家から病院から、オンラインで劇場体験!特定非営利活動法人心魂プロジェクト
コロナ禍でも安心して集える場所を
特定非営利活動法人心魂(こころだま)プロジェクトは、難病の子どもや家族にも一流の舞台芸術を楽しんでもらおうと劇団四季や宝塚歌劇団出身のプロのパフォーマーを中心に結成された団体です。2014年の活動開始から、全国の病院や施設を舞台にミュージカル公演やダンスなどのパフォーマンスを500回以上開催してきました。
コロナ禍のストレスから自傷行為をする子どもたちがいることを聞いたメンバーは、子どもたちには楽しみが必要と、急いで各自の自宅から音楽ライブなどの様々な配信を開始しました。ところが、響き渡るプロの声量は近隣に気を使わなくてはならず、コーラスでは音にずれが生まれてしまうなど、いつものパーフェクトなパフォーマンスが難しい状態でした。
配信ができるスタジオを見つけて月に何度か配信を試みましたが、コストがかさむ上、都度配線機材を一から繋げなければならないため毎回の配信にはリスクと労力が伴いました。子どもたちが夢中になって心から楽しめるオンラインのパフォーマンスを行うには専用のスタジオが必要。そんな思いが日に日に強くなっていく中、日本財団の助成を受けて2021年の3月、待望のオンラインシアターがオープンしました。
「難病の子どもたちは音に敏感な子どもが多いため、音質にこだわっています。同じ場所で音の微調整を繰り返すことができ、演出についても背景の映像を重ねるなどオンラインでのパフォーマンスのクオリティが格段に上がりました」と共同代表の有永美奈子さんは目を細めます。
家や病室にいながら世界旅行を楽しむ
オンラインシアターができたことで、コロナ前から感染リスクのために公演に来られなかった子どもたちが自宅や病室から参加できるようになりました。急に体調を崩した子どもが参加を諦めることなく、北海道や台湾、ミャンマーなどの遠隔地からも参加できるなど、多くの子どもたちがパフォーマンスを楽しめるようになりました。
「子どもには遊園地にいくなどワクワクする体験が必要です。難病や障害のある子どもはそれができない子が多いので、病室にいながら家にいながらワクワクできる夢の世界に行けることはとても大切です」と有永さん。
世界旅行がテーマの演目では、世界中を旅して「宝物をみつけたよ。それがあなたたちだよ」というシンドバッドの冒険の曲を聴きながら日本に戻ってきます。その前後には顔合わせや双方向のやりとりをして、中にはパスポートを自分たちで用意して画面にかざして見せてくれる親子も。
親にとっても、体をほぐしたり、優しい曲でリラックスしたりと、日常から離れて心身を休めるかけがえのない時間になっています。
「コロナ渦での通院に緊張していたことに気付いた」「私は泣きたかったんだ」「大変だったねという曲を聴き、私はそう言ってもらいたかったんだ」と感想を寄せる親も少なくありません。
重い病気を持つ九州に暮らす女の子は、オンライン公演中にずっと踊って自分を表現していました。
「90分近くの長い時間、彼女は起き上がって踊っていました。途中でくるりと回るなどして、ステージの世界に入って自分を表現する姿がとても嬉しかったです。からだをごろんと横にしている方がラクだろうにと思うのですが」と有永さん。
純粋な魂の子どもたち
有永さんは宝塚歌劇団出身のパフォーマーです。心魂プロジェクトがパフォーマンスを開始した時に訪れた病院で、重症心身障害者の方々が心から喜ぶ様子や彼らの表現力に衝撃を受けたといいます。
会場ではみんな寝たきりで言葉を話せる人はほとんどいませんでした。それでもみんな、ノリの良い曲では盛り上がり、静かな曲では穏やかにと、楽しみ方がとても上手でした。
「私たち表現者は豊かな表現を目指しています。それを重症心身障害者の方々はすでにもっていて、そのことに嫉妬すら覚えました。彼らは深いレベルの魂をもっている。衝撃の出会いでした。ある意味、先輩として接してしまうんですよね。私もそうなりたいなと感じています」。
目玉のみを動かすことができたある子どもは、視線と空気で思いを表現してくれました。
「『帰らないで』『大好きだよ』と目の表情だけでいっぱいの愛情を表してくれました。その子は天国に還っていきましたが、私たちは旅立った子どもたちの魂といつも一緒にパフォーマンスをしています」。
観て聴いて表現をして、命を輝かせる
オンラインの参加方法は、誰もが参加できる一般公開、希望者のみ参加できる無料限定公開、会員への有料限定公開、子どもと家族の状況や希望によって、三段階に分かれています。
今期開催中の体験型のオンラインワークショップでは、激しく踊るチーム、ゆったりと動きを楽しむチーム、重症心身障害児などが自由に表現を楽しむチームがあり、みんながそれぞれ精一杯に自らの表現をしています。
「舞台のパフォーマーだけをやっていたら、彼らに出会うことはありませんでした。人としてもパフォーマーとしても気付かされることがあって、本当に幸せだなと思っています」と有永さん。
「子どもはオンラインでも自然に画面の中に夢中になって入り込むことに気づきました。また、障害がある子どもたちは、多くの人がいると処理能力が追いつかないことがあるので、オンラインのほうが参加しやすいメリットもあるようです。これからも回数を重ねてノウハウを蓄積していきたいです」。
きょうだい児のケアも急務と感じていて、今後はそのパフォーマンス体験を行い、将来はメタバースという仮想空間内でのステージのシステム構築なども進めていく予定です。
心魂プロジェクトはこれからも、ワクワクする特別な日、命を輝かせるパフォーマンスを子どもたちとその家族と共に作っていきます。
「難病の子どもと家族を支えるプログラム」
日本財団 難病の子どもと家族を支えるプログラムでは、日本全国に難病の子どもと家族の笑顔を増やしていきます。
特定非営利活動法人心魂プロジェクト
「日本財団 難病の子どもと家族を支えるプログラム」に興味をお持ちの方は、ぜひ難病児支援ページをご覧ください。
文責 ライター 玉井 肇子
日本財団 公益事業部 国内事業開発チーム