入院している子どもと家族を笑顔に認定NPO法人 キープ・スマイリング
病気の子どもの滞在施設においしい食事を提供
認定NPO法人キープ・スマイリング(東京都中央区)は、「子どもが入院しても、子ども家族のみんなが笑顔を失わないでいられる社会」を目指し、さまざまな取り組みに挑戦し続けています。設立は2014年。病気の子どもの滞在施設であるドナルド・マクドナルド・ハウスへの夕食提供からスタートし、入院に付き添う家族への食事提供、長期付き添い中の家族へ必要な食品・日用品を詰め込んだ「付き添い生活応援パック」の無償配布など、活動の幅を広げてきました。直接支援のみならず、付き添い家族の実態調査を行い、家族が抱える課題を可視化しながら、制度改革への啓発活動にも力を入れています。

理事長の光原ゆきさんが活動を始めたのは、ご自身の子どもの付き添い経験から。その経緯や活動ついて伺いました。
2人の娘が先天性疾患で生まれ、産後すぐに入院。娘たちが計6カ所の病院に1年以上も入院したことで、付き添い入院の過酷な現実を目の当たりにしました。病院に泊まり込んで付き添い続けましたが、次女は1歳にならずに他界。その経験を元に、少しでも付き添い環境改善に繋げることができたら、それが彼女の生まれた意味を作ることになる、という思いで、会社員として働きながら、入院中の子どもに付き添う家族を支えるNPO法人の設立に至りました。
2015年には、病気の子どもとその家族が利用できる滞在施設「ドナルド・マクドナルド・ハウス せたがや」で、家族に夕食を提供する「ミールプログラム」の活動をスタート。毎月、季節の野菜が豊富な温かい食事を届けつづけています。
活動開始から4年で、延べ2,000人以上に食事を提供。さらに多くの付き添い家族に届けたいと思っても、病院からは衛生面の理由で手作りのお弁当配布を断られることもありました。
そんな中、衛生面で問題がなく常温で長期保存できる缶詰を小ロットで制作が可能な会社と出会います。活動を継続して支えてくれている有名シェフの料理を缶詰化し、常温保存を可能にすることで、全国に届けるという企画を発案。2018年に完成し「ミールdeスマイリング」と命名しました。日本財団からの助成金を得て、オリジナル缶詰4種類を各1,000個製造。全国の病院を通して、付き添い家族に衛生的で栄養たっぷりの食事を届ける準備ができました。これを全国に届けようと思った矢先に、新型コロナウイルス感染症の流行となり、さまざまな計画を見直すことになります。
同じ頃、「全国の付き添い家族を支えよう、この活動に全力を注ぎたい」という思いが強くなり、勤務していた会社を退職し、NPO活動に専念する決意をしました。先は見えなくても、この活動に全力で向き合う道を選んだのです。
さらに、2018年から東京の聖路加国際病院の小児病棟へ、2020年からは東京医科歯科大学(現東京科学大学)へ家族への食事提供を開始します。団体の活動が紹介されたテレビ番組を観て問い合わせがあった佐賀大学医学部付属病院ともつながりができ、これら3カ所の病院の小児病棟には、現在も毎月お弁当を届けています。
コロナ禍を機に「付き添い生活応援パック」を無償配布
大きな転機となったのが新型コロナウイルス感染症の流行です。感染防止の影響で家族に届ける食事の調理活動が制限されました。病院内での面会も困難になる中、付き添う家族が外部との交流を断たれ、自身の食事や、日常の生活用品の調達もままならない厳しい状況に直面しました。
こうした状況を改善するためにアイデアを練って作ったのが長期間付き添う家族を対象に無償配布する「付き添い生活応援パック」です。(※応募の日から10日以上子どもと一緒に泊まり込む予定がある方が対象)

パックに封入されている食品や生活用品は、主に企業からの寄付としてご提供いただいています。スタッフがそれぞれ知り合いの企業に呼びかけ、付き添い家族の現状を説明し、企業に物資の提供をお願いしたところ、多くの企業が「大変な親御さんを支えたい」「このような問題があるとは知らなかった」「ぜひ応援したい」と、商品を提供してくれることになりました。
企業からは物資の提供のみならず、付き添う家族への応援メッセージも作成いただいています。受け取ったご家族に、「たくさんの人や企業があなたを応援している」「一人じゃない」ということが少しでも伝わればと思っています。
「付き添い生活応援パック」は長期入院するお子さんに付き添うご家族がウェブサイトから直接申し込み、条件を満たした場合、病室までお届けされる仕組みです。小児医療の現場の方々の協力なしでは成り立たちません。この取り組みを周知するため、小児病棟の看護師長宛にパックの内容や活動概要のチラシを作成し、広報協力を依頼しました。
パックを病室まで届けてくださるのは病院の看護師や事務の方々です。ご多忙な中、お願いしているのですが、パックを開けた瞬間に笑顔になって、とても喜ばれていました、とスタッフの皆さんからも喜びの声をいただいています。不安なことが多い付き添い生活の中で、少しでもホッとできて笑顔になれるエールを届けたいと思っています。付き添い家族と病院スタッフの両方に団体の思いが届いていることを実感しています。
また、突然の子どもの入院にとまどう家族をサポートするため「つきそい応援団」というウェブサイトを立ち上げました。ここでは付き添いを経験した家族が、これから付き添う家族に役立つ情報をシェアしています。さらに病院の待合室やクリニック、親子学級などで配布できるよう、ソーシャルワーカー監修のもと「つきそい応援団ハンドブック」を作成。このハンドブックは、看護師の皆さんからの評価も高く、多くの病院や公共施設にも設置されています。
付き添い家族が抱える課題を可視化する
家族への直接の支援のみならず、2022年には『入院中の子どもに付き添う家族の生活実態調査2022』を公表しました。0~17歳の子どもの入院に付き添う家族を対象に行われ3,643件の回答を集計。付き添う親にとって「食べられない」「眠れない」「目が離せない」「経済的困窮」「きょうだいへの影響」の5つが主な困りごとであることが明らかになりました。
この5つの困りごとは、実は30〜40年前から変わらない問題。それが調査結果として数字で表されたわけです。もっともインパクトを与えたのは、多くの親が泊まり込んで看護業務をサポートせざるを得ないという実態です。これまで可視化されてこなかったことが、私たちの調査で定量的に明らかになったのです。
この結果を国に提出したことで、2023年に国が初めて「付き添い」の問題を社会課題として認識しました。その後、厚生労働省は2024年度の診療報酬改定で、希望して付き添う家族の食事と睡眠への配慮を小児入院医療管理料の算定要件とし、さらに複数の保育士・看護補助者の配置加算を導入しました。また、日本小児科学会や日本小児看護学会も付き添いに関する見解を明確に示し、こども家庭庁は令和6年度補正予算で病院の付き添い環境改善に1.9億円を計上しました。
私たちの活動には、2つの軸があります。1つは、現在付き添っている家族への直接的な支援です。食事や物資、情報提供などを通じて、付き添いの日々をサポートしています。ただ、どれだけ支援を重ねても根本的な環境が変わらない限り、その困りごとはなくなりません。そこで、もう1つの軸として、国や自治体、病院、学会等に働きかけ、付き添い環境そのものの改善を目指します。こうしたことができるのも、支援を通じてご家族との間に築かれた信頼関係のおかげです。心から感謝しています。
子どもにとって親に付き添ってもらうことは「子どもの権利」でもあります。子どもを中心とした家族の事情に合わせ、付き添いが選択できることが大事だと考えています。付き添いを選んだ場合は、親が健康を損なうことなく、経済的な不安なく安心して付き添える環境を。付き添わない(または、付き添えない)場合は、安心して子どもを預けられる医療体制が整うことが目指す姿だと考えます。
そのためにも、当事者の声を国や学会、自治体に伝え続けることが重要な役割だと考えています。先述の保育士の加算や看護補助者の配置など、診療報酬改定の進展は、安心して子どもを任せられる体制への大きな一歩であると評価しています。
突然の入院、長期入院、面会支援などきめ細かくサポート
2025年にはさらなるきめ細かい支援を目指し、長期の付き添いだけでなく、突然の入院で困る短期の付き添い家族のために「付き添い生活応援パックライト」の配布をスタートしました。

この「付き添い生活応援パックライト」は、これまで築かれた病院との信頼関係によって実現した新しい事業です。突然の入院で不安を感じている親御さんたちに安心感をもたらすと同時に、家族にパックを手渡す看護師の皆さんからも評価いただいています。

看護師の皆さんからは、突然の入院で不安な様子のご家族に支援物資を渡すことで「親御さんとのコミュニケーションのきっかけにもなった」との声もあります。緊急入院の場面で付き添う家族と向き合う看護師の皆さんのお役に立てたことは、思いがけない喜びでした。
毎年増加している「付き添い生活応援パック」の申し込み数は、今年も年間約3,300個、来年には年間4,000個近くに達する見込みです。
広報活動としては、小児科関連学会に団体のブースを出展し、医療者の方々に「付き添い生活応援パック」「付き添い応援パックライト」を周知しています。「付き添い生活応援パック」については全国の小児病棟のある病院にチラシを送付し、院内で掲示していただくことで、付き添い家族への周知が進んでいます。また、「付き添い生活応援パックライト」については、地域の中核病院、二次・三次救急病院への配布をさらに広めていきたいと考えています。
今後は遠方から入院する子どもの面会に通う家族への支援を新たに開始する準備を進めています。家族の事情や病院のルールにより遠方から面会に通う家族など、これまで支援の手が届かなかった人々を対象に新たな支援事業を開始する予定です。
団体を設立して10年、支援の申し込みは年々増えています。支援を受けた家族が「自分が辛かったときに応援されたことがうれしかった。いま大変な人を支えたい」と、団体の寄付者という応援団になってくれることはとても心強く感じています。支援を受け取ってくださった家族からの喜びの声やさまざまな情報提供は、私たちの活動の原動力となっています。これからも病気の子どもとその家族が笑顔を失うことがない社会を目指し、一歩ずつ活動を重ねてまいります。
「日本財団 難病の子どもと家族を支えるプログラム」に興味をお持ちの方は、ぜひ難病児支援ページをご覧ください。
文責 ライター 林口ユキ
日本財団 公益事業部 子ども支援チーム