訪問看護の現場に、そして地域に。「安心」をありがとう – 感染防護具支援プロジェクト

写真:あすか山訪問看護ステーション 統括所長 平原優美さん。画像下側にメッセージ「暮らしの場に『安心』をありがとうございます。平原優美」

2020年春、新型コロナウイルスによるパンデミック。逼迫していたのは病院だけではありません。全国約50万人の利用者がいる訪問看護ステーションの現場でも、試行錯誤をしながら患者さんのご自宅を訪問する日が続いていました。

多くの訪問看護ステーションで課題になっていたのは感染防護具の不足。

「新型コロナウイルス感染の第一波の時は、感染対策用のマスクもガウンもほとんどない状況。市販の雨合羽とお手製のフェイスガードで代用して、看護にあたっていました」(あすか山訪問看護ステーション 統括所長 平原優美さん)

そんな中、メットライフ財団、メットライフ生命保険株式会社からの寄付を受けて、日本財団と日本訪問看護財団による「感染防護具支援プロジェクト」が発足。ダンボール一杯に詰め込まれたN95マスクやフェイスシールドなどの感染防護具セットが全国の訪問看護ステーションに配布されました。

全国の訪問看護、そして介護に携わる皆さんを代表して、あすか山訪問看護ステーションの平原優美さんから「ありがとう」のメッセージをいただきました。

命の現場に訪れた、新型コロナウイルス感染症

あすか山訪問看護ステーションでは、33名の職員の方たちが300名以上の利用者のご自宅に訪問して、看護・介護を行っています。看護師さんの場合は、1日に4件から5件のお宅を訪問するそうです。

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あすか山訪問看護ステーション

「気管切開をしている状態のお子さんのお風呂のお手伝い、医療器具の交換。末期がんの方の緩和ケア。その他にも統合失調症やALSのような難病。さまざまな病気を抱えた療養者さんがいます。
重症者も多い中で、私たちが訪問する時はたった1人。たとえば、訪問中に突然1歳くらいのお子さんが呼吸困難になるなんてケースもあります。そんな時はとっさに処置をして、お母さんにきちんと説明をして不安を解消する。病院ではチームで行うようなことを1人でしなければいけません」(平原さん)

高齢化が進む日本では、今後、医療費の増大や病床数の不足などが懸念されています。長期の入院を減らして、なるべく在宅で。そんな国をあげての大きな流れの中で訪問看護の利用者数は年々増加しています。

一方で、訪問看護は自立した看護師でも簡単ではないお仕事。訪問看護師は全国的に人材不足の状況が続いています。

そんな訪問看護ステーションの現場に訪れた、新型コロナウイルス感染症の脅威──。

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あすか山訪問看護ステーション 統括所長 平原優美さん

「病院は病床数を確保するために、退院できる人にはなるべく在宅療養を促していました。また感染リスクから入院患者とご家族が面会できなくなってしまい、それならば自宅に戻りたいという方も多かったようです。
第一波の時は、1日に新しく8名の方を受け入れることもありました。医療崩壊を防ぐために、訪問看護の側ができる限り受け入れなければいけない。そんな想いだったんです。
一度、退院して訪問看護に切り替えた療養者さんの中に陽性の方がいらっしゃいました。手違いで感染リスクが高いことを私たちに知らされていなかったのですが、それにより2人の看護師が2週間自宅待機しなくてはならなくなりました。
結果は陰性だったのですが、すでにみんなフル稼働していた中、他のメンバーで2人の担当をカバーしなくてはならず、本当に大変でした。
私たちが感染すると、他の患者さんをリスクにさらすことになります。訪問先のご家族の方も感染には敏感になられていて、看護師が家に来ること自体を不安に感じ方もいらっしゃいました。
どこに感染リスクがあるかわからない中で私たちもどう対策をすることが最善か。ずっと頭を悩ませていました」(平原さん)

当時、病院も含めて感染防止に有効とされていたN95マスクや医療用ガウンなどの感染防護具は不足していました。ガウンの代用には雨合羽を。マスクの代用にはお手製のフェイスシールドを。あすか山訪問看護ステーションでは、手探りで試行錯誤する時期が続きました。

4,000箱の感染防護具セットを全国へ

あすか山訪問看護ステーションに限らず、全国の訪問看護ステーションがコロナ禍の対応に逼迫する状況。

これを受けて、日本財団と日本訪問看護財団による「感染防護具支援プロジェクト」はメットライフ財団、メットライフ生命保険株式会社からのご寄付のうち7,000万円を活用し、4,000箱の感染防護具セットを準備。配送ルートを用意して、全国の訪問看護、介護の現場に配送することを決めます。7月27日に受付を開始すると全国から申し込みが殺到。

あすか山訪問看護ステーションにも、ようやく感染防護具セットが届きます。

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実際に発送された感染防護具セット。中身はN95マスク、フェイスシールド、サージカルマスク、使い捨て手袋、使い捨てガウン、ヘアキャップ、使い捨てスリッパ、手指消毒剤、マスキングテープ、ジッパー付き多機能袋/ゴミ袋。

「何より安心しました。代用品にしていた雨合羽も品薄状態で手に入らなくなっていて。管理職も事務職も物品を切らさないために、いつもお店やネットで探し回っていました。
感染防護具セットが到着してからは、必要なものは必ず届くという安心が生まれて。私たちもケアの方に集中することができるようになりました。
看護師の訪問に不安を感じていた患者さんやご家族も、感染防護具を着用していることで安心していただけた部分があると思います。
免疫が低下しているお子さんや高齢者のいるご家庭では、感染への不安からコロナ禍で外からの支援を断って家族だけでなんとか頑張っているケースもありましたから。本当に大変だったと思います。
少しでも患者さんやご家族に安心していただけるようになったのは、大きな意味があったと思います」(平原さん)

感染防護具が訪問看護の現場にもたらしたもの

平原さんは訪問看護を「人生に伴走する」仕事だと言います。「点」ではなく「線」。地域に根ざして、療養者が自分らしく生きて最後を迎えられるまで見守る存在。病気や症状に向き合うだけではなく、療養者が望めば看護師付きで動物園や水族館に出かけたり、ストレスを抱える療養者の自己実現をお手伝いすることもあるそうです。

そんな訪問看護の現場に感染防護具セットがもたらしたもの。それは「安心」でした。

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訪問先の子どもを喜ばせるために、あすか山訪問看護ステーションスタッフでクリスマス用グッズを自作。

「コロナ禍でも、私たち訪問看護師はなんとか一生懸命がんばりたいと思っています。でも物品がないとどうしてもできないこともあります。
在宅で病気に向き合っている方にとって、訪問看護ステーションは命の砦です。支援をいただけたことで、『安心』できたのは、療養者とそのご家族、訪問看護師だけではありません。近隣の住民のみなさんも含めて、地域全体が『安心』をいただいたのではないかと思います。ありがとうございました」(平原さん)

写真:湯浅 亨

感染防護具支援プロジェクト支援団体
公益財団法人 日本訪問看護財団

訪問看護をはじめとする在宅ケアの質的・量的な拡充を図り、病気や障がいがあっても安心して暮らせる社会を目指す。「感染防護具支援プロジェクト」では、現場の声に応えるために日本財団とプロジェクトを立ち上げ。メットライフ財団、メットライフ生命保険株式会社からの寄付を受けて、倉庫や配送ルートの確保、プロジェクトの広報など中心となってプロジェクトを推進。