入院に付き添うお母さんをお弁当で応援! 一般社団法人Kukuru

コロナ禍のお母さんたちにできることを

難病や障害で入院する子どもに付き添う保護者(主にお母さん)は、寝る時は簡易ベッドか子どもに添い寝、食事はコンビニばかりで、子どもの病状によっては食べることもままならない過酷な状況にあります。

「子どもの入院に付き添う保護者に栄養たっぷりのお弁当を届けて、身体も心も元気になってほしい」。
そんな思いで、こども病院にお弁当を届けているのが「くくるデリ」。医療的ケア児を支援する沖縄の一般社団法人Kukuru(以下Kukuru)が運営する、入院付き添い中の親御さんたちのためのお弁当プロジェクトです。週1回県内3箇所の病院や施設を対象に栄養のバランスが取れたお弁当を受注販売しています。
くくる(Kukuru)とは、沖縄の方言で「こころ」という意味です。

Kukuruは、看護師であり、お子さんの入院に付き添った経験のある鈴木恵さんが代表理事を務め、2015年から小児に特化した訪問介護・訪問看護を行ってきました。支援の幅を拡げるため、地域連携ハブ拠点「Kukuru+(くくるプラス)」を2019年秋に開所し、これまでの訪問サービスに加え、医療型短期入所を新たに展開。医療福祉機関との連携強化はもちろん、地域の交流拠点にもしたいと考えていました。併設されたカフェではワークショップを開催するなど、近隣住民との交流や、障害のある子どものお母さんたちがくつろげる場にしようとする取り組みも始めていました。

ところが、開所後、間もなくコロナ禍に。地域との交流事業もカフェ運営もできなくなり、これからどうしようかと思案していた時に、入院付添中のお母さんたちの過酷な状況を耳にしました。
元々厳しい環境にいた付き添いのお母さんたちですが、外出を禁止される、差し入れの受け取りはできない、他のお母さんたちとの会話さえ禁じられるなど、コロナ禍でさらに辛い状況に置かれてしまいました。

「自分たちにできることはないものかと考え、Kukuruのカフェのキッチンスペースを使い、お弁当のデリバリーをすることにしました。カフェをみんながほっとできる場所にしたかったので、お弁当で繋がるという形を目指しました」とくくるデリの事務局を担当する角知子さんは言います。

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栄養と愛情をお弁当いっぱいに詰め込みます

お弁当が入院中のこころの支えに

現在は、地域の就労支援事業所と協働してお弁当を製造し、沖縄県内の3か所、沖縄県立こども医療センター、琉球大学病院小児科、ファミリーハウスがじゅまるの家に毎週火曜日に届けています。2021年6月の開始から約2年3カ月の間に届けたお弁当の数は計5,000個に上りました。

この数には、付き添いのお母さんに届けた数の他、病院の職員による応援購入も含まれています。手術室、コロナ病棟など小児科以外の部署からの購入も多く、忙しくて食事がままならない医療スタッフからも喜ばれており、結果的に医療従事者への応援、支援にもなりました。

お母さんたちからは「付き添いのことは誰も気にかけてくれないけれど、自分たちのためにお弁当を作ってくれていることがとても嬉しい」「また入院が決まったのですぐに注文しちゃいました。これを楽しみに頑張れます!」という声が届きます。

「こういった感想をもらうと、退院まで気持ちが続くように、気分が上がるお弁当作りを続けていかなくてはと思います」と角さん。

「物価高騰やLINEの店舗向けサービスの有料化などもあり、運営は崖っぷちです。それでもお母さんたちの声を聞くとやめるわけにはいかないなと踏ん張っています」。

現在、お弁当代は親御さんは200円、病院スタッフによる応援購入は500円としていて、それが貴重な運営資金になっています。また、日本財団の支援を受けて「くくるデリ」のHPを開設し、活動資金や材料などの寄付を広く募っています

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お弁当を開けると、みんなほっこり笑顔になるといいます

応援の輪が広がって

Kukuruの在宅支援サービスを利用している医療的ケア児のお母さんが「自分も付き添いのお母さんを応援する活動をしたい」と、新たに「おにぎりプロジェクト」を立ち上げ、月に一度、手紙を添えておにぎりを届けるようになりました。

「同じ気持ちを味わったお母さんだからこそ分かること、支えられることがある。ご本人も医療的ケア児の介護をしながら、自分らしく生きるために活動されています」。

別の医療的ケア児のお母さんは、子どもをデイケアに預けたその足でお弁当の製造の手伝いにきて、配達にも携わっています。みんなとおしゃべりをして気分転換にもなっているそう。
こうした輪がハブ拠点であるKukuru+を中心に広がっており、ピアサポート的な場になることも期待されています。

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スタッフ、ボランティアがこころを込めて準備をします

困っている家族に本当に必要なことを

「困っているご家族が必要なことを拾い上げながら活動に繋げたいと常に思っています。主役はご家族、お子さんなので」とKukuru代表理事の鈴木さんは言います。

「くくるデリは利用者負担としてお弁当代をいただくことで食材費程度は賄えていますが、支援がなければ他の費用は賄えません。我々は制度にないところの支援をしているため助成金に頼っているのが現状で、その辺りの不安定さが課題です。公的なサポートを得ることが難しい分野なので、継続して支援していただける団体や支援者が増えるとありがたいです」。

子どもの入院に付き添うお母さんの厳しい状況については、世の中にまだまだ知られていないのが実情です。
「多くの方にこういうお母さんがいるんだなということを知ってもらえたらと思います。みんないろいろなものを犠牲にして付き添われている。付き添い入院が長期になって仕事を辞めざるを得ない人もいます。経済的にも、こころも身体も大変。お母さんが付き添いをしなければならない医療体制、付き添うのが当たり前という意識など、変えていかなければならないことは山のようにあります。くくるデリは言わば対症療法でしかないけれど、応援を届け続けたい」。

お母さんによる24時間の付き添いをなくせる仕組みができることを願いながら、くくるデリは今日も、お母さんたちへの応援の気持ちを込めて、お弁当を届けます。

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ひな祭りの季節、お雛様の折り紙をお弁当に添えて

「難病の子どもと家族を支えるプログラム」

日本財団 難病の子どもと家族を支えるプログラムでは、日本全国に難病の子どもと家族の笑顔を増やしていきます。

一般社団法人Kukuru

「日本財団 難病の子どもと家族を支えるプログラム」に興味をお持ちの方は、ぜひ難病児支援ページをご覧ください。

文責 ライター 玉井 肇子
日本財団 公益事業部 子ども支援チーム