました」
「卒業生のお話しにもあったように、夢が変わってもいいのです。言いにくいかもしれませんが、ソーシャルワーカーに遠慮なく相談してください。あなたが見つけた夢、あなた自身を応援しています」
「発表された6名だけでも本当に一人ひとり違う魅力がありますが、本当にここでしか聞けないお話しだと思います。自分のコミュニティだけでは絶対に出会えないような人とつながることができるのは、夢の奨学金の素晴らしいところだと思います。ここでできたつながりを大切にして、また新しい人と出会っていってください」
卒業記念品のポータブル充電器を贈呈
6人の活動報告が終わり、日本財団から記念品が贈られました。記念品はポータブル充電器。壇上で一人ひとりに手渡されました。

最後に日本財団の高橋恵里子部長より挨拶がありました。
「卒業生の皆さん、改めまして本日はおめでとうございます。皆さん一人ひとりのストーリーをお聞きしていて胸が熱くなりました。今年卒業する方は、新型コロナの流行で大変だった時期もあったと思います。人生山あり谷ありです。疲れた時はゆっくり休んでください。休むことによってまた回復していく力が出てくるのではないかと、私の経験上も感じています。
今日はファンドレイジングを担当している日本財団の職員も参加しておりまして、皆さんの気持ちを寄付者の方にしっかりお伝えさせていただきます。夢の奨学金というプログラム自体も成長していることを感じてうれしく思っています。
こうして集まる機会を通して、奨学生の皆さんがつながってくださったらうれしいです。普段話せないこともこの場なら、この人なら話せるという関係性が作れるとよいなと思います。ぜひ仲良くなって、ネットワークを作ってください。今日は本当に皆さんありがとうございました。」
活動報告会は無事に終了し、最後に集合写真を撮影しました。この後は会場で昼食を取りながら交流を図りました。