社会的養護で育った若者を叱るソーシャルワーカーの厳しさと大きな愛

社会福祉法人大阪児童福祉事業協会アフターケア事業部 藤川澄代さん。画面左側に「皆様の温かい心を子ども達は心から感謝しています」の文字。

社会的養護のもとで育った若者を対象にした「日本財団夢の奨学金」。経済面はもちろん、精神面もサポートすることで若者の夢を全面的に支援しています。

その精神面のサポートを担当するのがソーシャルワーカーの皆さんです。そのうちの一人、社会福祉法人大阪児童福祉事業協会アフターケア事業部の藤川澄代さんは親身に、時に厳しく、奨学生と向き合いながら自立を支援しています。

そんな藤川さんから、夢を追いかける若者たちに代わって、ご寄付いただいた皆さんに向けて「ありがとう」のメッセージをいただきました。

社会的養護から巣立った若者を待ち受けるハードル

厚生労働省の統計によれば、令和元年の要保護児童数は43,650人。家庭の経済状況、虐待、両親を亡くしたなど、さまざまな理由によって児童養護施設や里親などの社会的養護のもとで育てられている子どもたちです。

  • 要保護児童数は、里親・ファミリーホームの委託児童数、乳児院・児童養護施設・児童心理治療施設・児童自立支援施設・母子生活支援施設・自立援助ホームの入所児童数の合計

社会的養護のもとで育った子どもたちは原則18歳になると自立しなければなりません。しかし、そこにはさまざまなハードルがあると言われています。まずは住居の問題。

社会福祉法人大阪児童福祉事業協会アフターケア事業部 藤川澄代さん

「自立するために部屋を借りるには、保証人が必要です。でも施設出身の子どもには保証人になってくださる方が見つからないケースが多い。そうなると保証人協会にお願いすることになりますが、それでも借りられる物件は古かったり、立地が悪かったり。あまり条件の良い物件ではないことが多いんです」(藤川さん)

そして、もう1つの壁が施設出身者自身の問題。施設を退所する時になんとか仕事が見つかったとしても、そこで上手くいかなくなってしまうケースが少なくないのだそうです。

この原因の一つに藤川さんは「施設や里親で大事にされ過ぎていた」からではないかと語ります。

「施設の子どもたちに『かわいそう』というイメージがありませんか?私も昔はそう思っていました。確かに実親に育てられないのは気の毒ではある。でも、不幸ではありません。

3食栄養管理された食事を必ず食べられるし、施設の職員も子どもたちをとても大切に育てます。朝起きられない、学校へ行きたくないと子どもが言えば『あなたは施設に来る前に大変だったものね。ゆっくり心のケアをしましょう』とほとんどの子が言ってもらえます。

でもそれが会社だったら無断欠勤や遅刻をしたとしても『あなたは大変だったからいいよ』なんて言ってもらえないですよね。大事に施設で育てられた子どもたちがそのまま社会へ出て大人は皆優しいのが当然と思ってしまうと、そこで、ギャップが生まれているんです」(藤川さん)

自立を本気で支援するからこそ「叱る」

藤川さんが部長である大阪児童福祉事業協会アフターケア事業部は、施設を退所した子どもたちの自立支援を57年前から行っている団体です。

元々専業主婦だった藤川さんはPTAや地域の子ども会の役員を担当しているうちに、子どもの非行問題と向き合うようになり、民生主任児童委員としてボランティア活動を行うようになったそうです。

その活動の中で出会ったのが現在の「アフターケア事業部」。より専門的に学ぼうと「アフターケア事業部」に就職して以来、21年間も社会的養護のもとで育った子どもたちの自立支援を行ってきました。

施設を退所した子どもたちと定期的に連絡を取り合い、相談に乗り、時には叱る。ご自身を「うるさいおばちゃん」と語る藤川さん。実親が側におらず、施設という環境で育った子どもたちを藤川さんは親代わりとなって支えます。

特に注力しているのが、退所後に自立した社会生活を送る上でのマナー・知識やコミュニケーション力を身につける「ソーシャル・スキル・トレーニング」事業です。

社会福祉法人大阪児童福祉事業協会アフターケア事業部 藤川澄代さん

「就職した施設出身者の相談に乗っていたら、会社で挨拶をしたら怒られたと言うんです。どんな挨拶をしたのか聞いたら『ちわーっす』だと。『それはあかんわ』と言っても、なぜだめなのかわからないんです。それでビジネスマナー講座をするようになりました。

私はトレーニング中、必要ならば怒鳴りますよ。例えば、遅刻して平気な顔で入室して来たら「なんで、普通の顔をして歩いてるの!」と。施設では怒鳴られたことがないので、子どもたちは驚きます。

でも後で『あのとき怒られてすごく嫌だった。でも職場で上司から怒られたときにきちんと謝ることができたら、態度が違った。あのとき怒ってもらって良かった』と言ってくれた子がいました。

きちんと挨拶ができるだけでも、周りの反応は変わるし、社会で生きやすくなるんですよね」(藤川さん)

ソーシャルワーカーとして夢にとことん伴走する

日本財団からの依頼で、社会的養護のもとで育った若者たちを対象にした「日本財団夢の奨学金」の奨学生の支援も行う藤川さん。藤川さんは「夢の奨学金」を「夢を実現させる」ものではなく、「夢を持つ権利を与えられる」ものだと語ります。

社会福祉法人大阪児童福祉事業協会アフターケア事業部 藤川澄代さん

「施設を出てから、一度社会人になって、それから酪農を学ぶ大学に通っている奨学生がいます。その子に『ずっと酪農が夢だったの?』と聞くと、『夢とはちょっと違う。ずっと興味はあったけど、奨学生になってはじめて、ちゃんとした夢になった』と言うんです。実際、奨学金がなければ現実的ではなく、夢にもなりませんから」(藤川さん)

また、お金の問題がクリアしたとしても、奨学生たちには問題が山積しています。施設を出てから家族との関係に悩む子、メンタルヘルスに苦しむ子。ひとりひとりと連絡を取り合い、向き合いながら、奨学生たちの夢に伴走していきます。

そして、「うるさいおばちゃん」の藤川さんが奨学生たちに口を酸っぱくして言うのが、支援のありがたみなのだそうです。

「私はいつも言います。『あなたの人生も、どんなつらい経験をしたかも知らない人が、あなたを応援してくれてんねんで。そんなすごいことある?それを無駄にできる?罰当たるわ!』って。

施設にいるとさまざまな支援をいただくことが多いのですが、中にはそれを当たり前に感じてしまう子もいる。そうすると、支援のありがたみをわからないままになってしまいます。でも社会に出たら誰も当然には支援してくれません。

(アフターケア事業部が主催する)「ソーシャル・スキル・トレーニング」では協賛・協力企業の皆さんから卒業のお祝い品をいただくのですが、そのときは直接渡していただくようにしてるんです。それはやっぱり物と同時に支援する人の気持ちが伝わるから。

なので、日本財団を通じて支援してくださっている皆さんには『お金と一緒に皆さんの気持ちも子どもたちに届けてますよ』とお伝えしたいですね」(藤川さん)

寄付の状況 2021年10月末現在
3億5,112万8,815円
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日本財団は、「生きにくさ」を抱える子どもたちに対しての支援活動を、「日本財団子どもサポートプロジェクト」として一元的に取り組んでいます。