海洋汚染ゼロ目標を阻む見えない脅威有害化学物質による海洋汚染の実態と必要な対策とは
海洋汚染の中でも見えない脅威である「有害化学物質」について警鐘を鳴らす国際シンポジウムが2月6日に東京都内で開催されました。このシンポジウムは海洋環境問題に取り組む「Back to Blue」イニシアティブを進めている日本財団とエコノミスト・インパクト(英メディア会社)が開いたものです。
本イベントでは、世界銀行 主席エコノミスト リチャード・ダマニア氏、国立環境研究所 環境リスク・健康研究センター 鈴木規之センター長等、国内外の海洋化学汚染に関する研究や政策の専門家を集結して、海洋化学汚染問題の深刻さを浮き彫りにし、次に取るべき行動について議論しました。
開会挨拶を行った日本財団常務理事の海野光行は、海との繋がりなくして生きていけないにも関わらず、その繋がりを忘れている状態を表す”オーシャンブラインドネス”について触れ、次のように述べました。「オーシャンブラインドネスには、海に対する無知、無関心、そして問題があると知りながら見えないふりをする無視の3つの意味があります。本イベントが、このオーシャンブラインドネスの壁を打ち破る一歩になればと思います。そして、今回の議論で得られた結果をBack to Blueのプラットフォームから国内外に発信することで、国際的な議論の場で行動を促すきっかけになることを願っています。」
エコノミスト・インパクト 編集主幹 チャールズ・ゴダードは、Back to Blueが2021年に発表した化学汚染に関する白書の作成過程で、化学汚染に関する科学的データが世界共通の言語で一元化されていないこと、そして特に政策決定者の中で、化学物質汚染問題への理解が圧倒的に遅れていることに当初驚いたと伝えました。そして、Back to Blueが策定した、国際社会が一丸となり、この有害な化学物質による海への影響を排除していくためのロードマップ案を紹介し、問題解決に向けたBack to Blueの意気込みをみせました。
ハーバード大学教授のエルシー・サンダーランド氏のオンラインインタビューで同氏は、汚染源を特定し対策を講じること、そして一人一人が今起きている事象について関心を持つことの重要性を強調しました。そして、産業界で現在使用されている化学物質や原材料を変えていかない限り、公衆衛生は悪化の一途を辿り、海産物にも影響が出かねないとし、海洋化学汚染問題に対して行動を起こさないことへの代償は大きいと警鐘を鳴らしました。
また、パネルディスカションには、スウェーデンNGOのChemSec(国際化学物質事務局)のフリーダ・ヘーク副事務局長、国立環境研究所 環境リスク・健康研究センター 鈴木規之センター長、世界銀行 主席エコノミスト リチャード・ダマニア氏、東京大学 高村ゆかり教授が登壇し、国内外の現状と取り組み、そして海洋化学汚染による影響を排除するための世界的なロードマップの策定に向けた議論が展開されました。日本での海洋科学汚染については、これまで地域レベルで注目を集めてきた問題である一方、グローバル規模での汚染問題については、そのスケールと深刻度に関する国民の認識は低いと日本の専門家たちは指摘しました。日本も化学汚染をよりグローバルな課題として捉え、十分な海洋汚染に関する研究やデータの収集、そして海洋化学汚染問題に対する周知啓発が重要であると強調しました。
欧州連合域内における化学汚染の規制を推進するフリーダ・ヘーク副事務局長は、産業界への働きかけと一般への周知啓発のみで解決できる問題ではないとしたうえで、規制の重要性を訴えるとともに、海は繋がっているため、世界が一丸となって取り組む必要があると主張しました。また、海洋化学汚染の発生源の9割を占める陸上での議論に海洋問題も統合していくことが必要であるとし、まずは同じ志を持った企業、政府、科学者などのステークホルダーが協力し、行動を起こすことを期待する意見も上げられました。
パネリストからのコメント
ChemSec(国際化学物質事務局)副事務局長 フリーダ・ヘーク氏
「今回、海洋汚染における日本と世界の状況と、今後の対策についてとても有益な議論が出来ました。海は私たちを繋ぐもので、我々全員でこの海に流れてしまっている有害化学物質をどのように安全にしていくかを、国際的に協力しながら、出来ることから取り組んでいくことが大事です。」
世界銀行 主席エコノミスト リチャード・ダマニア氏
「海洋汚染の90~95%は陸から来ています。この負の連鎖に目を向けることで海洋汚染問題のも目が向けられることになり、経済界にも行動を促すことができます。国際的な規制を制定することも一つの案ではありますが、各国が国益を考えてしまい、制定には時間がかかってしまいます。まずは、同じ意思を持った国々や人々が一緒に問題解決に向けて行動をしていく必要があります。」
国立環境研究所 環境リスク・健康研究センター長 鈴木規之氏
「科学者として、この問題を議論する必要があります。海洋汚染問題は、大気や気候変動などの問題と分けて考えられています。さらに海洋汚染の研究やデータが不足しています。そのような不確実な状況中でも、政策者へ提言をすることでこの問題に対応していかなければなりません。」
東京大学教授 高村ゆかり氏
「日本の環境省は次の環境基本計画作成に向けて動いています。ただ、海洋汚染の汚染源や予測データなどの科学的なデータが不足しています。そのため、他の環境問題と比べて社会的な問題として取り上げにくいのが現状です。ただ、そのような状況の中でも、法的な拘束力のないグローバルなプラットフォームを活用し、国際的に協力しながら、ステップ・バイ・ステップで問題解決に向けて取り組む必要があります。」
開催日時 | 2024年2月6日(火)ハイブリッド開催 |
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開催場所 | 東京都内 |
主催 | 日本財団とエコノミスト・インパクトとの協働事業「Back to Blue」の一環として開催 |
本イベントは下記URLから視聴いただけます。
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お問い合わせ
日本財団 海洋事業部 本多・冨士
- メールアドレス:kaiyo_info@ps.nippon-foundation.or.jp