被災者も支援者になる ― 写真洗浄と中間支援がつくる復興―写真洗浄ボランティアと、中間支援団体KVOADの挑戦

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災害で汚れた写真を1枚ずつ洗ってきれいに

災害で失われるのは、家や家財など目に見えるものだけではありません。家族の歴史や人生の時間が刻まれた「写真」もまた、被災者の心に大きな影響を残します。
熊本県を拠点に活動するボランティア団体「あらいぐま人吉」は、豪雨や地震で泥にまみれた写真を預かり、洗浄して持ち主のもとへ返す活動を続けてきました。一枚一枚の写真に丁寧に向き合うこうした活動の背景には、支援が特定の地域や分野に偏らず、必要な場所へ届くよう団体同士をつなぐ仕組みがあります。本記事では、現場での取り組みと、それを支えるネットワークの両面から、熊本発の災害支援のかたちを紹介します。

12万枚以上の写真を洗浄、被災者のもとへ

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「あらいぐま人吉」の拠点(熊本市)
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特別な薬剤などは使わず、手作業で丁寧に洗浄

熊本市内の静かな住宅街にある一軒家。中に入ると何百枚もの写真が整然と干されている光景が目に飛び込んできます。ハンガーに洗濯ばさみで留められているのは、ほとんどが家族写真。入学式、運動会、結婚式、何気ない日常の一コマが切り取られています。
ここは、熊本県を中心に豪雨や地震などで水や土砂に埋もれてしまった写真を預かり、無料で洗浄・返却する取り組みを続けるボランティア団体「あらいぐま人吉」の活動拠点。この日もボランティアの人たちがスポンジを手に、黙々と作業を続けていました。洗われている写真の多くは、令和7年の水害で被災したものです。写真は、家族の思い出の象徴。泥だらけになってしまっても捨てることができず、片付けの手が回らないまま、倉庫などの片隅に置かれ続けているケースが少なくありません。

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「あらいぐま人吉」代表 長山公紀さん

「泥だらけになった写真を見るのがつらくて放置している人、捨ててしまったことを後悔している人など、写真のことが心に引っかかり、苦しさを抱えている被災者も多いものです。私たち『あらいぐま人吉』はそういった悩みを抱える被災者を一人でも減らしたいという思いから、令和2年熊本豪雨後の令和3年(2021年)に活動をスタートしました」と、「あらいぐま人吉」代表の長山公紀さん。

「写真は、その人が生きてきた時間そのものです。それを取り戻すことで、前を向くきっかけになる。泣きながら喜ばれる方も、少なくありません。写真をきっかけに、家族の会話が戻ったという話もよく聞きます」。これまでに、あらいぐま人吉が扱った写真は17万枚(うち12万枚を洗浄返却済み)。時には県外で同様の活動に取り組む他団体の協力を得ながら、作業を続けてきました。

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事務局長の上野真由美さん
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家族の思い出がいっぱいの写真。細心の注意を払って作業を進める

誰もが気軽に参加できる支援の形「写真洗浄」

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被災地での活動の様子(写真提供:あらいぐま人吉)

被災地をメンバーが戸別訪問し、「被災した写真はありませんか」と声をかけて回るところから活動は始まります。預かった写真は、拠点に持ち帰り、丁寧に洗浄され、乾燥させてから持ち主に返却されます。
写真洗浄に使うのは、水と消毒用のアルコールのみ。特別な薬剤や高価な機械は必要ありません。洗面器に水を張り、スポンジで泥や汚れを落とし、アルコールで拭き上げる。工程はシンプルですが、すべてが手作業です。

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この日はボランティア5人が作業中
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「被災者の皆さんのお役に立てるのがうれしい」と話す

作業中のボランティアの方によると、「写真洗浄というと、専門的で難しい技術が必要だと思われがちです。でも実際は、誰でもできる作業なんですよ」とのこと。ボランティアに参加したきっかけを伺うと、「被災者のために何かしたい、という気持ちは前からありました。でも、土砂の撤去や家屋の片付けは体力的に厳しくて。写真洗浄なら、私にもできそうだと思って参加しました」と話してくれました。
もう一人のボランティアの方も、同じく「被災地のために何かをしたい」と思っていたときに、「あらいぐま人吉」に出会ったといいます。「被災地まで出向くのは難しいですが、写真洗浄なら空いた時間に気軽に関われる。被災者の皆さんの思い出に、そっと寄り添えるところにやりがいを感じています」。

被災直後に集められた写真の多くは、濡れた状態です。濡れた写真を放置すると、表面のゼラチン層にバクテリアが繁殖してインクが溶け出してしまい、写真の画像が損傷していきます。バクテリアが繁殖する前に洗浄作業をするとよいのですが、枚数が膨大なため、中には預かってから洗浄まで数カ月間もかかる場合があります。

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2025年に日本財団の助成で新たに冷凍庫を購入
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写真を冷凍保存してバクテリアの繁殖を防ぐ

そこで重要な役割を果たしているのが「冷凍庫」です。あらいぐま人吉では、日本財団へ寄せられた寄付金を活用して冷凍庫を導入しました。写真を一時的に冷凍保管することで、バクテリアの繁殖を防ぎ、画像の損傷や色あせの進行を止めることができます。
「冷凍庫に入れることで写真の画像損傷を“一時停止”できるので、すぐに洗浄できなくても、写真を守ることができます。冷凍庫は活動を続けるうえで欠かせない設備なので、助成金で購入できたことを心から感謝しています」と長山代表。

被災者も復興の当事者に。支援の循環を作りたい

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被災地での写真洗浄会の様子(写真提供:あらいぐま人吉)

「あらいぐま人吉」の活動の特徴は、単に写真を洗浄して終わるのではなく、被災者自身が作業に参加できる場を大切にしている点にあります。各地で写真洗浄会を開き、ボランティアと被災者が同じテーブルで手を動かします。「被災すると、どうしても“支援される側”になってしまいます。しかし、一方的に助けてもらうばかりだと、かえってつらく感じる方も少なくありません。洗浄作業に加わることで、自分も復興の一端を担っている、人の役に立てているという実感を持ってもらえたらと思っています」と長山代表は話します。
洗浄のノウハウを身につければ、次の災害では、今度は自分が支援者になることもできます。そんな支え合いの循環を生み出していくことが、「あらいぐま人吉」のめざす未来です。最近では熊本県内の大学に通う学生がサークル活動として継続的に写真洗浄ボランティアを行ったり、人吉市の社会福祉協議会が夏休みの中高生向けボランティアイベントで写真洗浄体験会を開いてくれたりと、若い世代への周知も進んでいます。

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「あらいぐま人吉」ではボランティアを随時募集中。詳細は公式HPへ

「それでも、まだ私たちの活動を知らずに泣く泣く写真を処分してしまい、後悔に苦しむ被災者の方がたくさんいます。そんな人を一人でも減らすことが、私たちのミッションです」と長山代表。「写真は、一度捨ててしまったら二度と取り戻せません。だからこそ、災害時はもちろん、平常時から『捨てないで』と伝え続けたいと思います」。

支援のムダとムラをゼロに!中間支援団体KVOADの取り組みとは?

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くまもと災害ボランティア団体ネットワーク代表理事の樋口務さん

熊本県内では、平成28年(2016年)の熊本地震を機に、多くの民間ボランティア団体が発足しました。被災者の生活再建支援、物資の配布、心のケア、家屋の片付けなど、それぞれが得意分野を生かしながら支援活動を行っています。
しかし、災害時には多くの団体が一斉に被災地へ入るため、情報共有が十分でないと、支援が特定の地域や内容に偏ってしまうことがあります。その一方で、支援の手が行き届かない“空白地帯”が生まれてしまうことも少なくありません。こうした課題を解決するために重要な役割を担っているのが、「特定非営利活動法人くまもと災害ボランティア団体ネットワーク(KVOAD)」です。KVOADは、県内外の民間ボランティア団体やNPOなどをつなぐ中間支援団体として、各団体の活動内容や規模、現地での動きを把握し、全体をコーディネートしています。

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各支援団体の活動を可視化・共有して「支援のムラとムダをなくしたい」と樋口さん

KVOADの創立メンバーで代表理事を務める樋口務さんは、「KVOADのミッションは、支援のムラとムダをなくすこと」と言います。「災害が発生すると、毎日KVOADは支援団体や関係機関が参加して『火の国会議』という定例ミーティングを開催し、被災地の状況やニーズ、各団体の活動状況をリアルタイムで整理します。そのうえで、『どの地域に、どの支援が、どれくらい必要なのか』を見極め、適切な団体へとつないでいきます。実際に、写真洗浄に取り組む「あらいぐま人吉」も、KVOADが主催する『火の国会議』に参加しています。会議を通じて社会福祉協議会とのつながりが生まれ、その後、写真洗浄の依頼や体験会への出展につながりました。また、日本財団の助成金に関する情報も、この会議をきっかけに共有され、活動の継続・拡充を支える大きな力となりました。現場での支援は、こうした連携によって支えられています。こうした調整が行われることで、支援の重複を防ぎながら、支援が不足している地域にも手を差し伸べることが可能になります」。

KVOADの役割は、災害時のみにとどまりません。いざというときに迅速に連携し、それぞれの強みを生かした支援ができるよう、平常時から、団体同士が顔の見える関係を築くための定例会議や研修を行い、連携体制の強化や人材育成に取り組んでいます。
こうした平常時の積み重ねは、令和7年の大雨災害で、その成果を存分に発揮しました。発災直後から、KVOADには各団体の活動状況や被災地からのニーズが集まり、どの地域にどの支援が必要かが整理されていきました。その情報をもとに、各団体が役割分担をしながら現地に入ることで、当初支援が手薄だった地域にも支援を届けることができました。

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ハイブリッド開催による第462回火の国会議の様子(2025年8月)(写真提供:KVOAD)

地域や県境を越えて支援の輪を広げたい

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被災地(人吉市)に出向いての支援団体の連携会議の様子(2022年12月)(写真提供:KVOAD)

特に喜ばれたのが、エアコン関連の支援です。被災地では多くの家屋でエアコンの室外機が水没し、エアコンが使えない状態になりました。発災時は真夏で猛暑日が続いていたため、エアコンの復旧は喫緊の課題でした。そこでKVOADからエアコン修理技術に長けた団体に連絡して意見を聞くと、洗浄・消毒・乾燥すれば半分以上は復旧できることが判明。修理ボランティアが現地に赴いて対応することで、復旧に貢献しました。「修理ができないほどのダメージを受けたエアコンももちろんありましたが、そのうち経済的に余裕のない高齢者世帯などには、支援団体と連携してエアコン買い替えを進め、最終的に14件の支援を実現しました」と、樋口さん。
そのほか、社協のボランティアセンターへの飲料水提供や、被災者向けの支援制度情報を記載したパンフレットの配布なども行いました。これら一連の活動はすべて日本財団をはじめ、さまざまな団体や個人からの寄付や助成金によって支えられています。

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日本財団の助成を活用して作成した小冊子
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通常時から市民に配布することで防災意識の向上を促す

今後について樋口さんは、災害対応を「非日常の対応」として切り離すのではなく、「地域の日常の延長線上に位置づけることが重要だ」と指摘します。平常時から団体同士が継続的に情報を共有し、互いの役割や強みを理解しておくことで、発災時にも迅速かつ効率的な連携が可能になるといいます。
「誰かが困ったときに、その場の善意に頼るのではなく、状況に応じて適切な支援団体が速やかに動ける体制を、地域の中に定着させていきたい。その積み重ねが、次の災害への備えになります」。こうした連携の考え方は、熊本県内に限られたものではありません。樋口さんは、熊本で培ってきた団体間連携の仕組みや運営ノウハウを基盤に、九州全体で災害支援団体が横断的に連携できるネットワークの構築を構想しており、「地域や県境を越えた支援体制を整備することで、広域災害にも柔軟に対応できる基盤づくりを進めていきます」と語りました。

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「自治体の枠を越えた広域防災ネットワークを構築したい」と話す樋口さん

日本財団では、皆さまからお預かりしたご寄付を最大限に活用し、これからも被災地の復興支援に取り組んでまいります。引き続き、災害復興特別基金への皆さまからの温かいご支援を心よりお願い申し上げます。