北海道の被災地に寄せられる道内・道外からの支援

写真

北海道胆振東部地震で被災した養鶏家の小林廉さん

2019年9月6日に発生した胆振東部地震は、北海道内に大きな被害をもたらしましたが、畜産業や農業などを営む事業者にも大きな影響を与えています。被災地では、災害から半年以上経った今も、さまざまな団体が支援活動を行っています。

地震により事業ができなくなってしまった

「家で寝ているときに地震で家全体が大きく揺れ、1階部分は全て流れてきた土砂に飲み込まれてしまいました。2階に寝室があったので命はなんとかなりました。そのままヘリコプターで救出され、その後は避難所で生活していました」北海道胆振東部地震で被災した小林廉さんが当時の様子を振り返ってくれました。

小林さんはもともと家の近くで小林農園という養鶏場を経営されていたのですが、地震後に飼っている鶏がどうなったのか心配だったものの、道路が通行止めでなかなか家に戻ることができなかったそうです。1週間後に土砂崩れ後の裏山をなんとか登って家に戻り、鶏の様子を見たところ、今回の地震により6棟あった養鶏場のビニールハウスが全て使えなくなってしまい、1,500羽いた鶏も結果的に全て失うことになってしまったとのことです。

写真
発災時の様子について振り返る小林さん

「養鶏場を続けるかどうかはとても迷いました。養鶏場を始めて5年が経ち、やっと事業が軌道に乗り始めた中で今回の地震があったので…。でも、今までずっと養鶏をやってきて、お客さんも付いてきていたので、事業を再開することにした」。小林さんが事業を再開するまでこういった葛藤があったそうです。

「事業を再開するにあたってたくさんの人たちが支援してくれました。新しい養鶏用ビニールハウスを建設するのを手伝ってくれる方、土砂に飲み込まれた家から家財を取り出すのを手伝ってくれた方など、まさかこんなことまで支援してくれるとは思いませんでした」小林さんが事業再開にあたって受けている支援について話してくれました。

「地震から1カ月後の10月から養鶏場再開の準備を厚真町内の別の場所で始め、2019年3月末には既に2棟の養鶏用ビニールハウスが完成し、1,000羽の鶏を新たに飼育し始めています。今は3棟目の養鶏用ビニールハウスを建設しており、今後はもっと拡大していきたい」と意気込みます。

写真
新たに建設された養鶏用ビニールハウス

災害直後の「生活」を支援することで地元の北海道に貢献する

小林農園を支援している団体の1つに『石狩思いやりの心届け隊』があります。石狩思いやりの心届け隊は、ビニールハウスの骨格を地面に打ち込む作業、ビニールをかける作業などを手伝い、養鶏用ビニールハウスの再建を支援しています。

「冬場での作業なので、地面が凍っており、普段よりビニールハウスを建設するのが大変な中で、手伝ってくれています。この新しい場所に移ってきた直後は、新しく養鶏場を建て直す作業だけだったのですが、今では新たに飼育を始めた鶏の飼育もする必要があり、やることが多いので、とても助かっています」小林さんが石狩思いやりの心届け隊の活動について説明してくれました。

写真
石狩思いやりの心届け隊が建設を手伝っている養鶏用ビニールハウス

石狩思いやりの心届け隊の隊長を務める熊谷雅之さんは、「小林農園以外にも、農業支援でいくつかの事業者の方のところで支援させていただいています。地震は9月に発生しましたが、この時期は収穫の時期であり、収穫のために多くの人手が必要とされているタイミングでした。しかし、災害対応に多くの人手が取られてしまったので、被災者は収穫を行うことができていませんでした。そのため、支援の手が届いていなかった農業に支援の手を広げ、地元の高校生ボランティアなどを活用しながら、収穫の作業を手伝っています」と活動内容について説明してくれました。

写真
農業支援の重要性について説明する石狩思いやりの心届け隊の熊谷さん

石狩思いやりの心届け隊ではこの他にも、避難所の受水槽に水を運ぶ作業、避難所にシャワー室を設置する作業など、さまざまな支援活動をされています。被災者の生活に直結する部分を支援することで地元の北海道に貢献されています。

自分たちが何をやったかではなく何を残したのかが大切

小林農園を支援している別の団体の1つに『一般社団法人OPEN JAPAN(オープンジャパン)』があります。被災直後の土砂が入り込んだ小林さんの家から、貴重品や家財の取り出しを行っていました。

「OPEN JAPANさんは流れ込んできた土砂に埋まった家から必要な家財を取り出すのを手伝ってくれました。重機を活用した支援は、ボランティアセンターなどに頼んでも行ってもらえないのでとても助かりました。まさかこんな重機を使った作業までボランティアに頼めるものだとは思いもしませんでしたよ」。小林さんがOPEN JAPANの活動について説明してくれました。

写真
倒壊家屋からの貴重品の取り出しを行うOPEN JAPANの吉村さん

OPEN JAPANでは、倒壊家屋からの貴重品の取り出し、倒壊納屋から農機具の取り出しなどの重機を使用した技術的な支援から、炊き出し、サロン活動まで、被災地で必要とされている支援を見つけて活動しています。

その中に、伝統産業や畜産業に対する支援もあります。厚真町では伝統産業として炭焼きが行われているのですが、この炭焼き窯が今回の地震で壊れてしまいました。そのため、この炭焼き窯を修理することで、文化と伝統産業を守ろうとしています。また、畜産業をはじめとした生業のサポートもしています。生業は、行政も社協もサポートすることができない隙間になっているために、誰かが支援する必要があるとのことです。

写真
北海道の人たちが中心となって活動していく必要性について説明するOPEN JAPANの肥田さん

「自分たちが何をやったかではなく、何を残したのかが大切だと思っています。私たちのような外部の支援団体ではなく、今後は北海道の人たちが中心となって活動していく必要があります。そのために、最近では講習会の開催を通して、技術的な支援のノウハウを伝えています」OPEN JAPANの副代表を務める肥田浩さんが語ってくれました。

日本財団では『石狩思いやりの心届け隊』や『OPEN JAPAN』の活動を、NPO・ボランティア活動支援を通じて支援しています。被災地で活動する団体を支援することで、被災地の復旧・復興に貢献できればと考えています。

取材・文:井上 徹太郎(株式会社サイエンスクラフト) 写真:和田 剛