一人一人が特別な存在!みんなが輝く「特業祭」一般社団法人障害攻略課

社会に潜む障害を攻略

交通事故の裁判で、障害のある人が成長して将来受け取るであろう収入は一般の人よりも少ないという判決が出たことが最近話題になりました。また、障害者の雇用はそれぞれの能力を発揮できる仕事で企業の本業に貢献することが期待されていますが、企業が障害者の法定雇用率を守るために実際には清掃やクリーニングなど、本業とは別の仕事にあたっていることが多いのが実情です。

こうした社会の中にある障害、偏見と一線を画そうと生まれたのが、特別おもしろい職業「特業」という考え方です。

「障害者の仕事はホワイトカラーの下請けと考えられていることが多いのですが、彼らの能力はそこにとどまりません。その人の特性や特技を生かした職業『特業』を見つけて新たな未来の可能性を見出したいのです」と話すのは一般社団法人障害攻略課(以下、障害攻略課)の理事、澤田智洋さんです。

障害攻略課は、2017年から幅広いジャンルのプロフェッショナルが集まり、段差や差別意識といった「社会に潜む障害」を攻略するための様々な活動をしています。

2019年8月には「特別支援学校の特別おもしろ祭」と銘打った、障害があってもなくても楽しめるスポーツ、音楽、ファッション、食などを提案するお祭りを特別支援学校で行い大盛況でした。さらに未来の可能性を感じてもらおうと、東京都の北千住マルイで2022年12月に開催されたのが、特業のお祭り「特業祭(とくぎょうさい)」です。

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脳内チアリーダーの2人。彼女に応援してもらいたい言葉を想像することで、自分の本当の気持ちに気付いた人も

「特業祭2022」で独自の魅力が生きる仕事を発見

特業は、その人の特徴や特技を見つけて新たな職業を生み出します。それは「一人一人が異なっていること自体が魅力である」という考えに基づいています。

「特業祭2022」では、重度障害のある子どもたちがそれぞれにできることを生かした職業を披露して、参加者に体験してもらいました。

その名も、「フォーチュンカードテラーユメ」「脳内チアリーダー」「こーちゃんゲームマスター」「ユニバーサル散歩ツアーコンダクター」など、楽し気で興味をそそるものばかり。

事前にどんな仕事を発明するか、子どもと保護者に相談。「自分だけというこだわりはありますか」「特技はありますか」「ユニークな生活習慣はありますか」などを質問します。

重度障害のあるユメちゃんは、気管切開をしていて声が出せず唯一動かせる指先でiPadの中のメッセージが書かれたカードを選び、意思疎通をしています。これを占いのタロットカードに見立てて「フォーチュンカードテラーユメ」と名付け、参加者の相談に応えました。

ある男性は仕事が忙しくて家族との時間が持てない悩みを打ち明けたところ、ユメちゃんがじっくりと考えてから出した答えは、「シュークリームを買ってください」でした。
そんなユメちゃんの心が温まるアドバイスに涙する人もいたそう。「ありがとうと言われるのは嬉しい」とユメちゃん。ほかの子どもたちも、お客さんが来るとはりきっていた、集中していたという感想が聞かれました。

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この日のために練習を頑張ったユメちゃんの努力が実り、「フォーチュンカードテラーユメ」は大人気でした

人を記号ではなく一人の個人として見る

こうした澤田さんのアイデアの源泉は、江戸時代の職業図鑑を見たことでした。
「この時代は自分を起点にして仕事を作っていました。競合の多いものではなく下駄や襖を売る職人といった自分の特性を生かした仕事を楽しんで作っていた気質が日本人にはありました。ところが明治維新の近代化で型にはまった職業に人をあてはめるようになったのです」。

澤田さんは江戸の職業観に戻し、時間を仕事のために割いているという意識から、好きなことをやっている、自分の特性を生かしているという形にしたいと考えています。

その根底には「障害者、おじいちゃんなどと人を型にはめる・記号化するのではなく、一人の人・個人として見る視点を大切にしたい」という思いがあります。

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会場は終日大盛況でした。これまで障害や福祉に興味がなかったけれど、「特別おもしろい職業」という言葉に魅かれて訪れた人も

「異なり」が光る社会を創っていきたい

澤田さんは子どもの頃に親の転勤で海外に暮らした際の孤独だった体験が、孤立している人に寄り添う活動の原点になっています。
「私には、全盲で自閉症の息子がいます。そのことは自分たちにとっては当たり前の日常ですが、これまでその話をすると気の毒がられることが多く、違和感を感じていました」。こうした社会の見方を変えていけたらと考えています。

「多様性、ダイバーシティと言われていますが、個人の多面性に目を向け見ていくと素晴らしい面、思わぬ一面を持っていて、それが人を助けることもあるのです。読者のみなさんにも自分の多面性を一度ぼんやりと観察してほしいです。それが好きなことや得意なことでなくてもいいというのがポイントです。『世界で自分だけ』というのがあったら、良い悪いではなくて、すべてが尊いのです」と読者へのメッセージを語ってくれました。

「外へ外へではなくて、自分の内へ内へと自分の中を検索すると、そこに豊かな世界が広がっている、もっと自分を検索することに時間を使い、自分の多面性を信じてほしいです」。

障害攻略課は、自治体や企業、特別支援学校とも特業のやりとりを進めており、特業プロジェクトも近日正式に公開予定です。

「たぎるような熱い思いで特業発掘をしています。子どもたち1人1人が魅力的で特別な存在。それをおもしろく伝えていきたいです」。

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「特業祭2022」の会場で集合写真。また働こうね!

特業祭2022 映像

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「難病の子どもと家族を支えるプログラム」

日本財団 難病の子どもと家族を支えるプログラムでは、日本全国に難病の子どもと家族の笑顔を増やしていきます。

一般社団法人障害攻略課

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文責 ライター 玉井 肇子
日本財団 公益事業部 国内事業開発チーム