「まんまる」は孤育てから救ってくれる場所。児童養護施設が運営するコミュニティモデル

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スタッフとカードゲームをする子どもたち

「調布駅」からバスに揺られること約10分。一軒家が並び立つ閑静な住宅街に、子ども第三の居場所「まんまる」はあります。運営するのは、社会福祉法人六踏園(東京都調布市富士見町)。2022年5月、児童養護施設の敷地内の建物の1階に、多世代が集う地域交流センターとして開所しました。

まんまるを中心に予防福祉に注力

六踏園は戦前、現在の富士見町で少年保護事業から始まり、戦後より児童福祉法制定に伴い児童養護施設、母子生活支援施設、保育園を運営し、地域福祉を担ってきました。1992年からは子どもショートステイ事業も始め、現在では年間延べ800〜1,000人の利用者にも寄り添っています。

その中で、「母子世帯の方がショートステイを利用するケースも多く、近年では育児に不安を抱える子育て支援・家庭支援の必要性が増えてきた」ことがターニングポイントの一つになったと、児童養護施設の遠田滋統括園長は話します。

施設同士の連携を深めないと、本質的な課題解決にはならないのではないか?

「結果福祉」の限界を感じた六踏園は「予防福祉」に舵を切り、地域福祉対策委員会を立ち上げ、法人内での連携をはかりました。さらに、2カ月に1回設けている「子ども連絡会」(学校や民生委員など町内の子どもに関わる関係団体と情報共有する機会)にも参画し、地域との連携にも取り組んでいます。

2020年には老朽化した建物の改築を機に、児童養護施設の一角に子ども第三の居場所として地域交流センター「まんまる」を立ち上げました。

拠点を児童養護施設につくる価値

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木を基調とした空間で、大きなガラス窓からは太陽の光がたっぷり入る拠点

まんまるを訪れると、スタッフのみなさんが出迎えてくれます。「おかえり」「今日は暑かったね」と声をかけながら、笑顔で学校から帰ってきた子どもたちを迎えます。これは、お家のようにほっとできる場所になってほしいという願いから。

カードゲーム、将棋、工作など、一人で、友達と、時にはスタッフを誘って思い思いの時間を過ごす子どもたち。やりたいことをのびのびとする姿を見ると、まんまるが子どもたちにとって安心できる場所であることが伝わってきます。

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まんまるは誰でも利用できる週3日の「まんまるDay」と、子どもを対象にした週2回の「まんまるKids」の2種類に分けて運営されています。とはいえ、曜日を気にすることなく毎日のように遊びにきている子どもも多いそう。

2022年度はコロナ禍で1日の利用人数の上限を23名にしていましたが、今年度から解除。7月には1日平均38名が利用しました。内訳を聞くと、児童養護施設で暮らす子どもが4割、地域の子どもが6割で、児童養護施設内にありながらも、地域にも存在が知られ頼りにされていることがわかります。

児童養護施設で暮らす子どもの中には、不登校の子どももいます。彼らにとって、「外の子どもとつながる貴重な機会になっている」とまんまるのスタッフ・大川内綾さんは話します。

保護者にとっても頼れる場所に

子どもだけではなく、保護者にとってもまんまるは、気軽に立ち寄れる居場所になりつつあります。

特徴的なのが、拠点に数十種類も置かれているボードゲーム。これが父親にも大人気で、休日になるとボードゲームを楽しみに子どもと訪れる方もいるそうです。電車好きなお父さんが企画した「電車っ子Party」など、父親も一緒に楽しみやすいイベントも増えています。

子育て中のママさんによるリフレッシュヨガ教室やロミロミマッサージも人気です。数々のイベントは、地域の方がもっているスキルを活かしやりたいことを実現できる機会にもなり、まんまるを訪れる人たちの交流の場にもなっています。また、子どもたちに本物の音楽を届けるクラシックコンサートを定期的に開催するなど、文化・芸術を含めた広義の福祉を展開しています。

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開所当初から人気のヨガ教室とヨガの後のティータイム。子育ての悩みを共有したり励ましあったり。ヨガ教室をきっかけにまんまるを知り、活動に協力してくださる方も増えています。

また、開設時に掲げていた法人内や地域内の連携が功を奏した事例も生まれています。

「母子福祉的なケアが必要な家庭や児童養護施設から家庭復帰するケースもまんまるに繋げました。仕事や人間関係がうまくいかずしんどい時、母親がまんまるにお茶を飲みにくることもありますし、お家に居づらい時に子どもが遊びに来ることもあります。親も子も安心できる場所として使ってくれています」

孤育てではなく、地域のみんなで子育てしよう

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YouTubeで作り方の動画を見ながら、工作をする

開設から2年目を迎え、まんまるは、地域交流センターとして子どもから大人までさまざまな年代に利用される居場所に育ってきました。

今後についてお伺いすると、「今は子育て家庭の利用が多いですが、シニアの方にも利用してもらえるような、本当の意味で多世代が交流している拠点にしたい」と大川内さん。子どもから始まった拠点を、より開かれた場所にしていこうとしています。

「専門機関へ相談に行くほどではないけれど、子育てにモヤモヤしている人はたくさんいます。まんまるに来てみんなで話しているうちに、すっきりしたり、悩んでいる問題点に気づいたりして前を向いていける人がほとんど。その中で、支援を必要としている人には、適切な機関に繋いで十分なサポートを受けられるようにしていくことが、まんまるの役割です」

予防福祉を掲げ、地域の子育てに寄り添うまんまるは、日本財団の目指す「みんなが、みんなの子どもを育てる」社会に向けて、歩んでいます。

取材:北川由依