世界の海洋問題を共有するために国際シンポジウムを開催

写真:セッションの様子

世界が共有する海に関する問題解決のためには、国や組織、分野を超えた幅広い取組みを即座に行うことが必要です。日本財団は、世界的に著名な科学者及び政策関係者を内外から招いて海洋シンポジウム「次世代に海を引き継ぐために」を開催。国際的な視点に基づく海洋の現状や課題を紹介しました。

生命の源である海が危機的状況にある

海洋環境の変化による生物多様性の喪失や乱獲などによる水産資源の減少など、海を取り巻く様々な問題が深刻化しています。それらの問題は地球規模で進行しており、人類を育んできた海を次世代まで引き継ぐためには、国や組織、分野を超えた課題共有と協力体制が必要です。

海洋問題への取り組みに注力する日本財団では、世界的な科学者及び政策関係者を招き、2013年10月10日に海洋シンポジウム「次世代に海を引き継ぐために」をPew Charitable Trustsと共同開催しました。

開会挨拶では、笹川陽平会長が「一人ひとりが海を守ること、海を次世代につないでいくことは現世代の責任。問題解決のために、国家や国際組織、分野を超えたつながりを構築し、あらゆる努力をする必要がある」と、世界が力を合わせ早急に海洋問題に取り組まねばならないことを強調。

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ジョシュア・ライカートPew財団副理事長

Pew財団のジョシュア・ライカート副理事長は「世界の漁場の87%で乱獲が行われ生態系が失われようとしているが、EU、米国では漁業政策を実行し海の健全性が改善されつつある」とし、漁業管理における政治の役割を強調しました。

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川口順子氏

元環境大臣であり世界海洋委員会で理事を務めている川口順子氏は「海の酸性化の度合いは確実に進んできており、このまま進めば、2100年には殻を作る生物は生きていけなくなる」と、具体例を挙げて、海の危機的状況を訴えました。

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開会挨拶をする笹川会長。会場には200名以上の参加者が集まった。

国際的な視点に基づく海洋の現状と課題を共有

プログラムのメインは3つのセッションで、海外と日本の海洋専門家が各1名ずつ講演を行いました。

セッション1「気候変動などによる海の変化と漁業への影響」

  • Prof. Daniel Pauly ブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ)
  • 山形 俊男 海洋研究開発機構上席研究員、東京大学名誉教授
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ダニエル・ポーリー教授

ポーリー教授は、世界中で行われている漁業と昨今の気候変動を原因とした海洋生態系の変化について発表し、現在のような漁業や海水温の上昇が続けば、世界的に漁獲量が減少し、資源量が回復できない段階に陥る可能性を示唆しました。

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山形 俊男教授

山形教授は、“エルニーニョモドキ”や“ラニーニャモドキ”と自らが命名したエルニーニョやラニーニャ現象に類似した気候変動による地球の気温上昇や、近年インド洋の西側で頻発しているダイポールモード現象について説明。それらの異常気象は、台風の上陸などを増加させると同時に、海面水温の変動にも大きく関わる。そこで、自然災害や水産業への悪影響を回避するために、季節予測システム実用化が必要性だと言及しました。

セッション2「海の管理に関する課題と可能性の共有」

  • Mr.Michael Lodge 国際海底機構副事務局長兼法律顧問
  • 坂元 茂樹 同志社大学法学部教授、神戸大学名誉教授
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マイケル・ロッジ国際海底機構副事務局長

ロッジ氏は、1982年に国連で採択された国連海洋法条約(UNCLOS)があるものの、近年の海洋資源等に対する需要の拡大や海水の酸性化、公海上での違法行為といった新たな海の課題に対応しきれていないことを指摘。今後の海洋管理の状況改善に向けた課題を挙げ、現在あるシステムを強化しながら世界各国共通の目標を設定し、国家間で合意をする必要があると語りました。

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坂元茂樹教授

坂元教授は、同様に海洋法条約に触れながら、起草時には想定されていなかった海洋保護区の設定と海洋遺伝子資源の開発の問題について言及。各国の国内法に定義が委ねられている海洋保護区に関しては、海洋基本計画によって環境保全を維持しながら持続可能な利用を図るとしている日本は、資源管理に重点を置かねば国際社会では理解され難いのではと述べました。海洋遺伝子資源の活用は現在一部の先進国に限られており、途上国との間で対立がある中で、共有できる目標を提示し論議するべきと語りました。

セッション3「持続可能な海の実現に関する課題と新たな展望の共有」

  • Dr.Jane Lubchenco 米国海洋大気庁(NOAA)前長官
  • 寺島 紘士 海洋政策研究財団常務理事
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ジェーン・ルプシェンコ前長官

ルブシェンコ氏が米国で近年行われた科学的根拠に基づく漁獲制限と海洋保護区の設定という2つの海洋政策について紹介。システムづくりやその効果について語りました。またEUで今年改正された共通漁業政策についてや、海洋保護区の研究に対する見解を述べ、海洋に対する「理解」を深めることが不可欠であることを強調しました。

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寺島 紘士 海洋政策研究財団常務理事

寺島氏は、2012年6月にブラジルで開催された「国連持続可能な開発会議(リオ+20)」で取りまとめられた「リオ海洋宣言」等の内容を紹介。今後は「海に守られた人間社会」から「海を守る人間社会」への転換が必要であり、国家及び地域レベルの取り組みを、さまざまな国際的な協力の下で推進することが重要であると締めくくりました。

このシンポジウムをきっかけに一歩を踏み出す

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山本一太・内閣府特命担当相

セッション後に行われた特別スピーチでは、山本一太・内閣府特命担当相が日本政府の海洋政策について講演。「我が国の成長戦略を推進するため海洋エネルギー、鉱物資源など海洋資源の開発に積極的に取り組む。同時に持続可能な利用を図るよう海はしっかり守る」と発言しました。

最後のプログラムはブリティッシュ・コロンビア大学上席研究員の太田義孝氏がモデレーターを務めて、登壇した各氏と総合海洋政策本部事務局長の長田太氏をパネリストとして迎えたディスカッションが行われました。各セッションの講演に基づき、さらに一歩踏み込んだ内容の発言が交わされたほか、会場からも積極的に政策や事例に対する質問が飛ぶなど、海洋問題に関する知見の最新の情報交換が行われるシンポジウムとなりました。

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海野光行日本財団常務理事

日本財団の海野光行常務理事は、閉会挨拶で各登壇者に謝辞を述べるとともに「このシンポジウムが次世代に海を引き継ぐために考えうるべきことを、みなさまと少しでも共有でき、人類の知恵を実践する一歩を踏み出すための助けになることを願っています」と締めくくり、シンポジウムは盛況のうちに閉会しました。