エコノミストとの対談(ワールド・オーシャン・サミット)
エコノミスト:
海洋問題と一言で言ってもそこに様々な問題が複層的に絡み合っています。笹川会長が最も危惧されている海洋問題は何でしょうか?
笹川:
海洋酸性化、プラスチックを含めた海洋ごみの増加により「母なる海」は泣いています。地球の七割をしめる海のことを私たちは知らなすぎると感じています。例えば、海洋酸性化について、人々はほとんど関心がないどころか知りません。今こそ、陸と海が一体であるとの認識を改めて共有する必要があるのではないでしょうか。そのためにも世界の海で何が起きているか、データを整備し、地球全体が危機に直面している現実を繰り返し訴えていく必要が急務であると考えています。
エコノミスト:
その問題に対してどのようなアプローチを日本財団はとってこられたのでしょうか?
笹川:
人類が直面している海の問題は、複雑で多様です。したがって個別の課題のみに対応しても、それは根本的な解決にはなりません。このような特性を持つ海の課題に取り組むためには、特定の分野・領域を超えた大きな視野を持つ人材の育成こそ必要であると考えています。またその人達のネットワークづくりに尽力してきました。1989年から国際機関、研究機関や大学等の協力のもと、海洋ガバナンス、海洋法、海洋観測、海底地形図作成など様々な分野にまたがる多くの人材育成プログラムを実現してきました。現在までにその人数は150カ国から約1,600名になります。彼らはグローバルな視野で協働する新世代の専門家集団として活躍を始めており、彼らが主役となる国際的なプロジェクトでは具体的な成果も生み出し始めています。
エコノミスト:
このインタビューのすぐ後に、エコノミスト・インパクトと日本財団が主導する「Back to Blue」が、海洋化学汚染の現状に関する包括的な報告書を発表します。この報告書について、どのような期待を持っていますか?
笹川:
海洋における化学汚染の問題はいままで隠れていた重要な問題で、これまで国際的な場で十分に議論がされてきませんでした。調査によると、少なくとも35万種類の合成化学物質が存在し、毎年数千種類が追加されていますが、そのほとんどが健康や環境に与える影響については、何も分かっていないというのが現状です。さらに、化学物質が有害であると判断されて代替されたとしても、その代替物質もまた有害である可能性があります。これまでそれらが及ぼす環境や健康への影響について十分な調査がなされてきませんでした。この報告によって海洋化学物質の汚染問題の重要性が国際的に議論され、海洋環境の保全なくして人類の生存は永続できないことを認識する、新たな機会になることを期待しています。
エコノミスト:
Back to Blueの今後については、どのような期待を持っていますか?
笹川:
海の課題に長年取り組んできた日本財団と、海の課題解決に向けてステークホルダーとの間の議論を深めてきたエコノミスト・グループが共同することによって、持続可能な海の実現に向けて確実によい変化をおこせると確信しています。パートナーシップも4月で2年目となる今年は、新たに「海洋酸性化」にも取り組む計画が進んでおります。こちらも海洋化学物質汚染と同様に重要な課題です。海の酸性化が進むと、貝類やサンゴが炭酸カルシウムの結晶体である殻や骨格を形成するのが難しくなるという研究結果が出ております。日本財団も、沿岸海域の実態を調査するため、2020年8月、海洋酸性化適応プロジェクトを立ち上げています。私たちはこれら海洋問題の深刻な諸問題の取り組みをより積極的に行っていくと同時に、エコノミストによってこの深刻な状況を世界に強力に発信されることを願っています。