生態系を脅かす「海洋酸性化」について警鐘鳴らす国際シンポジウムを開催国連事務総長特使(海洋担当)、英プリムス海洋研究所の教授などが来日

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国際パネルでは世界の海で起きている海洋酸性化の状況と生物多様性への影響について議論された

生態系に悪影響を及ぼす海洋酸性化について警鐘を鳴らす国際シンポジウムが2月2日に開かれました。このシンポジウムは海洋環境問題に取り組む「Back to Blue Initiative(外部リンク)」を進めている日本財団とエコノミスト・インパクト(英メディア会社)が開いたものです。本会議では、海洋担当の国連事務総長特使のピーター・トムソン氏などが出席した国際的な専門家パネルに加え、北海道大学の藤井准教授などが出席した日本の専門家パネル、そしてエコノミスト誌がBack to Blueの支援で制作した酸性化に関するドキュメンタリー映像(外部リンク)が上映されました。
国際パネルでは、海洋酸性化は既に世界各地で海の生態系に影響を及ぼしているとし、ここ数年で海への関心は深まり、国連海洋会議(UN Ocean Conference)、をはじめ、様々な国際的枠組で海洋環境の改善に必要な対策が議論されるようになってきたが、海洋酸性化はまだ十分な議論がなされていないとしたうえで、科学的知見でも先導をきる日本がリーダーシップを取るべきと指摘しました。国内パネルでは、現時点では漁業への直接的被害が観測されていないが、影響を及ぼすレベルの数値は複数回観測されていることから、日本における効果的な「対応策」と実践体制を確立することが急務である一方で、日本では古くから里海という概念があり、人が海と深く関わってきた歴史があるため、慎重に対応する必要があるとされました。

国連の持続可能な開発目標14の目標14.3は、「あらゆるレベルでの科学的協力を通じて海洋酸性化の影響を最小化し、対処する」ことを求めています。日本財団は国内で実施している海洋酸性化適応プロジェクトを通して、科学的知見の収集、問題解決のためのネットワーク、そして適応策実施に関する具体的な取り組みを継続するとともに、Back to Blueを通じて、科学界、メディア、教育、政策立案者、市民社会と引き続き協力し、この問題への関心を高め、国際的なアクションプランの促進に向けて取り組んでいきます。

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日本の沿岸域の海洋酸性化状況について議論をする日本パネルの専門家たち

登壇者コメント(一部抜粋)

笹川陽平 日本財団 会長

海洋酸性化については、世界各地で我々の想像よりはるかに早く進行しており、貝類の死滅、サンゴの脆弱化、生態系の崩壊は始まっている。一刻の猶予もないのではなく、既に手遅れといえる状況まで来ていると言えるほど差し迫った問題だ。我々に与えられた役割と責任は重大である。しかし、臆することなくこの危機に立ち向かい、「母なる海」を千年先の未来に引き継げるよう、共に考え共に行動していこうではないか。

画像:笹川陽平 日本財団 会長

ピーター・トムソン 国連事務総長特使

国連などの国際的な枠組は海洋問題といったグローバルな課題への対応には一定の効果がある。ただし成し遂げるためには強いリーダーシップが必要。科学的知見と人材を有する日本は海洋国家としてもその役割を担えるのではないか。

画像:ピーター・トムソン 国連事務総長特使

海洋酸性化について

  • 海洋酸性化は、二酸化炭素が海水に溶け込むなどして、水質が酸性化する現象(海水中のpHは一般的に弱アルカリ性ですが、pHの値が下がって酸性度が進行すること)です。特にカキやホタテなどの貝類、エビ・カニ類、ウニといった炭酸カルシウムで殻をつくる海洋生物の成長を阻害する(生物が殻を作りにくくなる)ことが危惧され、進行すれば漁業に甚大な被害をもたらす可能性があります。現在、人為起源による大気中の二酸化炭素が世界的に増加していることから、海洋酸性化の更なる進行が懸念されています。
  • 海洋酸性化による実際の被害例として、2005年から2009年にかけて、アメリカ西部・ワシントン州とオレゴン州の養殖施設で、カキの幼生が大量死することがありました。これは深海から海水が上昇する海域に養殖施設があり、海底でプランクトンの死骸が分解される際に発生する二酸化炭素が湧昇し、海の表層近くが酸性化したためといわれています。

Back to Blueについて

日本財団と英メディア会社エコノミスト・インパクトが海洋汚染と海洋環境保全に取り組むべく、2021年にローンチした共同イニシアティブです。これまでに、世界25か国を対象とした「プラスチック管理指数」や、世界の化学物質汚染の状況をまとめた報告書などを発表しています。海洋酸性化については、シンポジウムに加え、この問題を分かりやすく解説したデータビジュアライゼーションなども発表しています。海洋酸性化をはじめ、本イニシアティブの取り組みの詳細はBack to Blueウェブサイト(外部リンク)をご覧ください。

開催日時 2023年2月2日 ハイブリッドで開催
開催場所 グランドハイアット東京
主催 日本財団とエコノミスト・インパクトの協働事業「Back to Blue」の一環とした実施