お祝いの気持ちを未来へ繋ぐ。リユース型祝い花「BLONIA」が描く、資源と資金の「ふたつの循環」モデル

イベント会場を彩る「お祝い花」がイベント終了後に廃棄される「フラワーロス」は、エンターテインメント業界の隠れた課題でした。 株式会社NexToneが開始した「BLONIA(ブロニア)」は、生花に代わる布製の「華」と呼ばれるお祝い花を繰り返し使う「資源の循環」と、商品価格の一部を受取主が寄付や活動支援金に充てる「お金の循環」を実現した、新しいリユース型祝い花サービスです。
ビジネスとしての持続性と社会課題解決をいかに両立させたのか。発起人である同社の米山奈穂子さんに、サービス誕生の秘話やビジネスモデル構築の裏側、寄付の受け皿に日本財団を選んだ理由をお伺いしました。
エンタメ業界の「もったいない」を解決したい。長年の課題感から生まれた新しい選択肢
ーーまずは、「BLONIA」という全く新しいサービスを立ち上げたきっかけや、背景にある課題感について教えてください。
米山さん:私たちNexToneは、音楽著作権の管理やデジタルディストリビューションを主な事業としており、音楽関連企業やアーティストの方々と触れ合う機会が非常に多い会社です。エンターテインメントという、世の中にポジティブな思いを届ける空間の中で、「廃棄されてもったいない」というネガティブな現象を生じさせるのは避けるべきだと、長年感じていました。
私自身、現在の会社に入る前は10年以上、音楽プロダクションに勤めており、アーティストのコンサートでお祝い花を頂戴することも、こちらから出す役割を担うことも多くありました。そこでずっと抱えていた「もったいない」という思いが、なにか新しいものを創出したいと考えた原点になり、「BLONIA」を立ち上げるきっかけになりました。

ーーエンターテインメント業界内部でも、フラワーロス問題への課題感は共通してあったのでしょうか?
米山さん:はい。ここ1〜2年で「生花が廃棄されてしまうのはもったいない」と声を上げる方が増えてきた印象です。加えて、私たちが「BLONIA」の営業活動でお話ししても、皆さま口を揃えて「そうだよね、もったいないよね」と強く共感していただけます。なので、ずっと皆さんが共通して持っていた課題感だったのだと考えています。
ただ、それを課題として「じゃあ具体的にどうしていくか」という段階まではなかなか進んでいかなかったと感じています。生花を用いず「新しいお祝いの形」として具体的な解決策を形にしたのは、私たちが初めてだと認識しています。

ーー「BLONI」が提示するソリューションの具体的な仕組みを教えてください。
米山さん:「BLONIA」はリユース型、つまり繰り返し使う商品になっています。コンサート会場に「華」が届き、その後、回収するという大きな流れは従来の祝い花の多くと同じ仕組みです。しかし、「華」を回収後は廃棄したりドライフラワーにするのではなく、クリーニングし、倉庫に戻して、また次の発注先の会場へお届けするというシステムを採用しています。生花を使用しないので、そもそもフラワーロスを発生させない仕組みになっています。
POINT:生花を使用しない仕組みをつくり、フラワーロスを発生させない
「資源」と「お金」のふたつの循環。挑戦を後押しした企業理念とビジネスモデル
「BLONIA」というサービスのもう一つの特徴として、商品価格の一部を受取主が「寄付」または「自身の活動支援金」として選べる仕組みがあります。ビジネスにおいて、原価や利益に影響するこのお金を組み込むことは大きな決断だったのではないでしょうか?
米山さん:前提として、リユースを軸としたビジネスですので、生花に負けない魅力がある、美しい商品でなければならず、「華」の準備など初期投資は小さくありません。ですから、サービスをリリースしてしばらくは利益が出にくい部分はあるのですが、繰り返し使えば使うほど、変動費という部分は大幅に抑えられる見込みです。
先のことを見越して、リユースによって生まれるプラスの利益の部分を私たちが「独り占め」するのではなく、「誰かのためになる活動」や「世の中の良い循環に繋がる活動」としてお祝い金(寄付・支援)に位置付けようと考えたのが、コスト面の最初の考え方です。
ーー「資源の循環」に加えて、「お金の循環(寄付・支援)」を組み込んだのには、どのような思いがあったのでしょうか?
米山さん:誰かをお祝いしたい、新しい門出を応援したいという気持ちは、すごくポジティブなものです。そのポジティブな気持ちをお花に託してお祝いするのは素敵なことですが、それが会場に着いてその場だけで終わってしまうのは、なんだかもったいないと長いこと感じていました。持ち帰ればご自宅でしばらく楽しむことはできますが、そのポジティブなエネルギーを、より価値のある「誰かの未来に繋がる力」に変えたいと思ったのが、お祝い金のシステムを考え出した原点です。

画像提供:BLONIA(外部リンク)
ーー「祝い金」が利益を圧迫するのではと社内から反対意見が出そうにも思えます。
米山さん:社内でこのビジネスモデルで合意形成ができたのには、NexToneの「音楽文化や産業の発展に対して挑戦し続ける」という企業理念があったことが大きいです。「BLONIA」の仕組みが、アーティストへのご支援や音楽業界の発展に寄与する「挑戦」として、私たちの企業理念に合致したため、社内の理解を得ることができました。
企画を出してからサービスローンチまでは約1年半と、非常にスピード感を持って進めることができました。概形をどういうものにしていくかというサービス作りの部分に半年から1年ほどかけ、一気に形にしていきました。やはり「音楽業界やアーティストの発展に寄与する」というのが我々のテーマです。「BLONIA」をきっかけに音楽業界がポジティブな発展を遂げ、新しい形のお祝いの文化が広がってサステナブルな活動をする方が増えれば、「私たちの企業価値・評価」としてもリターンが得られると信じています。
妥協なき美しさへの追求。「生花」に負けないデザインと作り手の思い
ーー生花ではないものを贈るというマインドチェンジは、ユーザーにとっても心理的ハードルがあると思います。プロダクトとして、生花に負けないような魅力をどのようにつくり出しているのでしょうか。
米山さん:お祝いの気持ちを贈る贈答品ですので、生花と等しく美しく、思いや見た目が同じように伝わるものにしようと考えました。そこで、世界的なテキスタイルデザイナーである梶原加奈子さん(KAJIHARA DESIGN STUDIO INC.)と一緒に、かなりの時間をかけて制作しました。
布で「お花の魅力」を表現するにあたり、生花が持つみずみずしさや立体感をどう表現するかにこだわりました。スタンドモデルでは、「カットジャカード」という製法を用いています。内布と外布の二重構造にし、外側の布に透け感を持たせることで、お花の立体感を感じられるようにしました。

ーー細部にも並々ならぬこだわりが詰まっているとお聞きしました。
米山さん:はい。たとえばなかの茎や葉を模した緑色の部分ですが、自然な花と比べると少し鮮やかすぎるように見えるかもしれません。しかし、コンサート会場に置くことを考えると、これくらい明るい緑の方が空間にフィットするだろうと考え、最後に急遽色味を変更しました。

また、外からは見えない部分ですが、なかのフレームは「人と人とのご縁を繋ぎますように」という思いを込めて、曲線を多用したデザインにしています。実用性の面でも、触った時に振動を吸収するので倒れにくく、破損にも強い作りになっています。ディテールにはとてもこだわっています。

ーー新しくリリースされた「胡蝶蘭モデル」についても教えてください。
米山さん:6月1日にリリースした「胡蝶蘭モデル」は、スタンドではなく鉢タイプの小さなモデルです。この胡蝶蘭モデルも、売上の一部を森林保全活動に寄付する形をとっています。生花に代わる選択肢を提示するだけでなく、環境への配慮をさらに一歩進めた商品になっています。

実はこちらの鉢カバーには、高級車のシートの廃材をアップサイクルしたレザー素材を使用しています。高級車のシートは、少しの色味の違いなどで端材が捨てられてしまうことが多いんです。それをアップサイクル(廃棄予定の素材に新たな価値を付与し、別の製品へと再生させること)して活用しています。

寄付の受け皿としての日本財団。「選べる」仕組みがもたらす価値と反響
ーー「BLONIA」では、自社で基金を運営するのではなく、日本財団などを提携先(寄付先)として設定されています。その背景を教えてください。
米山さん:もちろん、私たちが直接的に寄付金を活用するという話も当初は出ました。しかし、私たちはエンターテイメントのプロではありますが、社会課題を解決する専門的な知見はありません。お客様やアーティストからお預かりした大切な寄付金を最大限に活用していただくためには、実績と経験のある日本財団のような既存の団体にお任せする方がより効果的だと判断しました。
ーー日本財団と連携してみて、どのような点にメリットを感じていらっしゃいますか?
米山さん:日本財団の素晴らしい点は、寄付の用途を「災害支援」や「子ども支援」など、細かく選べることです。「BLONIA」では、受取主であるアーティストが納品書に記載されたQRコードを読み込み、ご自身の意思で寄付先を選択できる仕組みにしていますが、アーティスト自身に選択肢があるというのが、日本財団ならではの良さだと感じています。

ーーこの「アーティスト自身が寄付先を選ぶ」という仕組みも特徴的です。
米山さん:実は、韓国のエンタメ業界にある「米花輪(こめはなわ)」という文化からインスパイアされました。ファンの方がお祝いに米俵を贈り、後でアーティストがそれを施設などに寄付するという文化です。ファンの方のお祝いが、アーティストのチャリティ活動に直結する素晴らしい仕組みだと思い、「BLONIA」に落とし込みました。ただ、品物だと結局は廃棄されてしまうリスクもあるため、私たちは「お金」として還元する形をとりました。
ーー実際に「BLONIA」を受け取ったアーティストからは、どのような反響がありますか?
米山さん:生花にこだわる方もおられるだろうとは思っていましたが、あるアーティストが自身の主催コンサートで「お祝い花には「BLONIA」を使ってほしい」と推奨してくださったことが大きな転機になりました。私自身も生け花をやっているのでお花の素晴らしさはよく分かります。しかし、祝い花を頑張って持ち帰っても、全体の1/3は捨てられてしまうのが現実です。お花を持ち帰れずに捨てられてしまうことへの心苦しさを感じていたアーティストは多く、「持って帰れずに捨てられるのを防げる」という点に強く共感していただいています。
驚くべきことに、実際に「BLONIA」を受け取ったアーティストの99%が、「ご自身の支援金」ではなく「寄付」を選択されています。音楽を通じて世の中を良くしたい、誰かのためになりたいという思いを持った方が、やはりアーティストには多いのだと実感しています。
現場に生まれる「祝福の循環」。声優・梶 裕貴さんが「寄付」を選んだ理由
米山さんが語るように、実際に「BLONIA」を受け取り「寄付」を選択したアーティストは、どのような思いでその選択をしているのでしょうか。自身の音声AIプロジェクト「そよぎフラクタル」の3D LIVEイベント「そよぎEXPO」にて「BLONIA」を導入し、寄付を選択された声優の梶裕貴さんが、その思いを文章で伝えてくれました。
声優という職業柄、これまで数多くの舞台やイベントなどに出演させていただき、その度にファンの皆さまや関係者の方々から、愛情のこもった美しいお花をたくさん頂戴してきました。心から嬉しく思う反面、公演後にどうしても大量のお花が廃棄されてしまう「フラワーロス」の現実には、どこか切なさや心苦しさを感じておりました。
そんな中、今回「そよぎEXPO」を開催するにあたり、環境への配慮やサステナブルな取り組みの一環として出会ったのが「BLONIA」でした。華やかさや美しさといったお花の魅力はそのままに、枯れることもなく、また廃棄もせずに繰り返し利用できるという新しいお祝いの形は、まさに私が求めていた理想的な仕組みだなと感じています。

私の声を元にした音声合成ソフトを軸にしたプロジェクトである「そよぎフラクタル」も、テクノロジーを用いて「誰も傷つかず、誰もが楽しめる創作の形」を目指しています。アプローチは違えど、BLONIAの思いやりと創造性あふれる挑戦には、非常に強いシンパシーと親和性を感じました。
そして、先だって開催した3D LIVEイベント「そよぎEXPO」は、当然ながら、私一人の力では実現できなかったステージです。2回にわたるクラウドファンディングを通じて、プロジェクトに共感してくださる多くの“フラクター”の皆さまが「そよぎフラクタル」をご支援してくださったおかげに他なりません。

ご出演くださった声優キャストやアーティストの方々、ライブに向けたコンピレーションアルバム制作に携わってくださったクリエイターの皆さま。そして何より、ともに新しいエンターテインメントの形を作ろうと同じ熱量で歩んでくださったフラクターの皆さまに、心から感謝申し上げます。
今回、私たちはBLONIAのお祝い金を寄付させていただきました。イベント当日BLONIAの仕組みを通じて、皆さまからのお祝いの気持ちをダイレクトに受け取れたことは、大変幸せに思っており、皆さまからいただいたポジティブな熱量や愛情を、私たちの中だけに留めておくのはもったいないなと感じたからです。
皆さまの温かい気持ちと想いを、社会の未来へ「恩送り」として繋いでいくこと。それこそが、音声AIが持つ無限の可能性を探求し、表現者の「声の権利」を守りながら、人と技術が共生する正しい未来を築いていくという、私たちFRACTALの理念に最も相応しいのではと考えたのです。皆さまの想いが、さらに別の誰かの希望へと、フラクタル(幾何学模様)のように広がっていく。そんな優しい循環への願いも、寄付に込めさせていただきました。
皆さまからいただいた温かい想いが、会場を美しく彩るだけでなく、実際に社会のどこかで、誰かの助けへと形を変え、届いていく。それを思うと、とても誇らしく幸せな気持ちでいっぱいです。エンターテインメントは今後、ただ楽しむだけでなく、テクノロジーや新しいサービスと結びつくことで、社会課題の解決や未来への貢献に、直接的に繋がっていく時代だと確信しています。誰かを応援するポジティブなエネルギーが、巡り巡って社会全体を良くしていく。そんな優しい連鎖が、この「お祝いを通じて寄付をする」という新しい選択肢をきっかけに、これから先、ポピュラーな文化として浸透していってくれると素敵ですね。
日常の「置き換え」が社会貢献に繋がる。読者へのメッセージ

ーー最後に、これから社会課題解決とビジネスを結びつけたいと考えている方や、寄付活動に参加したいと考えている方へメッセージをお願いします。
米山さん:寄付や社会貢献は、これまで当たり前だった身近なものを「何かに置き換える」という視点が大事だと考えています。日常の何かを代替することで価値が生まれ、それが人の助けに役立つ。そうした発想から、新しいビジネスの形が生まれていくと思います。
また、誰かを応援したい、誰かを思っているというポジティブなエネルギーは、次へ繋げることで大きな力になります。アーティストにとっても、「BLONIA」を推奨していただくことでドネーション活動のきっかけになりますし、ファンの皆さまにとっても、お祝いの手段を置き換えるだけで社会貢献に参加できるようになります。
「何かアクションを起こしてみたい」と思っている方は、ぜひこの新しい「お祝い花」を通じて、一歩を踏み出してみていただけたら嬉しいです。この仕組みが、世の中に寄付活動の「種をまく」きっかけになればと願っています。
いつものお祝い花を置き換えるだけで、持続可能な社会貢献に。