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ひとり親家庭「親の病気」「学習障害」臨機応変にサポートする「子ども第三の居場所」

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困っていることを自覚していない保護者が増え、子どもの支援につなぐハードルが高いという(ブランコをこぐ女の子。写真はイメージです)
この記事のPOINT!
  • ひとり親に病気がある場合、より柔軟な支援が必要
  • 児童相談所と「子ども第三の居場所」のスタッフが信頼関係をつくり、協力する例もある
  • 学習障害を抱える子については、学校や行政と連携し、アフターケアも求められる

 取材:なかのかおり

日本財団は、多様な困難を抱える子どもたちが安心して過ごせ、将来の自立に向けて生き抜く力を育む「子ども第三の居場所」(外部リンク)プロジェクトを全国で進めている。

今回、取材したある拠点は、数年前に開設して行政に移管し、NPOが運営を担っている。常駐の職員とパートスタッフの手厚い態勢で、放課後・長期休みに10人ほどの小学生が通う。繁華街が近く、ひとり親が目立つという。

「ひとり親の病気」という状況で、どんな課題があり、どのような支援が必要か考える。

アルコール依存のシングルマザー

シングルマザーのさやかさん(仮名)には、アルコール依存症があり、治療を続けている。「子ども第三の居場所」スタッフの鈴木さん(仮名)は以前、教職に就くかたわら、学習支援や子ども食堂に関わっており、さやかさんに居場所ができる際に声をかけていた。

さやかさんの子は、小学1年生から居場所に通った。日に日に、さやかさんの迎えが遅くなった。迎えに来ても、アルコールのにおいがした。スタッフは、注意して見守っていた。

ある日、夜10時を過ぎても迎えに現れず、連絡もつかない。スタッフがさやかさんの子を自宅に送っていくと、さやかさんはろれつが回らない状況だった。スタッフは、やむを得ず児童相談所に連絡した。

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ひとり親が精神的な問題を抱える場合もある(パズルで遊ぶ子ども。写真はイメージです)

「居場所に行っていいですか」

現在、さやかさんの子は、養育里親の家庭で生活している。ときどき、さやかさんの暮らす自宅に帰る際、親子で居場所に来ることがある。鈴木さんは「さやかさん親子が『居場所に行っていいですか』と言える信頼関係が、私たちスタッフとできていたことを、うれしく思っています」と話す。

さやかさんの子は、勉強はできるが、不安定な様子だったという。いつも口の周りをなめたり、口に食べ物をためていたり…。さやかさんが迎えに来ない時も、感情を表に出さなかった。通常は泣いたり、「お母さんが来ない」「何しているのかな」と言葉にしたりする子が多いが、何も言わなかった。

「ストレスを感じているのではないか」と察した居場所のスタッフは、根掘り葉掘り聞かずに、自然に接するようにした。一時保護中も、放課後は居場所に来ていた。慣れてくると、さやかさんの子は、自分からぽつぽつと話すようになった。少しずつ、感情を出せるようになり、離れて生活する母のさやかさんから電話があった時は、号泣した。スタッフも初めて、感情を見られた。

里親家庭は居場所の利用の対象外だが、帰宅した際は受け入れている。鈴木さんは「そこまでしなくても…というところまで、きめ細かなサポートをしてきた結果、児童相談所(児相)とよい関係が築けています。もちろん、してはいけないことはしません。例えば子どもにケガを見つけても、本人に詳細を聞くのは、専門家や児相です。誰が最初に聞くかが大事だからです。でも、必要な場合は児相の許可を得て、私たちスタッフが聞き取りに協力します。子どもが自宅に帰った時に、食事が出されたか、入浴したかなど、さりげなく聞き出すケースもあります」という。

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寄り添ってくれる大人がいれば、感情を出せるようになる(漂う1つのシャボン玉。写真はイメージです)

シングルファザーの入院

小3の時に居場所に来たゆうきさん(仮名)の父は高齢で、離婚していた。持病があり、働けなくなって手当を受けている。スタッフが働きかけても、はじめは居場所の利用を断られ、鈴木さんが頼みこんで、ゆうきさんが通うことに同意してもらった。父親とコミュニケーションが取れなかったが、少しずつスタッフと話すようになった。

ある時、急に父親の具合が悪くなり、緊急入院することになった。スタッフの鈴木さんに連絡があり、鈴木さんが行政に伝え、ゆうきさんのショートステイや保護の手配をした。こうした父親の入院が何度かあり、そのたびに里親に預ける仲介をした。退院すると、「どうですか」と鈴木さんが声をかけ、運転できない父親に代わって、車でゆうきさんを自宅に送った。

父親の迎えが遅くなるという日は、時間外まで待ったり、「運動会の親子競技に出て」と頼まれて出たり。スタッフは、柔軟に対応してきた。本来は、業務ではない。

鈴木さんは「臨機応変に対応するための、少人数制だと思っています。こちらから家庭に近づいていかないと、何が起きているか分からない部分もあります。スタッフが話し合い、保護者の了解を得ればいいのではと思っています」と語る。

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学習障害のある子に、居場所のスタッフはマンツーマンで向き合う(ノートとえんぴつ、消しゴム。写真はイメージです)

学習障害のサポート

ゆうきさん本人も、学習障害があって支援が必要だ。3年生の段階でカタカナが書けず、日常で使う簡単な単語もうろ覚えだった。机の前に、座ることはできる。一回も宿題を提出したことがないのに、学校では「いい子」という評価だった。同じクラスに、かなり暴力的な子がいて、先生は、その子にかかりきりだったそうだ。

鈴木さんが学校に相談しても、「困っていないので、支援は必要ない」と言われた。行政の施設は、学校経由でないと利用できない。鈴木さんは、独自に福祉施設に依頼し、保護者の了解を得て検査を受け、学校に「こういう傾向がある」と知らせた。みんなと同じ量の宿題はできないので、減らしてもらうためだ。

ついに学校は動き、学習障害の専門員を頼み、ゆうきさんの授業の様子を観察した。それから宿題を減らしてもらえたものの、一時だけでまた通常の量に戻った。

居場所では、スタッフがマンツーマンでゆうきさんに付き、一緒に学校の宿題に取り組む。ゆうきさん本人も変わり始め、「やらなきゃいけない」という気持ちになった。2時間かかっても、宿題をやり遂げようとする、その気持ちを優先しているという。

鈴木さんは、保護者と学校に「支援学級に入るのも、ゆうきさんにとっていいのではないか」と伝えた。本人は「今の友達との関係がいいから、入りたくない」と答えた。子ども自身が決めることが一番重要だが、それまでに周りの大人がその子のためにどんな話し合いをして、どんな選択肢を用意できたかという過程も大切にしている。

居場所が利用できるのは、小学6年生まで。これから、居場所を卒業後の「アフターケア」事業が、行政の予算に盛り込まれる予定だ。ゆうきさんが中学校に行っても、ときどきは居場所に来たいと話している。鈴木さんは、ゆうきさんが進む中学校と、入学前に個別に相談する約束も取り付けている。

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子どもの未来を閉ざさないために、どうしたらいいのだろうか(空と緑。写真はイメージです)

スクールソーシャルワーカーの活用を

この地域では、離婚率が高く、半分ぐらいがひとり親というクラスもある。父子家庭も増えたという。実家の援助も得られない。

居場所のスタッフは、利用する家庭を、臨機応変にサポートしている。それでも、鈴木さんは「私たちで解決できることは、一つもなくてもどかしい。家庭に踏み込むのは難しいですし、子どもと関わるのは、怖い部分もあります」と漏らす。

けれど、見えなかった課題を見つけて、しかるべき機関に共有し、解決に向ける手段はあるという。

「居場所の事業があるから、動けます。児童相談所と関係を築き、気になる子がいれば日頃の様子を書きとめておき、いざ保護が必要という時に情報を渡したり、定期的に報告したりしています。児相から居場所の利用申し込みがあったときは、信頼されていると思ってうれしかったです」(鈴木さん)

鈴木さんは「学校の先生には、子どもの貧困が分かりにくく、抱え込む担任もいます。行政が、制度をうまく回してくれるといいのですが…」と願う。

例えば学校の「スクールソーシャルワーカー」を、もっと相談しやすいように配置し、「家庭の問題を交通整理して、必要な制度につなぐ役割」を周知する。また、子どもが出入りする児童館のスタッフが「おかしいな」と気付き、相談につなげるスキルを持つ。そういった努力は、既存の制度の中でもできるのではないか。

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やむを得ない事情があるとしても、ネグレクトされている子どもが救われてほしい(折り紙の鳥の親子。写真はイメージです)

ひとり親で体調が悪く、やむを得ずネグレクトになってしまう家庭もあれば、子どもの手当を使い込んだり、学校で必要なものを買わなかったり、搾取する保護者もいる。

鈴木さんは「困った家庭ほど自覚がなく、支援が必要だと気付いていません。居場所の利用を行政に勧められても、断る保護者もいます。居場所や養護につながっている家庭はまだ、大丈夫な方なんです。『とりあえず服も食べ物もあるし、ゴミ屋敷でも住める』という常識の保護者は、何年か先に子どもがどうなるかを考えられません」と指摘する。

そうした保護者の意識を変えるのは、かなり難しいという鈴木さん。「保護者を刺激しないように、お願いしたり、なだめたり。時にはルールや枠組みを超えて、柔軟に親子ごとサポートしていく必要があります。居場所で出会った子たちの、見えている部分の困り事には、できるだけのことをしたいと思っています」

そして時間はかかるけれど、子ども自身が「こういう生活は、おかしい」と気付けるように、教育することも大事だという。学校で、家庭生活についてのアンケートもあるが、困窮家庭の子どもが訴えても、虐待から救え出せなかった悲しい事件もあった。

スクールソーシャルワーカーや、既存の多様なサードプレイスの大人たち、学校の先生がそれぞれの力を発揮できる環境を整え、連携して、困難を抱える親子に向き合えるようになることを、願う。

 撮影(イメージ写真):鈴木愛子

〈プロフィール〉

なかのかおり

ジャーナリスト、早稲田大参加のデザイン研究所招聘研究員。早大大学院社会科学研究科修了。新聞社に20年余り勤め、地方支局や雑誌編集部を経て、主に生活・医療・労働の取材を担当。著書に、パラリンピック開会式にも出演したダウン症のあるダンサーを追ったノンフィクション『ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦』(ラグーナ出版)。調査報告書に『ルポ コロナ休校ショック〜2020年、子供の暮らしと学びの変化・その支援活動を取材して見えた私たちに必要なこと』『社会貢献活動における新しいメディアの役割』など。講談社現代ビジネス・日経電子版・ハフポスト等に寄稿している。

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