ミクロネシア3国とともに広大な太平洋を守る

写真:海上を航行する日本財団が寄贈した小型パトロール艇2隻

違法漁船の乱獲による水産資源の減少や、海の環境破壊は世界共通の課題となっています。日本財団は、ミクロネシア3国の海上保安能力の強化を通し、ミクロネシア海域が抱える課題の解決を目指しています。日本財団が寄贈した小型パトロール艇2隻と高速救難艇が違法漁船の拿捕などの実績を挙げているパラオを訪ねました。

小さな国の広大な排他的経済水域を守る

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太平洋の島々

パラオ共和国、ミクロネシア連邦、マーシャル諸島共和国の3カ国は、合わせて人口約20万人、GDP7億4200万USドルと、人口も少なく経済規模も小さいものの、排他的経済水域(EEZ)は約600万平方キロメートルにのぼり、世界第6位の日本の450万平方キロメートルを大きく超えています。これら国々の海域は、マグロ、カツオ、カジキなどの水産資源の宝庫としても知られています。日本の漁船はこれらの国々から正式な漁業ライセンスを取得して操業し日本の食卓に美味しい魚を届けています。

しかし、近年は違法漁船が数多く出没し、密漁や乱獲による水産資源の減少、枯渇などが懸念されています。また、この地域は、美しいサンゴ礁などを求めて世界中から観光客が集まるなどマリンスポーツも盛んですが、ダイビング中の遭難やボートの転覆などの事故に巻き込まれるケースも増加し、事故が発生した際の捜索救難体制の脆弱さも指摘されるようになっていました。

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(写真上)パラオに設置された通信設備。(写真下)横浜海上保安本部を視察したミクロネシア連邦法務大臣。

こうした中で2008年、マーシャル諸島共和国の大統領からの支援要請を受けた日本財団と公益財団法人笹川平和財団が支援策の検討を開始。日本(海上保安庁)、米国(沿岸警備隊)、オーストラリア(海軍等)の協力を得て「ミクロネシア3国の海上保安能力強化支援プロジェクト」をスタートすることになりました。現地での活動は公益社団法人日本海難防止協会が中心となり、2012年に各国に1隻ずつ小型パトロール艇や通信施設等を供与するとともに、継続して運用するための燃料費や通信費も支援。日本から技術者を派遣して小型パトロール艇の定期整備を行っているほか、3国の小型パトロール艇に勤務する海上警察職員等を日本に招いて研修を実施するなど人材育成にも力を入れています。ミクロネシア3国と日米豪の各国政府と日本財団を中心とした民間団体による官民が一体となった国際協力体制により、プロジェクトが進行中です。

違法操業や海難事故に迅速に対応できる体制を

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(写真上)パラオ海上法令執行部(海上警察)の責任者トーマス・トゥッティー部長(左)と山川孝之氏。(写真下)オーストラリアから寄贈された巡視艇。

海上保安庁OBで笹川平和財団の山川孝之特任研究員は、3国との実際の調整や、小型パトロール艇等の供与までの準備を担当しました。プロジェクトの背景として、
「ミクロネシア3国は、いずれも広大な排他的経済水域を持ちながら、海上保安体制は脆弱だという共通の課題がありました。過去にオーストラリアから巡視艇が寄贈されましたが、燃料費や人員の確保の問題から、十分に運用されていませんでした。違法操業の取り締まりも海難救助も初動が大切ですが、以前は事案が発生したという連絡を受けてから燃料購入の予算を申請するというようなこともあったようです。今回のプロジェクトは主として沿岸部での活動に絞り、スピードと小回りを重視して、少ない人員でも運用できる小型パトロール艇を供与しました。供与する船の選定においても、整備や部品交換などを円滑にするため、多用途型の量産艇に決めました。また、いつでもすぐに出動できるよう常に給油しておくための燃料費も支援対象としたことも大きなポイントです」
と、説明します。

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(写真上)高速救難艇。(写真下)拿捕されたベトナム漁船。

2012年、プロジェクトの第1フェーズとして、3カ国それぞれに小型パトロール艇が供与されました。同年8月にパラオに引き渡された船は、地元の言葉で「有能で勇敢な監視船」の意味を持つ「KABEKEL M’TAL」(カベケル・マタール)と名づけられ、船首に海の強い生き物の象徴としてサメの絵が描かれました。同国の海上法令執行部(海上警察)によって1年目から効果的に運用され、2014年10月には「海洋資源保護」の意味で名づけられた2隻目のパトロール艇「BUL」(ブル)と、小型ゴムボート型の高速救難艇が追加供与されました。10月28日、外国漁船の違法操業の通報を受け、日本財団が供与したこれら3隻がそろって現場に急行し、見事にベトナム漁船2隻を拿捕しました。続いて11月にも3隻のベトナム漁船を拿捕しています。

同年12月、パラオで3隻の訓練を視察した山川氏は、3隻の乗組員たちのチームワークの良さに感心したと話します。

「2年前にカベケル・マタールを引き渡すまで、パラオには供与した小型パトロール艇と同じサイズの船はありませんでした。それが2年の間に見事に乗りこなすとともに、組織を整え、船の追加供与に対応できる人材を育成してきました。違法漁船を拿捕する際も、小型パトロール艇1隻が先行して停船を呼びかけ、もう1隻が併走して監視。さらに、ぶつかってもダメージが少ないゴムボート型の高速救難艇で接舷して違法漁船に乗り込み、エンジンを停止させてから船内を捜索するような手順が取られました。パラオ最高の操船技術を持ったクルーが揃ったと感心しました。また、供与した側の人間にとって何よりもうれしいのは、前に贈ったカベケル・マタールが新しいブルと変わらないくらい、良好な状態に整備されていることです。船の掃除が行き届き、ロープのまとめ方もきちんとしており、日常的によく訓練されているという印象を受けました」

パトロール体制の強化でパラオの海を安全に

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ビクター・レメンゲサウ船長

パトロールの指揮を執るカベケル・マタールのビクター・レメンゲサウ船長によると、通常時のパトロールは週2回。いつもパラオの海で何が起きているのかを把握するよう努めているといいます。

「船の性能が高く、緊急事態にすぐに対応できることが素晴らしいです。スピードが速いだけでなく、風にも強いので、遠方への出動でも安心して出かけられます。違法漁船の監視ももちろんですが、今後は海難に備えて捜索救難訓練にも力を入れていきたいです」

また、パラオ政府の海上法令執行部(海上警察)の責任者、トーマス・トゥッティー部長も、
「3隻体制になってパラオの海の監視能力は格段に向上しました。これからも限られた人員を効果的にマネジメントして、EEZ内での違法操業に対処しようと考えています。われわれの能力向上は違法漁船への抑止力になることが期待できます。また、パラオの国民や世界中からの観光客に安心してパラオの海を楽しんでもらうために、捜索救難活動の訓練をさらに重ねていきます」
と、2年間のプロジェクトの進展に胸を張っていました。

こうした成果を受けて、日本財団は日米豪3カ国政府の協力のもと、パラオ政府とともにプロジェクトの拡大を進めています。2015年2月、パラオ政府と3隻目の小型パトロール艇のほか、40m級の巡視船の供与についての覚書が交わされ、パラオ海上保安局設立の提案も行われました。

また、他の2国においても、2015年3月にミクロネシア連邦に操船シミュレータを供与したほか、2015年10月にはマーシャル諸島共和国に2隻目の小型パトロール艇の供与が予定されています。

山川氏は「民間の組織である日本財団が支援することによって、優先順位を決めて必要な支援物等を迅速に実施することが可能になりました。これが公的な機関が支援する場合だと、支援決定から実施までに数年かかり、現地の状況が大きく変わってしまうこともあります。将来的には日本政府が直接支援する形を取るようになるかもしれませんが、今回のプロジェクトでは、日本財団ならではの迅速な意思決定が、現地の喫緊の課題の解決に大きく役立ったと思います」と話していました。

ミクロネシア3国が直面しているEEZ内での違法操業や、海底のサンゴを傷つけるような漁法による環境悪化などの課題は、日本でも同様に発生しています。海は世界中が共有するものであり、各国の海上保安能力を高めていくことが、美しい海を未来に引き継ぐことになるのではないでしょうか。