被災地の子どもを支えるために保護者や保育士の『心のケア』をして被災地を支援する

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被災後の柵を修復する安平町の子ども園

平成30年北海道胆振東部地震は、北海道各地に多くの被害をもたらしましたが、被災地で暮らす住民の中には、たとえ外傷を受けていなくても、精神的に大きな傷を負った方が多くいらっしゃいます。『一般社団法人東日本大震災子ども・若者支援センター』では、そんな被災者の心のケアを中心とした活動を北海道で行っています。

被災地で必要になる心のケア

「災害で家がなくなって仮設住宅に移った方の中には、精神的にまいってしまう方も多くいらっしゃいます。」東日本大震災子ども・若者支援センターの西浦和樹さんが、被災者の方によっては精神的な問題を抱えてしまうことについて説明してくれました。
地震の被害というと、ケガをするなどの人的な被害や、家が倒壊するなどの物的な被害を想像される方が多いかと思いますが、被災者の精神面へ苦痛という大きな“被害”をもたらすこともあります。災害時には、今まで経験をしたことのないほど大きな苦痛を伴う精神的ストレスを受けることがあるため、そういった被災者の心のケアについても考慮する必要があるのです。

地震によって外壁が崩壊した建物の写真
北海道胆振東部地震は、北海道各地に大きな被害をもたらしました

東日本大震災子ども・若者支援センターでは、今回の地震の被災地で特に子どもが抱えている精神的な問題に注目して、臨床発達心理士として心のケア活動を行っています。「小さい子どもは精神的にストレスを感じているのかどうかを、うまく言葉にできず、言葉だけでは判断できないため、態度や仕草から感じ取る必要があります。震災後には色んな人たちが出入りを繰り返すので、精神的にハイになってしまう子どもが多くいました。」被災地の子どもが持つ精神的な問題を把握することの難しさについて西浦さんが説明してくれました。

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心のケアの重要性を語る東日本大震災子ども・若者支援センターの西浦和樹さん

保護者や幼児保育の従事者にカウンセリングを行う

心のケアの専門家として被災地に入っても、いきなり被災者の心のケアを実施して回るわけではなく、実際に心のケアのアドバイスをするのは、事態が落ち着いて信頼関係を作ってからのことが多いそうです。今回の災害においても、厚真町と安平町の子ども園を訪問して、子ども園を囲む柵を修復する土木作業の手伝いをするなど、まずは現場で信頼関係を作った後、専門家としてカウンセリングを行っていったそうです。

災害により不安を抱えても、子どもはそれをうまく言葉に出して表現できないこともあります。そのため、普段から子どものことを理解している職員が子どもの微妙な変化を感じ取ることが重要になります。しかし、その職員を精神的に支える人はいないために、東日本大震災子ども・若者支援センターでは、子ども園に従事している職員や、子どもの保護者を対象に心のケアを始めました。災害によりストレスを抱えた大人の心をケアすることで、子どもたちのストレスを軽減させることにつながります。

「子どもたちを束ねる先生や保護者が精神的に疲れてしまうことがなければ、子どもたちも安心して生活することができます。特に自閉症や知的障害をもつ子どもは、災害時には落ち着かないことも多く、両親が心身ともに疲れ果ててしまうと、家庭自体が崩壊してしまう可能性もあるほど追い込まれてしまうケースもあるので、子どもを持つ親の心のケアが重要になります」と、西浦さんが説明してくれました。

実際に、災害に起因する精神的・身体的な疲労から、まったく体が動かせない症状を発症した職員の方もいらっしゃったそうです。このように問題が深刻化し、心身に影響がでる前の段階で、保護者や幼児保育の従事者にカウンセリングを行うことが重要になります。

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子ども園に従事している職員へカウンセリングの様子

安平町の子ども園では、職員の多くが被災するなか、園長先生がSNSで子どもの心的負担軽減と保護者の自宅復旧支援のため協力を呼びかけて、全国から保育士ボランティアが集まり、地震の2日後に再開しました。被災直後に子どもたちを受け入れることで子どもたちの日常を守ることはもちろん、親御さんたちが安心して復旧作業に向き合えることで子どもへの心理的ストレスも軽減されました。同時に、子どもとその親御さんだけでなく、被災した職員にもご家族があります。全国からの保育士ボランティアの応援によって、職員の方々が家族に向き合える時間や心の余裕が生まれたことも心理的負担の軽減につながったそうです。

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安平町の子ども園で遊ぶ子どもたち

平時から臨床発達心理士が幼児の近くにいる環境を作る必要がある

災害で発生する問題は、その多くが平時の問題の延長線上で発生していることが多く、平時にうまく機能していないことは、災害時にも機能することはなく、災害時にこそ平時の問題が顕在化することが多いと言われていますが、被災者の心のケアについても同じことが言えます。
例えば、小学校にはカウンセラーなどの専門家がいて体制が整っているものの、幼稚園や保育園にはそのような体制が制度上ありません。災害時に幼児の心のケアをしっかりと行うためにも、平時から心のケアを行える専門的な人員を配備し、安心して子どもが生活できる環境や制度を作る必要があるのです、と平時からの制度や体制強化に対する思いを西浦さんが語ってくれました。

日本財団では、『一般社団法人東日本大震災子ども・若者支援センター』をはじめとした被災地で活動する団体を、NPO・ボランティア活動支援を通じて支援しています。被災地で活動する団体を支援することで、被災地の復旧・復興に貢献できればと考えています。

取材・文:井上 徹太郎(株式会社サイエンスクラフト)