クラシック音楽を見る・聴く・感じる!約5カ月に渡る「感動体験プログラム」レポート

写真
「感動体験プログラム」のワークショップを、徳島・鳴門拠点で実施

徳島・鳴門拠点は、2022年11月から2023年3月にかけて、全6回の「感動体験プログラム」を実施しました。
テーマは「見る・きく・感じる!わくわくクラシック」。徳島県鳴門拠点を利用する14名の子どもが参加し、プロの音楽家と楽器作りやダンスを通して、クラシック音楽に触れました。

クラシック音楽の長期ワークショップ

「感動体験プログラム(以下、プログラム)」の一環として実施する「長期プログラム」は、“創造性と好奇心を育む感動体験を放課後へ”をキャッチコピーに、ソニーグループ株式会社と特定非営利活動法人放課後NPOアフタースクールが連携して運営しています。ソニーグループの技術やエンタテイメントを活用したSTEAM分野の多様なワークショップを届ける内容で、子どもたちの創造性や好奇心を育んできました。

日本財団は子どもの教育格差縮小に向けた取り組みとして、2019年度からソニーグループの支援を受け、希望拠点に感動体験プログラムを通した体験の機会を提供。過去4年で35拠点が参加しました。

徳島県鳴門拠点は、2020年度にプログラミングの短期ワークショップを体験。それをきっかけに子どもたちはプログラミングの面白さに目覚め、以降3年連続で人気ゲーム・マインクラフト(通称:マイクラ)の大会に出場しています。

そうした経験もあり、徳島県鳴門拠点は2022年度はクラシック音楽をテーマに、全6回、約5カ月間にわたる長期プログラムを実施することになりました。

「第九」アジア初演の地だからこそ

実施にあたり、子どもたちへの良質な音楽の提供を行う、公益財団法人ソニー音楽財団の協力のもと、徳島県鳴門拠点の子どもたち向けにオリジナルプログラムを作りました。

実は徳島県鳴門市は、1918年にベートーヴェン「第九」交響曲がアジアで初めて全曲演奏されたアジア初演の地として知られており、「なると第九」として住民からも親しまれています。
そのため、幼稚園や保育園の頃から第九を歌う機会があり、子どもの多くはドイツ語で第九を歌うことができるそうです。

とはいえ、「多くの子どもにとって音楽は学校の一教科。クラシックにどこまで興味を持ってくれるか心配だった」と徳島県鳴門拠点を運営する酒井美里さんは振り返ります。

写真:プログラム募集のチラシ
プログラム募集チラシ

子どもを虜にしたプロの演奏とプログラム

しかし、そんな心配はなんのその。1回目「クラシック音楽ってなぁに?」で、メイン講師の中川賢一さんのピアノや、礒絵里子さんのヴァイオリン演奏を聴くと、子どもたちは「一気に引き込まれたようだった」と酒井さんは嬉しそうに話します。

「大人の本気やプロの凄さは、クラシックに興味のない子どもにも伝わるんだって思いました」

写真
真剣に演奏をきく子どもたち

2回目はビーズやストロー、サランラップの芯、ペットボトルなど身近なものを使って、オリジナルの楽器作りに挑戦。出来上がった楽器で、最後にはみんなで演奏をしました。

写真
ジュースの容器にビーズなどを入れて楽器をつくる

また4回目には、徳島県鳴門拠点が日頃から畑をしている島田島に渡り、自然の音を探しに行きました。ソニーから提供いただいたレコーダーを使って、虫や風、川の流れる音などを子どもたちは採取。身近にさまざまな音があることに気づいたようです。

写真
島田島で音を採取する様子

5回目には、ダンスの先生に田畑真希さんをお迎えし、音楽に合わせて体を動かしました。自分のポーズを考えて発表するシーンでは、子どもらしい個性あふれる表現がたくさん見られました。

写真
中川さんのピアノ生演奏に合わせて、体を動かす

最終回では、これまでに作った楽器や採取した音、ダンスなどを組み合わせて発表会を実施。保護者や学校の先生、市役所の職員、地域の方々にも声をかけ、多くの方々に見守られながら、プログラムの成果を表現しました。

「『すごいね』とたくさんの人から言ってもらうことができたら、社会に認められていると感じてくれるはずです。多くの方に足を運んでいただきありがたかったです」

写真
プロの演奏に、オペラ歌手としても活動する酒井さんも加わり、第九を演奏した

プログラムを終えて、子どもの変化

全6回のプログラムを終えて、子どもたちにはどのような変化があったのでしょうか。

「『どうせ自分なんて』と卑下していた子どもが、進んでピアノを弾く様子も見られました。また日常生活ではなかなかじっとできなかったり集団行動をしたりするのが苦手な子どもが、音楽がなり始めた瞬間に集中しているのを見て、音楽ってすごいなと思いましたね」

他にも言葉数が増えた子どもがいたり、ダンスが好きだとわかった子どもがいたりと、プログラムを通じて、知らなかった子どもの一面を知る機会にもなったそうです。

「きっとみんなクラシック音楽を好きになってくれたんじゃないかな。音楽は身近なものだと気づいてくれていたらいいですね」

写真
子どもたちの話を真摯に受け止めてくれた中川先生。プログラムが進むにつれて、子どもが自主的に楽器を触ったり先生のもとに駆け寄っていく姿も増えていった

プログラムの気づきをもとに、「今後は発表の機会も積極的につくっていきたい」と酒井さんは考えます。

「私たちが思っていた以上に、子どもは人前に立って、自分を表現することが好きなのかもしれません。子どもがやりたいことを挑戦できるように背中を押すことがスタッフの役割。少人数でもいいので体験したことや好きなことを発表する場をつくりたいです」

日本財団では、2023年度以降も引き続き企業やNPO等と連携して子どもたちに体験の機会を提供する予定です。子どもへの支援を検討している企業・団体の皆さまはお気軽にご連絡ください。

取材:北川由依