グローバル・アピール2020宣言式典 ~ハンセン病に対するスティグマ(社会的烙印)と差別をなくすために~
ご紹介賜りました日本財団の笹川でございます。本日はお寒いなか、多くの皆さま方にお集まり頂きまして心から御礼申し上げます。
ハンセン病につきましては、安倍晋三・内閣総理大臣も深く関心を寄せていらっしゃることは皆さんご承知の通りでございます。ただいま国会開催中でございますので、終わり次第こちらに駆けつけて下さる予定になっておりますし、また担当の加藤勝信・厚生労働大臣並びに森喜朗・東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長もご一緒に後ほど参加してくださることになっております。今日は、ドゥエーン・ケール・国際パラリンピック委員会副会長もわざわざ、ドイツから駆けつけてくださいまして、本日ここに第15回のグローバル・アピールを宣言できることは、お集まりの皆さま方のご協力の賜物でございまして、厚く御礼申し上げます。
私は40年前に初めてハンセン病の療養所を訪ねたことがございます。彼らはハンセン病という病気になっただけで、厳しい社会の偏見や差別の中で生きていかねばならないという状況下にございました。私は、通常の社会人としての生活をしておりましたから、こういう方々が世界に存在するということすら、知らなかったわけでございまして、その時にお会いした皆さま方の人生に対する絶望感、その姿やそしてお話を伺う中で、何か私たちも協力しなければいけないという中で、私は世界各地を訪ね、そしてハンセン病を世界から無くすことを自分の人生の1つの目標として働かせていただきました。
今まで、120カ国を超える国々を回り、アフリカのジャングル、或いはアゼルバイジャンに行きますと砂漠の中に、何時間も走ってぽつんとある療養所ですとか、ブラジルのアマゾンの奥地にも、この病気で苦しんでいる方々を激励し、また、お見舞いをし、今日に至っておりますが、世界中どこに参りましても、病気が治っているにもかかわらず、厳しい社会的な差別が存在し、これが神様の罰であるとか、遺伝をする病気であるとか、様々な理由で差別をうけ、結婚が出来ない、或いは就職も出来ない、働く意欲もありながら、チャンスに恵まれない、という方々を多く見てまいりました。まだまだ、世界ではハンセン病の誤った知識に基づく誤解が存在し、多くの方が苦しんでいるのが現状でございます。
ただ、私たちの力には限界があります。そこで多くの世界的な指導者、或いは影響力のある皆さまのお力をお借りしようと、このグローバル・アピールを始めたわけでございます。第1回目は、多くのノーベル平和賞受賞者に参加をして頂き、世界にハンセン病に対する不当な差別の解消のためのアピールを出していただき、それ以来、世界の医師会の皆さま、或いは世界の看護師協会の皆さま、世界の100を超える大学の学長さんたちにも、教育のなかで、ハンセン病の正しい知識の普及のためにご協力いただきました。世界には多くの差別的な法律が残っている国もいまもあるのです。公共機関、鉄道やバスに乗れないということがまだ法律が残っている国もございますし、ハンセン病になれば無条件で離婚して良いというような法律もあります。これらの法律を撤廃していただくために世界の法律家協会の皆さまの力を借りることもございました。
近年では北京オリンピックにおきまして、ハンセン病の方の入国の禁止ということもありましたが、これも私たちが国際オリンピック委員会、北京市長、そして中国共産党の幹部に手紙をだし、この不当なルールを解消していただいたこともございます。こういう多くの方々の協力いただきまして、2010年に日本国外務省も大きな力を発揮してくださいまして、国連総会におきまして、加盟国193カ国全てが賛同してくださいまして、ハンセン病の差別撤廃の決議案が参加国全ての賛同を得まして、原則とガイドラインと共に可決をされたわけでございます。
こういう経過を経ましても、まだまだ我々の努力は続ける必要がございます。今回は第15回目の国際的なアピールになりますが、今年はご承知の通り東京はパラリンピックイヤーでございます。国際パラリンピック委員会と共に、ここにグローバル・アピールを発信できますことは我々にとりまして大変光栄なことであると同時に、世界中で困難な生活をされていらっしゃる患者や回復者の皆さまの大きな手助けになるものと私たちは確信をしております。
東京でのパラリンピアンの活躍は必ずや世界の多くの人々に大きな感動をあたえ、そしてやはり未来志向の世界はインクルーシブな社会にならなければならないという、重要なメッセージを発信する機会になると確信をしております。この記念すべき年にあらゆる差別、そしてスティグマと闘い、全ての人々が尊重される社会を目指して国際パラリンピック委員会と活動をできますことを、本当に我々にとって力強い支援であり、素晴らしい出来事だと思っております。
先ほども申しましたが、ハンセン病の病気は治る病気です。しかも世界中で薬は無料で配布されているわけでございまして、数多くある病気の1つに過ぎないのでございますが、旧約聖書の時代からこのハンセン病は差別を受ける病気として長い間人々の間に誤解を生じてきた病気でございます。どうぞ、皆さま方におかれましても、既に十分ハンセン病にご理解を賜っていると思いますけれども、なかにはまだまだ誤解に満ちた、神の罰ですとか、呪いですとか、強い伝染性のあるものと理解している人々も多いわけでございます。今やハンセン病は治る病気です。しかし残念ながら、世界中社会の側にハンセン病に対する偏見や差別、スティグマという社会の側が持っている病気が根強く存在しているわけでございます。これを解消することによりまして、多くの障害者の皆さん、特にその中でハンセン病を経験した人たちを含めて、世界中が共通したインクルーシブな社会を実現していこうではありませんか。そのためには皆さま方お一人お一人のお力をお借りしたいわけでございます。どうぞ宜しくご協力をお願い申し上げます。
ありがとうございました。