医療・福祉の事業を持つ法人が、子どもに必要なサポートを届ける。大阪・高槻にある「コノイロ」

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コノイロの利用風景

不登校や発達障害、貧困、ヤングケアラーなど、困難な状況に置かれた子どもを支援する制度やサービスは、さまざまあります。しかし、どの制度にも当てはまらなかったり、あるいは制度利用に戸惑いや不快感を持っていたり、金銭的な事情でサービスを利用できなかったりする場合、手を差し伸べられる場所は十分には準備されていません。

大阪府高槻市を拠点に活動するNPO法人クラウドナインは、取りこぼされている子どもの存在に気づき、子ども第三の居場所の運営を始めました。

狭間にいる子どもに手を差し伸べる「コノイロ」

阪急富田駅から歩くこと約15分。住宅街にある大型マンション1階のテナントスペースに、コノイロはあります。運営するのは、高槻市内で就労継続支援B型や放課後等デイサービス、訪問看護ステーションを運営するクラウドナイン。もともと病院や地域福祉の現場で働いていた理事長の小林將元(まさゆき)さんが、現行制度では行き届かない支援の狭間にいる子どもに手を差し伸べることが出来たらという想いから2022年2月、開所しました。

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たこ焼きパーティーの様子

登録するのは、近隣に住む小中学生を中心に約60名。週3回開所し、1日10名ほどが利用します。

子どもたちは、拠点に着くと手洗いうがいを済ませ、宿題をしたり遊んだり、思い思いの過ごし方をしています。「うまく言語化できないんですけど、プログラムを提供したり、時間割を決めたりしておらず、自由なところが来やすいのかな」と小林さん。

長い間、不登校の子どもが「コノイロだったら行ける」と話して、外に出るきっかけになることもあるそう。その姿を保護者や学校関係者が見て、コノイロは開所以来、少しずつ地域からの信頼を得てきました。

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今日の夕食、麻婆豆腐に挑戦。

その子が必要とする「場」に誘導するきっかけを

利用する子どもは、行き渋りまたは不登校傾向であったり、集団やペースに馴染みにくい子どもたち。そんな彼らの置かれている状況を整理していくと、困難な現状に直面します。

「ご家族がお子さんの問題や課題に気付かれていない、あるいは困っていることをご家族が表現できていないと思われるケース、発達障害(疑い)やヤングケアラーであろう見立ての相談は多くありますね」

なかでも、学校内で起きている子どもの問題行動について、多職種で共有し支援にあたっているが、立ち行かなくなり医療機関に期待しているケースは年々増えている傾向があります。

「情緒や特性が大きな課題の場合、例えば障害の対象児童であれば支援機関はあり、選択肢が広がります。しかし、医療受診もされておらず、障害対象外ですと、福祉制度上の地域資源がないのが現状です。お子さんの生活に不安や心配を抱えながらも、医療不信や受診に対して気持ちの整理に時間を要するご家族の話をお聞きすることが多々あります。そんなお困りごとを丁寧に整理し誘導することが、私たちの大切な役割と考えています。コノイロに来ることで、医療受診を構えず判断されるご家族様もいらっしゃいます」

写真:小林將元さん
病棟看護を経て地域医療に移行した際、精神保健福祉士を取得。精神障害者の居場所づくりを構えたことで不登校やひきこもりの支援に携わってきた。医療だけでは行き届かない困難を有する若者と出会ったことが、コノイロの立ち上げにつながっている。

コノイロでは開所当初から対象となる子どもに、「今できる精一杯」をみんなで考えてきました。みんなとは、学校の先生、通級の先生、精神保健福祉士、訪問看護師、大学教育学部の准教授、そしてご家族。先生やご家族に、医療の役割を正しく知ってもらうことができ、福祉制度上の地域資源の役割と機能を正しくお伝えできます。

「ご家族は、担任の先生も同席してくれる中で、受診前に医療機関のことを聞くことができて安心されているようでした。ご家族の笑顔や弾んだ声、担任や通級の先生の医療についての理解が深まる様に、地域連携の重要性を再認識しました」

医療・福祉・教育に関わる人が集まる勉強会を実施

法人内での日々のケースカンファレンスは医療と福祉従事者で行っていますが、コノイロは違います。はじまりは、大学の地域教育を専門にしている准教授、社会福祉法人で障害者施設を地域で展開している代表者、そして小林さんの3名でのスタートでした。

勉強会では参加者それぞれの専門分野にとどまらず、少し視野を広げて「医療・福祉・教育・労働」について考え、課題ある子どもや家族への向き合い方を整理しています。現在では、精神科医やソーシャルワーカー、グループホーム、放課後等デイサービスの運営者、学校の先生、大学の先生、行政職員など、幅広い従事者が参加しています。

「総合福祉を意識している方々が参加してくれています。それぞれの持ち場で働きながら、狭間にいる子どもの存在に気づき、問題を発見し、正しい支援を見つけて誘導したいと思っているんですよね」

写真:医療・福祉・教育に関わる人が集まる勉強会の様子
勉強会では毎回テーマを設け、さまざまな立場から意見交換がなされ、終了後は懇親会も開いています。医療・福祉・教育・労働を単体として扱わず、横串を刺して同時に考えあうことができるハブ機能を担っていきたいと考えています。

医療も併設した居場所づくりの道を模索

小林さんが病棟看護や精神保健福祉士として福祉に携わっていた経験やネットワークを活かしながら、医療や福祉が教育とほどよく繋がるよう機能し始めたコノイロ。日本財団からの助成が終わった後も、独自の方法で収益を生み出せないかと検討しています。

「考えている一つに児童精神の専門外来があります。現在市内では子どもの精神科受診が半年から1年待ちと聞いています。医療相談を求める方や考えている方、診断を受けても行き場がない子ども。色んな意味で医療部門をもつ意味は大きいと思います」

勉強会に参加した医療機関のワーカーからは、「初診で来院してくれた子どもの大半は継続的に来院されず、親御さんが代理診察していることが多い。医師は親御さんから子どもの様子を聞きながらお薬や助言指導をされていることで経過を診ている」という声も聞いているそうです。

また、このような話を聞いた小学校の先生が、「医療につながったことで安堵していたが、本人は受診ができていない」と実情を知る機会に繋がったケースもあると話します。

「医療に繋がった子どもにとっての居場所も課題になっていることに気付かされました」

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マインクラフトのイベントを楽しむ子どもたち

コノイロを運営する特定非営利活動法人クラウドナインには、訪問看護ステーションと放課後等デイサービスがあります。医療や福祉で支えることが可能かもしれないという思いから、現在、同じ志を持つ医師と実現可能かセッションを重ねています。

「日本財団の助成がなくなり、コノイロが既存の福祉制度にのった事業に転換すると、利用対象にならない子どもは再び居場所を失うことになりかねません。医療部門のみならず助成金や寄付金などを調べながら、継続の糸口を探しています」

子どもの居場所に専門外来の設置という新たな道を模索するコノイロ。助成期間が終わった後、どのような方法で子どもたちの支援を継続していくのでしょうか。今後も注目したいと思います。

取材:北川由依