「付き添い家族」の見えざる過酷な現実。NPOと企業が日本財団を通じて課題解決に向き合う

写真:赤坂の日本財団オフィスで実施された鼎談の様子。写真左より、光原ゆきさん、本橋恭子さん、矢野勝也さん。画面下部に「NPOと企業が寄付を通じて『付き合い家族』問題に向き合う。キープ・スマイリング×中外製薬」の文字。
鼎談は東京、赤坂の日本財団オフィスで実施されました

子どもが重い病気になり、入院を余儀なくされたとき、その傍らで24時間体制のケアを担う「付き添い家族」の存在があることをご存じでしょうか。重い病気を抱えた子を持つ親は、医療現場で、十分な食事や睡眠をとることもできず、自身の心身を削りながら子どもを支えねばならない、過酷な現実があります。

認定NPO法人キープ・スマイリングは、そうした「付き添い家族」への直接的な物資支援からスタートし、現在では国や病院を巻き込んだ、「付き添い家族」の社会的な環境改善へと活動の幅を広げています。そして今回、難病児とその家族を取り巻く課題の解決のため、日本財団を通して、支援(寄付)を実施したのが、様々な医薬品を提供する中外製薬株式会社です。

これから寄付や社会貢献活動を検討されている個人・法人の方々、そして助成を得て活動を広げたいNPO関係者の方にとって、多くの学びとヒントが詰まった鼎談の模様をお届けします。

鼎談参加者

  • 光原ゆきさん:認定NPO法人キープ・スマイリング理事長
  • 本橋恭子さん:中外製薬株式会社ESG推進部社会貢献グループ
  • 矢野勝也さん:中外製薬株式会社ESG推進部社会貢献グループグローバルヘルス担当

見えざる社会課題「付き添い家族」の過酷な現状と、支援の原点

ーーまずは、中外製薬様がなぜ「付き添い家族の支援」に着目されたのか、そしてキープ・スマイリング様がどのような課題感を持って活動されているのか、それぞれの立場や関与の背景からお伺いさせてください。

光原さん:私たちキープ・スマイリングは、2014年から入院中の子どもに付き添うお母さん、お父さん、ご家族を支援する活動を続けています。私自身、フルタイムで働いている中で2人の子どもを出産し、2人とも先天性の疾患があったことで、長期間子どもと一緒に病院に泊まり込む「付き添い入院」を経験しました。次女は1歳にならずに他界してしまったのですが、そうした経験を1人の母親として経たことが、活動のスタート地点です。

子どもが重い病気になり、命を失うかもしれないという状況は、家族にとって本当に一大事です。日本の病院の多くでは、親が子どもと一緒に泊まり込み、日中起きている間はとても忙しく子どもの身の回りのお世話をしています。ミルクをあげる、おむつを替える、お風呂に入れるだけでなく、薬を飲ませたり、毎回排泄の量を量って記録し看護師さんに提出したりと、こと細かな対応をしています。

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支援する側、される側が直接コミュニケーションする貴重な機会となったこの日、双方の思いが数多く交換されました

ーーなぜ、そこまで親御さんの負担が大きくなってしまうのでしょうか。

光原さん:背景にあるのは「看護師の配置基準」の課題です。保育園であれば子どもの年齢によって保育士さんの配置基準が変わりますが、病院においては大人であっても子どもであっても、看護師さん1人あたりが診る患者さんの数は変わりません。自分でご飯も食べられず、何もできない赤ちゃんを夜間に看護師さん1人で何人も診るというのは物理的に不可能で、手が行き届かないため親が泊まり込み、ケアをせざるを得ない状況が常態化してしまっています。

しかし制度上は、親が手伝っている業務は「本来看護師が行うべき業務」とされています。そのため、「親は病室にいるのに、いないもの」として扱われ、親への食事の提供や、仮眠のためのベッドを用意するといったサポートが受けられないケースがほとんどです。ですから、ちょっとした隙間の時間に院内を走ってコンビニで食事を買い、トイレに行くこともままならない日々を、多くの親御さんが過ごさねばならないのです。

POINT:「親は病室にいるのに、いないもの」として扱われ、サポートが受けられないのが現実

さらに、病院によって付き添いのルールはまちまちです。当たり前のように付き添いを求められる病院もあれば、逆に「泊まれない」と言われる病院もあります。親は体調を崩しながらでも、子どものために必死に付き添っています。子どもにとって、つらい治療に向き合う中で、お母さんやお父さんがにっこり笑って「大丈夫だよ」と言ってくれることは大きな安心を与えます。だからこそ、親も子どもも笑顔を失ってしまう過酷な付き添いの現状をなんとか変えたい。それが私たちの目指す「子どもと家族が笑顔を失わない社会」というビジョンに繋がっています。

本橋さん:私たち中外製薬は、社会貢献活動として子どもに対する支援に取り組んできました。そのなかで、日本財団からの活動紹介やキープ・スマイリングの調査レポートを拝見する機会をいただき、医療における子どもを取り巻く課題として、難病児とそのご家族が置かれている様々な状況、なかでも付き添い家族の皆さまが置かれている過酷な状況を知り、大きな衝撃を受けました。

難病を抱えるお子さんの治療には、ご家族の付き添いが不可欠です。しかし、ご家族が心身の健康を損なってしまえば、結果的にお子さんの治療にも悪影響を及ぼしかねません。寝る場所も限られ、食事もまともに取れず、自分のことは後回しにするのが「当たり前」になっている環境には、強い課題感を感じました。

矢野さん:私はこれまでグローバルヘルスとして海外の医療支援(カンボジアでの活動など)に関わってきましたが、「医療」は高度な医療や検査を提供するだけでは十分ではないと痛感しています。子どもの医療を支える「家族」という存在が健康でなければ、治療は持続的なものとして成り立ちません。私たちは製薬企業として医療に関与していますが、「製薬」という事業だけでは手の届かない「患者様の家族に対するケアや環境改善」という領域を担ってくださっているキープ・スマイリングのような活動は、私たち中外製薬が掲げる「患者中心の高度で持続可能な医療」の実現に直結していると捉えています。

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「点から線、面」へ。現場と国、両輪で挑む環境改善へのステップアップ

ーーキープ・スマイリング様の事業計画では、下記のようなこれまでの直接支援から「環境改善」へと取り組みを広げている印象を受けます。こうした展開にはどのような意図があるのでしょうか?

  • 「付き添い環境改善よろず相談所」の開設
  • 「付き添い環境改善ハンドブック」の制作
  • 「付き添い支援協議会」の設立
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光原ゆきさん:認定NPO法人キープ・スマイリング理事長

光原さん:これまで私たちは、長期付き添いのご家族に食品や日用品を詰めた「付き添い生活応援パック」を無償で届けるなど、当事者への直接的な支援を重ねてきました。最近では、緊急・短期入院された方向けの「付き添い生活応援パックライト」の配布や、遠方から面会に通う方への交通費支援も始めています。

この「付き添い生活応援パックライト」は、現場の看護師長さんのご判断でご家族に配っていただいているのですが、その活動を通じて現場の医療従事者の方々との繋がりが強くなりました。そこでお聞きしたのは、「現場の看護師さんたちも、なんとかして付き添い環境を改善したいと深く悩んでいる」という事実です。人手も予算も足りない中で親に頼らざるを得ず、その親がまともな食事も睡眠もとれていない状況に、看護師さんたちも忸怩たる思いを抱えていらっしゃいました。

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「付き添い生活応援パックライト」には、日本財団からの助成金をもとに購入した商品と様々な企業から提供された商品が詰め合わされています。そこには、キープ・スマイリング様が長年の活動を通じて見えてきた「急な付き添いで本当に必要なもの」の知見が詰め込まれているそうです。(画像提供:キープ・スマイリング(外部リンク)

しかし、病院ごとに歴史や文化があり、他の病院がどのようなルールで運用しているのかを、看護師の方々が知る機会がほとんどありません。ですから「他の病院はどうしているのか知りたい」という声も多く、私たちの活動を通じて、事例を共有することには現場改善に向けた可能性があると考えています。

今回の事業計画では、こうした取り組みをさらに推し進めます。「よろず相談所」を通じて各病院の悩みを聞き、好事例を共有することで、それぞれの病院が自走して環境改善に取り組めるよう伴走します。そして同時に、国や自治体に対する診療報酬や補助金の働きかけ(トップダウンの制度改革)にも取り組んでいきます。親や個別の病院の支援という、「点での支援」を線にし、面へと広げていき、全国的な付き添い環境の改善、底上げを狙っています。

POINT:点での支援を線にし、面へと広げていくことで、全国的な付き添い環境の改善を狙う

本橋さん:私たちも、キープ・スマイリングのこの「点から線、面へ拡張していく」という取り組みに期待感を持っています。ただ食事を提供するだけでなく、それぞれの病院の困りごとを吸い上げ、社会にも訴えかけて大きな力に変えていこうとされる活動は、根本的な課題解決に向けた取り組みとして非常に重要だと感じています。

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企業が寄付を実行するうえで重要な「ストーリーの構築」

ーー財務的な利益を直接求めない社会貢献活動において、中外製薬様ではどのようなプロセスや評価軸で寄付の意思決定を行っているのでしょうか?

矢野さん:企業が寄付を実現するうえで重要なのは「ストーリーの構築」だと考えています。ただ「良い活動だから支援しよう」では、意思統一は難しく、方向性も見失われてしまう可能性があります。

POINT:企業が寄付を実現するうえで重要なのは「ストーリーの構築」

中外製薬にとっての大きな社会貢献は革新的な医薬品を創出することですが、「薬を創って終わり」とは考えていません。病気の早期発見のための啓発、医療へのアクセスの確保、そして治療を支える家族の環境づくりなど、医療エコシステム全体を俯瞰した取り組みが必要です。今回の寄付は、難病の子どもとその家族を支えることが、結果的に当社が目指す「患者中心の高度で持続可能な医療」の実現に不可欠である、という論理を立てました。企業単独ではできないことを実現する筋道を日本財団がきちんと選定をしてくださり、機動力と熱量を持つNPOに託すというスキームの強みが明確だったからこそ、社内でもスムーズに理解が得られたと捉えています。

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矢野勝也さん:中外製薬株式会社ESG推進部社会貢献グループグローバルヘルス担当

今回のケースでは、企業が直接NPOを支援するのではなく、日本財団を通じて、こうした課題にアプローチしたことも寄付活動の意義の一つだと捉えています。企業単独では発信力やステークホルダーの巻き込みに限界がありますが、日本財団がハブとなって、「付き添い家族」に関する現状を「社会課題」として広く発信してくださることで、より大きな波及効果を生み出すことができますから。

私たちは社会貢献の優先分野として「医療」「次世代育成」「社会」の3つを掲げています。日本財団、キープ・スマイリングと三者で行っている本活動は、まさにこの分野における社会課題の解決に貢献するだろうと考えています。

支援が事業を加速させる。調査から見えた「現場の可視化と波及効果」

ーー今回の助成を受けることで、キープ・スマイリング様の活動にはどのような可能性が生まれるのでしょうか。

光原さん:本当に心強さしかありません。これまでは資金や人材の壁があり、やりたいことがあっても少しずつしか進められませんでした。しかし今回の多大なご支援のおかげで、本来なら3年かかる事業のスピードを1年に縮められるかもしれない。現場の課題解決を一気に加速させることができると確信しています。

POINT:多大なご支援は、本来なら3年かかる事業のスピードを1年に縮められるほどの可能性を持つ

私たちが目指す最終的なゴールは、家族の事情に合わせて「安心して付き添える環境」が整うこと、そして、付き添いを前提としなくても、子どもが安心して療養でき、家族も安心して病院に任せられる体制が確保されることです。2028年度を見据え、まずは20の病院の伴走支援から成功事例を作り、それを横展開していくことで、全国的な環境改善を標準化していきたいと考えています。

ーー支援してくださる企業や個人への成果報告や、事業の進捗共有についてはどのようにお考えですか?

光原さん:応援いただいたからには「世の中が変わったな」と実感していただきたいです。支援した物資がどこにどれだけ届き、ご家族からどのような喜びの声が寄せられたのか、アンケート結果などをもとにこまめにフィードバックすることを心がけています。また、できれば中外製薬の皆さまと一緒に病院を訪問し、現場の医療従事者やご家族の喜ぶ姿を直接見ていただくような機会も作れたらと思っています。

POINT:「世の中が変わった」という実感を届けるべく支援の届け先やご家族の声をフィードバック

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寄付がもたらすポジティブな影響

ーー今回の寄付を通じて、中外製薬様の社員の皆さまの意識にも変化が起きているのではないでしょうか。

本橋さん:そうですね、昨年、社内のチャリティイベントの一環として、日本財団様には子どもを取り巻く社会課題をテーマにご講演いただきましたが、その際、難病のお子さんとそのご家族の現状についても触れてくださいました。講演後は、社員から「付き添い家族が24時間体制で十分な睡眠もとれない現状を初めて知った」「難病のお子さんがいることで、きょうだいの体験機会が奪われてしまう『体験格差』の問題に心を痛めた」といった声が多く寄せられています。医療に携わる企業にいるからこそ、難病児とその家族の支援に強い関心を持つのだと思います。

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本橋恭子さん:中外製薬株式会社ESG推進部社会貢献グループ

光原さん:社員の皆さまが関心を持ってくださったことは本当に嬉しいです。この「付き添い」の過酷さは、経験したことがない方にはなかなか知られていません。社会を変えるポジティブなムーブメントを作るためには、経験していない多くの方にこの課題を知っていただき、「変えていくべきだ」と思っていただくことが非常に重要です。

矢野さん:寄付を通じて社会課題の解決に貢献することは、社員皆の会社に対するエンゲージメント(この会社にいてよかったという誇り)の向上にも影響していくと考えています。ただ利益を追求するだけでなく、それが医療や社会に還元され役立っていることが実感できるのは、視点を変えれば、社員にとっての福利厚生のように、喜びを感じるものとして機能していると考えています。

物理的支援に込めた「心のケア」と、広がる「愛の循環」

ーーキープ・スマイリング様の「付き添い生活応援パック」を受け取ったご家族の反応はいかがですか?

光原さん:私たちの支援は物理的なものですが、その先にある「心の支援」の側面が大きいと思っています。病気の子どもを看病する親御さんは、「自分が頑張るのは当たり前だ」と孤軍奮闘しがちです。だからこそ、「あなたを応援している人が社会にこんなにたくさんいるよ」と伝えることが何よりの勇気になります。

「付き添い生活応援パック」には、支援いただいた企業の皆さまからの応援メッセージを添えています。また、箱を開けた時の喜びを大切にするため、熟練のスタッフが、段差なく、隙間なく、美しく、なるべく多くの支援品をお届けすべく商品を詰め込んでいます。応援パックの隅々に宿るエールを感じて、「自分のためにこんなに丁寧に詰めてくれたんだ」と涙を流されるご家族も少なくありません。

ーー支援を受けたご家族が、後に寄付をする側に回る「循環」も生まれていると伺いました。

光原さん:そうなんです。退院された後に、「あの時応援してもらったから、今度は自分がいま辛い思いをしている人を支えたい」と、寄付をしてくださる方がとても増えています。辛い経験で終わらせるのではなく、その経験が誰かの役に立つことで、ご自身の人生のプラスの意味付けになっている。寄付という行為が、温かい「愛の循環」を生み出していることを、活動を続ける中で強く実感しています。

POINT:支援を受けたご家族が、後に支援をする側に寄付という行為が生み出す温かい「愛の循環」

中外製薬のお二人のように、寄付をしてくださる方と直接対話でき、その後ろにいらっしゃる社員の皆さまの思いを受け取れることは、私たちにとってメラメラとやる気が出る大きなエネルギーになっています。

矢野さん:今日お話を伺って、私たちが支援した資金が最終的に当事者の方々の笑顔に繋がり、医療従事者を支える力になっていることが実感でき、本当に支援できてよかったと感じています。

本橋さん:付き添い家族のリアルな声をお聞きすると、本当に心を打たれます。点から線、面へと繋げていくキープ・スマイリングのパワーに触れ、私たちもその変化の一助になれることを大変嬉しく思っています。

小さな一歩が社会を変える力に。子どもの笑顔をつくる大切なちからになってください。子どもサポート基金へのご寄付はこちら

応援したいという気持ちが、エネルギーをくれる

ーー最後に、この記事を読んで「自分も寄付や支援のアクションを起こしてみたい」と考えている読者の皆さまへ、メッセージをお願いします。

矢野さん:日本の寄付文化はまだ成熟の余地があると思いますが、寄付を通じて社会課題の解決に貢献することは、自分自身の満足感や誇りに繋がります。必ずしも大きなアクションが必要なわけでなく、小さな支援から始め、それが重なることで違う景色が見えてくるはずです。

本橋さん:ひとつの企業、1人の力は小さくても、それが循環し、広がっていくことで、病気のお子さんを抱えるご家族が安心して暮らせる社会へと繋がっていくはずです。まずは第一歩を踏み出していただき、そして1回で終わらせるのではなく、そのムーブメントに継続して参加していただければ嬉しく思います。

光原さん:よく「これだけの金額しか寄付できなくて申し訳ない」とおっしゃる方がいるのですが、金額の多寡は全く関係ありません。応援したいと思ってくださるそのお気持ちだけで、私たちはとてつもないエネルギーをいただいています。寄付だけでなく、この課題を周りの人に伝えていただくことも立派な支援です。無理のない形で小さな一歩を踏み出していただければ、その方も社会課題の解決に向かうムーブメントの大切な仲間です。一緒に、子どもと家族が笑顔でいられる社会をつくっていきましょう、とお伝えしたいです!


日本財団では、皆さまからお預かりしたご寄付を最大限に活用し、これからも難病の子どもとその家族をはじめとする、様々な困難を抱える子どもたちを対象にした事業に取り組んでまいります。引き続き、温かいご支援を心よりお願い申し上げます。