町ぐるみで子どもを育てる。岡山県奈義町の「b&gなぎ」
岡山県の北東部、中山間地域にある奈義町は、人口5,736人(2022年6月)でありながら、合計特殊出生率が2.95(2019年)と全国トップレベルの出生率を誇ります。ここに2020年秋、子ども第三の居場所「b&gなぎ」が誕生。役場主導で、地域の方々を巻き込みながら、子どもたちを見守っています。
まちの中心で子どもたちを見守る
「b&gなぎ」があるのは、保育園や美術館、商工会議所などが集うまちの中心部。山々に囲まれた自然豊かな土地には、ゆったりとした時間が流れています。
その一角にある「子育て等支援施設なぎチャイルドホーム」の中に「b&gなぎ」はありました。
2019年に立ち上がったチャイルドホームは、未就学児の子どもと保護者が集う子育て支援センターとして使われてきました。0歳児から小学校入学前の子どもが安心して遊べるよう、月齢に応じたおもちゃや、遊びを提供し、親子にとって頼れる居場所として今も続いています。
しかし、「対象年齢から外れる小学生は訪れにくい場所だった」とスタッフの貝原博子さんは話します。2020年にチャイルドホームの一角に「b&gなぎ」ができると、小学生や中学生の利用も増えたそうです。
「小学生に上がって利用が途絶えていた子が戻ってきたり、保護者から不登校や学校トラブルの相談をされたりするようになりました」(貝原さん)
建物の中をぐるっと歩いてみると、一つの建物の中で、未就学児が集う場、小学生が過ごす場がそれぞれあり、複数の居場所がゆるやかに繋がっていることがわかります。
放課後の過ごし方
ここで子どもたちはどんな風に過ごしているのでしょうか。
町に小学校・中学校ともに一つで、拠点からはどちらも1キロ以内。そのため、みんな自分の足で歩いてやってきます。
授業によりますが、低学年は15時、高学年は16時頃に拠点に到着。手洗いをしたら、遊び始める子、宿題に取り掛かる子など思い思いの時間を過ごします。
「決まっているのは、16時から16時半のおやつタイムだけ。拠点は18時まで空いていますが、保護者が帰ってくる17時には帰宅する子が多いので、放課後の短い時間を何に使うかは保護者と相談しながら決めています」(貝原さん)
「都市部と違って、近くに親族が住んでいる世帯も多く、夜遅くまで働く仕事もあまりありません。お店も夜は閉まりますから(笑)」と貝原さん。現在の登録者数は39名。生活困窮世帯、ネグレクト、不登校児、共働き世帯などさまざまで、月曜から金曜の放課後の時間に、一日平均13名が利用しているそうです。
町ぐるみだからこそのサポート体制
まもなく開所から3年を迎える「b&gなぎ」。役場や学校、教育委員会などと連携しながら、気になる子どもや家庭のサポートをしてきました。
保健師である立石奈緒子さんは、貝原さんと密にコミュニケーションをとりながら、役場や学校だけでは拾いきれないニーズを、拠点につなげています。
「発達障害のある子ども二人を抱えるご家庭があります。学校にも行けない日が続いていましたが、お母さんが一人で自宅で見続けるのはしんどいので、拠点を利用してもらえるよう声かけをしました。貝原さんとも相談して、少しずつ学校にウェイトを置けるように関わり、今ではほぼ毎日学校へ行くようになりました」(立石さん)
「私たち役場は何かしらのアクションを起こした時しか関われませんが、拠点は常に子どもや保護者と関われて、普段の様子がわかるところが強みです。健診で心配な子どもがいれば、拠点をご紹介し見守ってもらうことができます。そうやってお互い情報共有をしながら、各々の強みをいかして連携しています」(立石さん)
今後は学習支援に力を入れたい
現在では、困難のある家庭の子どもに限らず、共働きで放課後を家で一人過ごしている子どもも来るようになりました。学校から自宅へ帰るまでの第三の居場所として、町になくてはならない場になっています。
今後は、子どもたちとの関わりから見えてきた課題を解決するため「学習支援」に力を入れたいと、貝原さんは考えています。
「宿題の答えを丸写ししている子どもや、やりたがらない姿をたくさん見てきました。なぜかを考えると、学校の授業についていけず、宿題を解けるレベルに至っていないとわかったんです」(貝原さん)
そこで今は使っていない建物奥のスペースを、新たに学習支援の場所として開く予定です。
まずは勉強を楽しいと思ってもらえるよう、塾のような形式ではなく、お店屋さんごっこやクイズなど、ゲーム感覚でできるところから、足し算や掛け算を身につけられるようにと、プログラムを考案中です。
小さなまちだからこそ、役場も地域の人も留学生も、手を取り合いながら、子どもを見守る動きが自然とできている「b&gなぎ」。今後も、拠点に人や情報が集まることで、まだ見えていないニーズを掘り起こし、手を差し伸べられる環境になっていくことでしょう。
取材:北川由依