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子どもの生きる力「非認知能力」を伸ばす自由研究の進め方。入口は狭く、出口は広く
- 時代が急速に変化する中、子どもたちに必要な力として注目される「非認知能力」
- 夏休みの宿題「自由研究」は、子どもの「非認知能力」を伸ばすのに絶好の機会
- 子どもたちに疑問を投げかけると共に、何もしない時間をつくることも心を成長させる
取材:日本財団ジャーナル編集部
ChatGPT(※)など次々と新たなテクノロジーが登場し、社会が大きく変容している現代。子育てをしている世代にとって「AI(人工知能)やロボットに仕事を奪われないように育ってほしい」と願うのは、ごくごく自然なことではないでしょうか。
- ※ 2022年にアメリカの企業OpenAIが開発した、人間のような自然な会話ができるAIチャットサービス
そんな中、先が見えない時代を生き抜く力として注目されているのが「非認知能力」です。
非認知能力とは、学力テストなどでは数値化されない子どもの将来や人生を豊かにする力のことで、一般的には探究心や創造力、協調性、コミュニケーション能力などのことを指します。
非認知能力は8歳までにどれだけ高められるかが生涯にわたって影響すると言われており、その打ってつけの機会の1つが、夏休みの自由研究です。
子どもの主体性に任せるとなかなか進まず、親が入り込み過ぎると親の作品になってしまいがちな自由研究ですが、非認知能力を育むためにはどう取り組めば良いのか。今回は、子ども教育のプロである、白梅学園大学子ども学部子ども学科(外部リンク)教授の増田修治(ますだ・しゅうじ)さんにアドバイスをいただきました。
自由研究は、楽しみながら非認知能力を伸ばせる機会
——早速ですが、いま子どもの「非認知能力」が注目されています。具体的にはどんな力のことを言うのでしょうか?
増田さん(以下、敬称略):明確な定義はないのですが、一般的には意欲や意志、人と協力する力、コミュニケーション能力などと言われることが多いです。私はもう少し踏み込んで、「自分からやってみたい」、あるいは「取り組んでみたい」と思うような能動的な心情そのものだと考えています。
「いろんな人と知り合いたい」「たくさんの人とつながって多くのことを吸収したい」というコミュニケーション面の意欲も、非認知能力に分類されると考えています。
——学力のように数値化されないだけに、概念を理解するのがなかなか難しいですね。
増田:非認知能力がどんなものかを知ることができるクイズがあります。これは実際に私が4歳の子どもに実験しながら出したクイズです。皆さんも考えてみてください。
「次の野菜や果物は、水に浮くか、沈むか?」
- ピーマン
- キュウリ
- ナス
- バナナ
- リンゴ
- ニンジン
- ジャガイモ
——ピーマン、キュウリあたりは浮きそうですが、リンゴやニンジンは沈む…? 難しいですね。
増田:ここでポイントなのは、正解をすぐに伝えることではなく、「面白いと思ってもらう」「自分で考えてもらう」こと。面白そう、考えてみたいという思いを自分で生み出せる力こそが、非認知能力なんです。
私は子どもたちと一緒に実験をすることで、好奇心を刺激しながら、考えてもらうようにしています。ピーマンから順に水に入れていくと、ニンジンとジャガイモは沈んで、それ以外は浮く結果に。つまり土の上に実がなるものは浮いて、土の中に実がなるものは沈むんですね。
子どもたちには最終的にそのことを伝えますが、まずはなぜ浮くのか、沈むのかという仮説を自分で立ててもらい、説明してもらうことを大切にしています。
——4歳の子どもでも答えられるんですか?
増田:もちろんです。これまで子どもたちから出てきた意見では、リンゴまで全部浮いたのを見て「野菜や果物は全部浮く」、ニンジンが沈んだ様子を見て「ニンジンを半分に切ればいい」。また「先生はごまかしている」というような意見が出たこともありました(笑)。
出てきた意見を大人が面白がって受け止めていれば、子どもは次々に仮説を立てるようになります。ニンジンを半分に切ればいいと言った子どもには、実際にニンジンを半分に切ってもらいましたが、やっぱり沈むんですよね。気の済むまで小さく切ってもらいました。
こうやって子どもの仮説を実際に試してみることも、とても大切なことだと思います。
——子どもたちにとって、非認知能力はなぜ重要なのでしょうか?
増田:テクノロジーが進化を続ける変化の時代ですから、これからは新しいものを生み出せる創造性や、課題を解決できる発想の転換力が求められるようになってきます。
いまでさえ無人のコンビニができたり、作業の自動化が進んでおり、多くの仕事がAIやロボットに奪われつつあります。子どもたちが大人になる頃にはさらにその流れが加速し、仕事に就くことが難しい人も増えてくるでしょう。
そうならないためには、自分で考え、創造性を高めることが大事。つまりAIに使われる側ではなくて、AIを使う側にならなければいけないということです。私は、非認知能力が子どもの人生を決めると言っても過言ではないと思っています。
——非認知能力を育むために、自由研究が有効だとお聞きしましたが、それはなぜでしょうか?
増田:自分の興味のあることを自由に研究できるわけですから、子どもの「面白い」「知りたい」という気持ちを伸ばしやすい活動だと考えています。
最近では、中学受験の希望者が増えて、小学校高学年の夏休みの宿題ではじゃまもの扱いされることが多く、自由研究が宿題に出ない学校も増えています。しかし、子どもが何かに興味を持って、調べ、形にすることは非認知能力を高める貴重な機会になりますから、宿題に出なくても、ぜひ家庭で取り組んでいただきたいですね。
自由研究のポイントは「入口は狭く、出口は広く」
——ここからは具体的に、自由研究をどう進めていくかアドバイスをお願いします。
増田:自由研究の進め方は「テーマ設定」「調べる」「まとめる」の3つの行程に分かれます。非認知能力を育むための自由研究には、親の関わりも大切になってきますので、そのコツについてもご説明しますね。
[自由研究の進め方]
1.テーマを設定する
- 子どもが興味を持っているものや好きなこと
- 子どもが疑問に思っていること
- 社会問題になっていること
例えば、こんなテーマがおすすめ!
- なぜバナナはこんなに安い?
- フェアトレードコーヒーって何?
- 海洋ごみ(プラスチックごみ)はどこからやってくる?
2.調べる
- 本やインターネットなどを使って調べる(インターネットはあくまで補助手段。コピー&ペーストして終わりにしない。必ず文献に書かれたものかも調べる)
- 親、親戚、身近な大人に意見を聞いてみる
- 実体験で好奇心をくすぐりながら調べる(実物があるものは触れてみる、食べてみる、実際の場所に行ってみるなど)
- 親が質問を投げかけてみる
3.まとめる
- 調べたことをもとに、自分がどう感じたのかをまとめる
- まとめ方は、パソコンではなく、新聞やレポートといった手作りがベスト
- 写真を使ってもいいが、観察力を高めるために模写でもいいので自分で描いてみることも重要
親がサポートするためのコツ!
- ポイントは「入口は狭く、出口は広く」。テーマを最初から広げない。調べていく過程で広げていく
- 「不思議だね」「なんでだろうね?」と一緒になって考える
- 子どもたちが「発見」を楽しめるような遊び心を忘れない
- あくまで黒子に徹する。出しゃばり過ぎない
——まずテーマ設定で大事なことはどんなことでしょうか?
増田:テーマを設定するときに頭に入れておいてほしいのは「入口は狭く、出口は広く」することです。
SDGsや社会課題などを自由研究のテーマにするのは、非認知能力を育むためにはとても有効だと思います。なぜなら社会課題はなかなか解決しない、正解のない問題ばかりですよね。子どもが自分で考える習慣をつけるのにもってこいだと思います。
ただ最初から「環境問題」などとテーマを大きくし過ぎてしまうと、子どもはあまりピンと来ないし、「面白い」とか「調べてみよう」と思えなくなってしまう。だからテーマの入口を狭くするんです。
——なるほど。
増田:例えば「バナナはなぜ安いのか」というテーマ。一緒に買い物に行ったときに、バナナの金額を見てみたら、他の果物と比べてとても安いことが分かると思います。
お子さんに「なんでバナナってこんなに安いんだろうね?」と聞いてみて、興味を持ってくれたら、調べてもらう。小さなお子さんの場合は一緒に調べてもいいですね。
バナナ畑の実態を調べてみると、働いている人が1日100円ぐらいしかもらっていない、だから安く販売ができているということが分かるはずです。
——「バナナが安い」という身近なテーマから、海外の非人道的な労働という社会課題につながっていくというわけですね。
増田:そうです。このように世の中には、自由研究のタネがたくさん落ちています。どれか1つを押し付けるのではなく、さりげなく拾って、子どもにたくさん示してあげる。その中から子どもが自ら選ぶといい形で進むと思います。
——子どもにとって、インターネットはすでに身近な存在ですが、自由研究で使う場合はどのくらいの距離感がいいのかも気になります。
増田:インターネットを使って調べること自体は問題ないのですが、あくまで補助的な使用に止めること。情報のコピペだけで完成させたら取り組む意味がなくなってしまうので、検索した情報をもとに自分で考えながらまとめていくことが大事です。
またフェイクニュースや根拠のはっきりしない情報も多いので、うのみにせず、何を文献にした情報なのか調べる癖をつけたほうがいいと思います。
——まとめるときは、パソコンを使ってもいいのでしょうか?
増田:はい、使ってもいいと思いますよ。ただ、きれいにまとめる必要はないと私は考えていますので、手書きでも問題はないです。
最近の子どもたちはスマホなど、写真を撮れるツールを持っているため、写真を上手に使ってまとめようとしがちなのですが、私は子どもたちの観察力の低下がとても気になっています。
対象物をよく見て、観察して、下手でもいいから絵にしてみる。そうすると観察力も高められると思います。大切なのはきれいにまとめることではなく、子どもの力を伸ばすことだということを忘れないでほしいです。
——自由研究は、子どもの主体性に任せるとなかなか進まず、親が出過ぎると意味のないものになってしまいますよね。親としての適切な関わり方とはどのようなものでしょうか?
増田:ポイントは「一緒に考える」ことだと思います。親からするとどうしても正解の方にぐいぐい引っ張っていきそうになりますよね。でも「なぜだろうね?」「不思議だね」と伝えて、子どもに考えさせる。
あとは遊び心を持つこと。子どもたちが「面白い」と感じられるようにしかけていくことが大事だと思います。
「何もしない」体験が創造力を豊かにする
——子どもの非認知能力を育むために、周りにいる大人ができることはどんなことでしょうか?
増田:疑問をたくさん投げかけ、子どもが考える習慣をつけることだと思います。
例えば「時計ってどうやって動いているんだろうね?」「なんでチクタク音がするんだろう?」と子どもに聞いてみる。そして仮説を立てたら、時計を一緒に分解したり、組み立ててみるのもおすすめですよ。
いまの時代、車や機械などいろいろなものがICチップで動く仕組みになっていて、どういう仕組みで動いているか大人にすら分からなくなってしまいました。子どもたちはなおさらで、考えることを諦めてしまうんですね。
そうならないためにも、身近なものの仕組みを知ることは考える習慣につながると思います。
——たくさん疑問を投げかけるとなると、非認知能力を育むためには親の関わりも大事ということですよね。ただ、普段忙しくてなかなか子どもとの時間が取れない人も多いかと思います。
増田:疑問を投げかけることに加えて、子どもたちにひらめきや、心の成長を与えるのが「何もしていない時間」だと言われています。親御さんたちは良かれと思って子どもたちにあれやこれもさせる傾向がありますが、何もやらない時間もとても大切なんです。
例えばテーマパークに行くような特別な体験より、一緒に散歩をしたり、公園のベンチに座ってぼーっとするような身近な体験ですね。その中で、草花が育つ仕組みについて話してみたり、雲の流れや形について話してみたりして、好奇心を育てる。
たくさん時間をかけなくても、子どもたちのためにできることが普段からあるということを知ってほしいと思います。
編集後記
普段はなかなか時間がとれない人も、この夏休みを機会に子どもと自由研究に取り組んでみてはいかがでしょうか。自分で考え、一緒に疑問を持ち、自分が調べたことを形にしていく。それが、子どもが自ら未来を切り開いていく力になっていくはずです。
撮影:永西永実
〈プロフィール〉
増田修治(ますだ・しゅうじ)
白梅学園大学子ども学部子ども学科教授。埼玉大学教育学部卒業後、小学校教諭として28年間勤務。子どもたちと取り組んだ「ユーモア詩」が多数のメディアに取り上げられて話題となる。2008年より現職。小学校教諭を目指す学生の指導と並行して、公立保育園や私立保育園との共同研究を行う。現在の主な研究テーマは学級崩壊。「小1プロブレム対策のための活動ハンドブック(日本標準)」など教育関係の著書多数。
白梅学園大学 増田修治教授 紹介ページ(外部リンク)
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