「IKUNO・多文化ふらっと」が大阪生野コリアタウンの側で進める、廃校を活用した多文化共生の居場所づくり

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約100年に及ぶ歴史に幕を下ろした御幸森小学校の跡地にある「いくのパーク」

大阪コリアタウン(御幸通商店街)に隣接した場所に、廃校を活用した多文化共生のまちづくり拠点「いくのコーライブズパーク(通称:いくのパーク)」があります。2023年5月にグランドオープンしたこの施設の一角に、子ども第三の居場所「学習サポート教室DO-YA」があります。多国籍の子どもの学習をサポートしています。

5人に1人が外国籍のまちに誕生した「いくのパーク」

2021年に廃校になった御幸森小学校の跡地を利用して、2022年4月から多文化共生のまちづくり拠点としてスタートを切った「いくのパーク」。拠点を運営するNPO法人IKUNO・多文化ふらっと(以下、ふらっと)と、大阪を中心に飲食店の運営やまちづくりを行う株式会社RETOWNと共同事業体を構成し、「いくのパーク」を運営しています。

A・B・Cからなる3つの棟と体育館のある講堂からなる敷地内には、私設図書館や飲食店、託児所、スポーツコート、K-POPのダンススクールなどがあり、運動場の一角には小さな農場や防災かまども設置されています。

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カフェスペースを併設した図書館「ふくろうの森」。さまざまな言語の絵本を手にとり読むことができる

多国籍の子どもに対応した学習サポート

B棟2階の元音楽室に、拠点はあります。週5日開所し、学習サポートは、毎週水曜・木曜の週2回。対象は小学生から高校生までで、一年目となる2022年度は日本の子どもをはじめ8カ国、約60名の子どもが利用しました。

大阪市生野区は、外国籍住民比率が21.75%で全国一位(参照:2021年住民基本台帳)。御幸森小学校は、韓国・朝鮮にルーツを持つ子どもたちが多く、世界各国の文化を学ぶ「多文化共生教育」に力を入れ、大阪市初のユネスコスクールに認定されていた歴史もあります。そのような意志を受け継ぎ、ふらっとは「誰もが暮らしやすい、全国No.1のグローバルタウンへ!」を目標に掲げ、多文化共生の感覚を身につけることができる場所でありたいと、考えています。

「利用する子どもにルールはありませんが、大人が守るルールはあります。それは『子どもが自分で決めることを尊重すること』です。同調圧力が強い社会で、自分のことを自分で決める機会は多くありません。自分のことは自分で決める力を数値化はできませんが、生きて行く上で大切な力だと思うんです」

そう話すのは、理事の宋悟さんです。

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宋悟さん

「宿題を出すにしても、『やってきてね』ではなく、『あなたにとって必要なことだけど、次までにやってくる?』と聞きますね。飲み物を渡す時も、りんごジュースとオレンジジュースを両方持っていき『どっちにする?』と聞いて、選択の機会を増やしています」

学習サポートは1コマ90分。その時間配分や使い方も、一人ひとりの子どもとスタッフに委ねています。

「10分集中したら10分休む子どももいます。10問やったら5分休憩をとる時もあります。その日の子どもの様子を見て、相談しながら決めています」

多国籍の子どもがいることもあり、一人ひとりの日本語能力や学習理解度は大きく異なります。そこに在留資格の有無や家庭環境の違いもあるため、ふらっとで多くの子どもに対して一対一で学習支援をしているそうです。

「日本語力を上げるためにも、母語を尊重することが大切です。そのため英語が得意な子供には英語で数学を教える。中国ルーツの子供には中国からの留学生がサポートをすると行ったピアサポートを心がけています」

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一人ひとりのレベルに合わせて学習をサポート

また、ふらっとが学習支援と同時に大切にしているのが雑談の時間。ときには、学校や家庭のこと、将来の話などに1コマ使うこともあるそうです。

「学ぶことと居場所であること、両方を大事にしています。安心して自信を持って何かができる居場所があってこそ、学びは駆動し始めると思うんです」

複合施設に入っている拠点だからこそ、「学習したい」「大人数で食事をしたい」「図書館で静かに過ごしたい」などさまざまな子どものニーズに応えることができている側面もあるそうですよ。

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施設内にはテコンドー教室もある。スポーツ、遊びなどにおいても、さまざまな国の文化交流がはかれる。

企業や大学と連携した体験活動

学習サポートと同時に、体験活動にも力を入れています。大学のキャンパスツアーへ行ったり、学校祭へ遊びに行ったり。提携する企業から派遣された社員さんから仕事について話を聞いたり。敷地内にある農園のお手伝いをして、収穫した野菜を子ども食堂で使うこともあります。

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「大学の学園祭に行ってみよう!キャンパスツアー@近畿大学」には、小学生・中学生13名が参加した

「体験すらお金で買う時代になり、経済的な格差が体験格差に直結します。頭から入るより体験することで視野は広がるので、定期的に実施しています」

運動場にある防災かまども体験活動の一つ。地域の避難所に指定されていることから、災害時に役立つ防災かまどを地域の人と一緒にワークショップをしながら作りました。

手厚い学習サポートと体験活動の成果か、2022年度は通っていた中学生15名が全員志望した高校に合格。保護者からも感謝の言葉が届いています。

多文化共生を体感できるまちへの挑戦は始まったばかり

間も無く立ち上げから一年を迎える「学習サポート教室DO-YA」。今後は①リモートの学習サポート②保護者のサポートに新たに取り組みたいと宋さんは話します。

「小学生の場合、遠い学区からだと通えませんし、不登校の児童からは対面授業に来づらいという声があります。アウトリーチするためにオンラインでの学習サポート体制をつくりたいです。2つ目が保護者のサポート。生活課題を解決し家庭環境を改善することが、子どもの心身の安定につながり、学習にも身が入るようになります。なかには日本語が全く話せない人や難民申請中の親子もいて、学校のお便り等の通訳、通院の同行などを必要としています。そうした家庭を多言語で相談援助ができる窓口をつくる予定です」

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日本語指導の教材も多数あり、一人ひとりに合わせた指導が可能

約5人に一人が外国籍のまち、大阪市生野区。ここで生きる子どもたちは、日本のどこよりも多文化共生を体感しながら育ち、国籍もセクターも関係なく手を取り合いながら暮らすことの大切さを学ぶことでしょう。

そのためにも、拠点が子どもたちにとって安心安全な居場所であることが必要だと感じました。

取材:北川由依