「日本は安全でみんな親切だけど…」ウクライナ避難民のための交流会から始まる助け合いの輪
ロシアによる侵攻により、ウクライナでは多くの国民が命の危険を感じ、国外へ避難することを希望しています。日本でも行政や非営利団体が中心となり、ウクライナ避難民の積極的な受け入れを実施。
日本財団ではウクライナ避難民の渡航費や生活費支援を行うほか、非営利団体への助成プログラムを通じて、ウクライナから日本へやってきた皆さんが安心して暮らしていくためのサポートをしています。今回は、助成先の公益財団法人 大阪国際交流センターで開催されたウクライナ人コミュニティ交流会を取材しました。
2022年9月18日、大阪府大阪市天王寺区にある大阪国際交流センターでウクライナ人コミュニティ交流会が開催されました。大阪市で受け入れをしたウクライナ避難民のご家族に加え、大阪府内に住む在日ウクライナ人の方たちの集いの場。主催は会場を拠点とする(公財)大阪国際交流センターです。
今回で3回目となったウクライナ人コミュニティ交流会。既に顔見知りの方たちもいらっしゃるようで会場ではいたるところで参加者同士の挨拶が交わされています。
会場内には手作りのブレスレットコーナー、子どものためのおもちゃコーナー、寄付で届いた衣服が置かれたリサイクルコーナーなど。これらはウクライナの方たちが自ら実行委員となり企画したものだそうです。
そして何より大切なのは会場で「ウクライナ語で交わされる会話」なのだと、(公財)大阪国際交流センターの梅元理恵さんは語ります。
「避難民の方たちと触れ合う中で、『何か不安を和らげられることはないか』と思ったときにやはり母国語で話せる場が必要なのでは、と考えたんです。大阪市にはもともと80名ほどのウクライナ人の方が住んでいるのですが、避難民の方がそういった方々と出会い、ウクライナ人同士のコミュニティを形成していくお手伝いができればと。日本人だって、もし突然海外に住むことになったら、やっぱり日本人に会いたいと思いますよね」(梅元さん)
大阪市による69名のウクライナ避難民の受け入れをサポート
大阪市では2022年9月12日時点で40世帯69名のウクライナ避難民の受け入れを実施。(公財)大阪国際交流センターでは、避難民専用の相談窓口のほか、避難民の皆さんの生活が安定するようさまざまな伴走型のサポートを行っています。
「もともと(公財)大阪国際交流センターでは多文化共生を目的に、在日外国人の方へ向けた相談窓口事業を行っていました。大阪市でウクライナ避難民の方の受け入れをすることになり、そのノウハウを生かす形で、市と連携しながら避難民の支援を行うことになりました。
大阪市に親族や知人が住んでいらっしゃって、そこに滞在できるケースもありますが、そうでない場合は入国後にホテルに一時滞在して、その後は市営住宅に住んでいただくことになります。
一時滞在先として大阪国際交流センター併設のホテルも無償提供していて、そこから市営住宅への入居に立ち会ったり、区役所での手続きをお手伝いしたり、避難民の方に集まっていただき日本語学習サポートをしたりと、サポートは多岐にわたります」(梅元さん)
まだ母国が戦禍の只中にあるウクライナの人々が日本で暮らしていく。そこには私たちが想像することの難しい、さまざまな不安があります。(公財)大阪国際交流センターではそんな避難民の方の不安の一つひとつと向き合っています。
「初めて大阪国際交流センター併設ホテルに一時滞在された避難民の方がいらっしゃったとき、身元引受人の方と今後のことを日本語で話していたら、突然横にいらっしゃった避難民の方が涙を流していたんです。いろいろなストレスを抱えて日本に来られたんだなというのを、そのときに実感しました。
それから2カ月ほど過ぎた頃ですかね。その方は日本語学校に通われていたのですが、『本当にお世話になりました』と日本語でお礼を言いに来てくださったんです。しかも贈答用のお菓子にのしをつけて、そこにカタカナでお名前が書いてありました。本当に可愛らしくて、スタッフ全員で喜びました」(梅元さん)
ウクライナ人の自発的な助け合いの輪を育てていく
交流会の取材中、直接ウクライナ避難民のご家族にお話を伺うことができました。「日本での生活は安全、みんな親切で優しい」と口を揃えてお話ししてくださる一方で、「日本でお困りのことはありますか?」と尋ねると、一番に出てくるのはやはり言葉の問題。
「日本語が一番、困っています。普通に生活することができても、仕事をするとなったらもっと日本の方と会話ができるようにならなくてはいけません。今は日中に学校へ通って日本語の勉強をして、先々は仕事に就きたいと思っているんです」(ウクライナ避難民の方の声)
また、生活していくのに最低限必要な契約や手続きも、ウクライナ避難民の皆さんにとっては困難であることが少なくありません。
「銀行口座を開設するのが、すごく大変で。まず日本語を話せる人を誰か連れて行かないといけないし、保証人も必要だったり、いろいろなところで断られてしまいました」(ウクライナ避難民の方の声)
これらの困り事はウクライナ避難民の皆さんだけの努力ではどうにもならないこともあります。そういった困り事を少しでも解決するために、(公財)大阪国際交流センターが伴走しながらサポートをしているのです。
また、今回のウクライナ人コミュニティ交流会もこうした多岐にわたるサポートの中の一環です。ウクライナ避難民の皆さんにとって、在日外国人ならではの悩み事を共有・相談できる、貴重な場になっているそうです。
「こういう交流会があると、相談しながらいろいろな情報を聞くことができます。また、日本の人は皆すごく親切だけれど、やっぱり同じウクライナ人同士で話すことができる機会があるのは嬉しいです。またこういった機会があれば、是非通いたいと思っています」(ウクライナ避難民の方の声)
ウクライナ避難民の皆さんは、さまざまな困難がありながらも、日本で自立した生活をしていくために、少しずつ前へ向こうとしています。
取材中、ウクライナ避難民のご家族のお子さんが「明日、僕誕生日なんだ」と流暢な日本語で話してくれました。オンラインでウクライナの授業を受けながら日本の学校にも通い、3月に来日してから約半年間で日本語をかなりのレベルまで習得したのだとか。
(公財)大阪国際交流センターでは、こうしたウクライナ避難民の皆さんの前向きな気持ちや自発的な努力の芽をサポートすることを大切にしているそうです。ウクライナ人コミュニティ交流会についても徐々にウクライナの方々が自発的に運営に携わるようになっていると(公財)大阪国際交流センターの梅元さんは話します。
「第一回目や第二回目は、私たちが催しの内容を考えて、皆さんに参加いただくような形で開催していました。でも、今回はウクライナの皆さんが実行委員会をつくって自主的に『こんなことやりたい』とアイデアを出して進めてくださっています。例えば、これから寒くなるから暖かい洋服が必要だろうと、寄付でいただいた衣服をシェアする場を設けたのも、実行委員会のアイデアです。ウクライナの皆さんの助け合いの、ちょっとしたきっかけをサポートできたのではないかと、嬉しく思っています」
覚悟を持って生きるウクライナ避難民の皆さんが1日も早く安心して暮らせるように
まだ一時滞在先となる大阪国際交流センター併設ホテルには、定期的に新しい避難民の方が入られているそうです。また、市営住宅で生活する避難民の方たちも、安定した生活を送れるようになるためには、まだまだサポートが必要です。
「避難民の皆さんとお話していると本当にたくましさを感じます。小さな子どもや赤ちゃんを抱えて避難してきて、なんとか生きようと覚悟を持って行動しています。そういう方々が1日も早く安心して暮らせるようになることを願っています。また、ウクライナ人コミュニティ交流会に見られるように、ウクライナの方同士でも知恵を出し合い、助け合いが生まれています。私たちとしてはそういったウクライナの方々の助け合いの場をサポートしていくことも継続的に行っていきたいと思います」(梅元さん)
日本で生きていくという選択肢を、ウクライナの人々へ。
日本財団では、ウクライナ避難民支援を行う各団体への助成プログラムのほか、これまで独自でウクライナ避難民支援も行い、合計1,313名(2022年9月21日時点)に渡航費・生活費・住環境整備費支援を行ってきました。
また、日本に避難してきたウクライナの人々へさらなる支援を行うため、ウクライナ避難民支援基金を開設しています。いただいたご寄付はウクライナ避難民の皆さんが安心して生活を送り、地域に溶け込むことができるように、日本語学習の支援、生活相談窓口、物資の配布、地域イベントでの交流などに使われる予定です。