食を通して自然と人と関わる。モリウミアスのオンラインプログラム。

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外と内の境目がない、風通しがよく開放的な建物。一年を通して、多くの子どもたちを迎え入れている。

四季折々の食を楽しむことができる日本。かつてはどこの家庭でも手作りの醤油や味噌、漬物をつくり、土地ごとの食材をいかした料理や暮らしが受け継がれてきました。
しかし、時代の移り変わりとともに、生産地と消費地が離れ、食べ物が誰の手で、どんな思いで、どのように育てられてきたのか、また、どうしてその料理が生まれたのかを知る機会はめっきり減ってしまいました。

日本財団は、子ども第三の居場所を利用する子どもに向けて、「自然と暮らしの循環」を体感できるモリウミアスのオンラインプログラムを2022年度から提供しています。参加するのは全国24拠点(2023年度)。月1回、モリウミアスがある宮城県石巻市雄勝町から届く旬の食材を使って調理にチャレンジし、料理を仕上げています。

循環する暮らしの体験を提供する「モリウミアス」

雄勝町は、東日本大震災によって町の8割が壊滅。かつて約4,300人が暮らしていましたが、1,000人ほどにまで人口が減少しました。

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リアス式海岸の雄勝湾は、年間を通して海の幸に恵まれている。ウニ・ホタテ・ホヤ・銀鮭の養殖が盛んで、アワビ、牡蠣、ナマコ、ワカメなども収穫される

そんな中、地域の復興への想いから、高台に残る築100年の廃校を利用して生まれたのが、子どもの複合体験施設「モリウミアス」です。雄勝の豊かな森と海と里で、自然とともに生きる暮らしを体験できる場として、2015年にオープン。以来、年間300〜400人を受け入れています。

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森を背にして佇むモリウミアス
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敷地内では、豚や鶏を飼っている。また、堆肥場や生活排水を自然浄化する仕組み「バイオジオフィルター」があり、濾過した水で生き物や作物を育てている。

モリウミアスの目玉とも言えるのが、「サステナブル」「ローカル」「ダイバーシティ」の3つの学びを大切にした宿泊体験です。雄勝の森や海で食べ物を採って調理する。余った食材は家畜の餌にして、土に還す。排水をリサイクルして植物を繁栄させる。そうした自然の循環と共にある考え方に触れることができ、かつ年齢や国籍、バックグラウンドが異なる仲間たちと暮らす、7泊8日の一週間プログラムは、申し込み開始後すぐに満席になるほど人気です。

こうした東北の食の豊かさを、ご家庭に居ながら体験してもらえるようにと、コロナ禍から始めたのが、オンラインプログラム「MORIUMIUS at home」です。

日本財団は、「食」や「人」との繋がりを感じながら子どもの生きる力を育む体験プログラムとして着目し、希望する拠点の子どもに体験してもらっています。

石巻から日本各地の居場所に配信

子ども第三の居場所を利用する子ども向けのオンラインプログラムは、年12回開催。月1回、拠点に届く雄勝の旬の海の幸を、子どもたちが調理して料理を仕上げます。食材は、例えば、11月ならマグロ、12月には殻付きのホタテ貝と、大人も思わずヨダレが出てしまいそうになるほど魅力的な旬のものです。

取材でモリウミアスを訪れた10月に扱ったのは、天然穴子。画面の向こうには、大阪や鹿児島などから4拠点の子どもたちが目を輝かせながらプログラムに参加していました。

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時には本物の漁師さんに登場いただき、子どもたちに向けて話をしてもらうこともある。

2時間のプログラムは、「学ぶパート」と「調理パート」の2つで構成されています。「学びパート」では、その日に扱う食材の紹介。子どもの興味を引くようなクイズ形式もありで、「うなぎと穴子の違いは?」「穴子の名前の由来は?」「なぜ穴子は刺身で食べれない?」などの疑問から、穴子の生態や特徴を知っていきます。

食材について詳しくなった後は、「調理パート」に移ります。プログラムオリジナルのエプロンを着け、包丁を手にして、いよいよ調理です。

この日みんなで作るのは、「穴子のしゃぶしゃぶ」。モリウミアスのスタッフが事前に収録した調理動画を流しながら、子どもの進行状況に合わせてポイントを説明していきます。拠点のスタッフが、調理する子どもの手元を映してくれるので、モリウミアスのスタッフにも子どもたちの状況が手に取るように伝わってきます。

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スターターキットとして、プロも使う鋼の包丁、オーガニックコットンのエプロンを各拠点10セットずつ配布している。

難しいように思えた穴子の骨切りも、見事にやり遂げた子どもたち。食材は多めに送ってもらっているので、拠点によっては、しゃぶしゃぶ以外にも、白焼きや蒲焼きにして、炊き立てのご飯の上に載せて頬張っている姿も見られました。

実食までしてプログラムは終了。お腹も満たされて、子どもたちは自然と笑顔に。「ごちそうさまでした」、「おいしかった!」と各拠点から聞こえてきます。

プログラム参加拠点の声

2022年度、23年度と2年連続でプログラムに参加している大阪・泉佐野市の「キリンの家」に、子どもたちの反応や変化を聞いてみました。

「コロナで学校の調理実習がなくなったこともあり、ほとんどの子どもが包丁を握るのも初めてでした。翌月の食材について、家で調べてくる子どももいますし、自宅で料理をする機会が増えたという声も届いています」

「お刺身一つとっても、調味料を混ぜ合わせて作るので面白くって。日頃から自分好みの味付けに挑戦したり、食材をどう生かしたらいいかだったりを考えるようにもなりましたね」

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天然穴子を調理して蒲焼き丼を作った、大阪・泉佐野市にある「キリンの家」。毎回、食材をよりおいしく食べる調理法を子どもとスタッフで考えている。

また、穴子の調理では、普段ほとんど交わり合うことのない子ども同士のコミュニケーションも生まれたそう。

「骨切りも、一人ひとり適切だと思う幅が異なります。何が正解かわからないから、試してみて、修正しての繰り返し。『次はもっと細かくしたら?』とアドバイスをしあうなど、料理を通して自然と会話が生まれていました」

生産者の話を聞くことで、食わず嫌いだった魚を食べられるようになった子どももいるそうで、月1回の体験を通して、子どもたちは少しずつ変化しています。

担当スタッフの山口さんは、このように話します。

「食材が毎月変わる楽しさもありますが、1番大きいのは定期的にチャレンジや実践できる機会があるのがとても大きいと感じています。初回は、食材を遠くからみていた子が、今月は触ってみた、その次は包丁で捌いてみた、今では準備から片付けまでと一連で自主的にできるようになるなど、日々の暮らしの習慣となって変化していく様子を感じています」

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山口さん

食材を通して、自然と暮らしの関わりを学ぶ

食材を観察し、その生態や文化的な背景を知ることで、自然と人々の暮らしとのかかわりを学ぶことのできるオンラインプログラム。遠く離れた東北の食材と人との関わりから、拠点の子どもたちは、一生物になる生きる力のエッセンスを育んでいます。

日本財団では2023年度から、オンラインプログラムの参加拠点を対象に、雄勝を訪れる現地プログラムの実施も始めました。次回は、その様子をお伝えします。

取材:北川由依