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【家族を看る10代】ヤングケアラーの大学生が取り組む、後輩たちが「他愛もない話」をできる居場所づくり

写真:鬱や病気で元気がない祖母を励ます子ども
家族の世話や介護に追われる子ども「ヤングケアラー」に必要な支援とは。kapinon/PIXTA
この記事のPOINT!
  • ヤングケアラーの大学生たち。子どもの頃は、自分の気持ちの理解者なんていないと思っていた
  • 中高生ヤングケアラーたちは「いま」がしんどい。「大人になれば楽になるよ」とは決して言わない
  • 当事者家族だけの狭い世界に押し込めない。他愛もない話をでき、気軽に吐き出せる場づくりが必要

取材:日本財団ジャーナル編集部

本来、大人が担うような家事や家族のケア(介護や世話)を日常的に行っている子どもたち。彼らは「ヤングケアラー」と呼ばれ、世界的にも解決すべき社会問題であることが指摘されている。

家事、家族の介助、通院の付き添い、投薬の補助、金銭管理、感情面のサポート、きょうだいの世話、見守り、聞こえない家族や外国籍の家族のための通訳……。ヤングケアラーたちの役割は多岐にわたり、自分の時間が持てないことで、友人関係や学校生活、進学、就職活動などにも悪影響を及ぼす可能性があると考えられている。

前回の記事(別タブで開く)で紹介した一般社団法人ケアラーアクションネットワーク協会では、ヤングケアラーたちの支援の輪を広げるために、オンラインサロンや研修事業、啓発活動などさまざまな事業を展開しているが、中でも特徴的なのが「ピアメンター(下級生をアドバイスする上級生)の育成」だろう。家族のケアをする、あるいはケアを経験した大学生が、中学生や高校生ヤングケアラーの良き先輩として寄り添い、力になる。そんなピアメンターによって救われた子どもたちは少なくない。

今回は、実際にピアメンターとして精力的に活動する大学生の田名部睦乃(たなぶ・よしの)さん、専門学校生の石川菜々美(いしかわ・ななみ)さんの2人に、自身の経験とヤングケアラー当事者の子どもたちの実態、彼らに必要な支援について話を伺った。

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周りのことを気にする余裕もなかった

――まずはヤングケアラーとしての原体験について聞かせてください。

田名部さん(以下、敬称略):父、母、姉、双子の姉と私の5人家族として育ちました。双子の姉は車いすに乗っていたので、排泄や入浴の介助、病院の付き添いなどが主な私の役割でした。また、私が中学生の頃、母が乳がんを患ってしまったため、母の看病に加えて掃除洗濯などの家事も担当することになって。当時はケアをしている感覚はなくて、お手伝いをしているつもりだったんです。それでも部活が終わって帰宅してから家事をこなすとなると相当な負担で、疲れが出て、授業中に居眠りしてしまうこともありました。

石川さん(以下、敬称略):私は一人っ子で、父と母の3人家族でした。母には持病があって、私が小学1年生の頃、さまざまな合併症の影響で脳梗塞を発症し、それから左半身にまひが残ってしまったんです。その頃から家事を手伝うようになっていたんですが、中学2年生の頃、今度は脳腫瘍が見つかって、その影響で母は高次脳機能障害になってしまいました。そこから排泄や入浴介助が必要になって。ヘルパーさんの力も借りていたんですが、家事などは私の担当だったので大変でしたね。

写真
ヤングケアラーとしての体験を語る石川さん

――当時、周囲の子たちと自分の環境を比べたりすることはありましたか?

田名部:中学生の頃は本当にしんどかったんですが、周りを気にする余裕なんてありませんでした。心を開かず、ずっと閉じこもっていたような気がします。

石川:病気になってしまったことはもう仕方がないし、周りと比べても意味がない。やっていけることをやっていくしかない、と考えていましたね。もちろん、誰かに話を聞いてほしいという思いはありました。ただ、小学生、中学生くらいだとなかなか相談できないですし、万が一ばかにされたりいじめられたりしたらどうしよう……と不安にもなりました。だから友人たちには一切打ち明けていません。

田名部:私も相談できなかった。重い話になってしまうし、私の気持ちを理解してくれる人なんていないんだろうな、とも思っていたんです。

――「ヤングケアラー」という言葉を知った時の気持ちも聞かせてください。

田名部:大学の授業でその言葉に出合って、「もしかしたら、私も当てはまるかもしれない」と思って詳しく調べてみたんです。するとやはり該当して。その時はうれしいとか悲しいなんて感情よりも、「私はヤングケアラーだったんだ」と腑に落ちた感じがしましたね。納得できたんです。

探求プログラム:
家族をケアしている中学生・高校生の皆さんへ

セッション1:オリエンテーション
セッション2:ケアってなんだろう
セッション3:自分を大切にするセルフケア
セッション4:感情とうまく付き合うには
セッション5:身近にいる相談相手を探そう
セッション6:将来どうしたい?

zoom開催:毎月第2水曜日21:00〜

Twitterフォロー&DMで申込み
https://twitter.com/can_ycstation
ケアラーアクションネットワーク協会が実施する「ヤングケアラーズ探求プログラム」(外部リンク)

石川:私も腑に落ちた感覚だった!大学に入って、まさにいまお世話になっているケアラーアクションネットワーク協会がニュースで取り上げられていて、その中でヤングケアラーという言葉が使われていたんです。「ああ、私もこれだったんだ」と納得すると同時に、それを社会問題と見なし、解決するために動いている組織があることに感動しました。

「◯◯してあげる」とは思っちゃいけない

――現在、2人ともピアメンターとして活動していますが、そもそもピアメンターになろうと思った理由は何だったんですか?

田名部:実は私の姉は、子どもの頃に鉄棒から落ちてしまったことで障害者になったんです。その時、私は側にいたんですが、何もできなかった。それをずっと悔いてきました。だからこれから先の人生では、自分の体験を活かした活動がしたいとも考えていて。そんな折に、ケアラーアクションネットワーク協会でピアメンターを募集しているのを見かけて応募してみたんです。

石川:私は幼い頃から障害者を家族に持つ人たちの支援がしたいとずっと考えてきました。それでケアラーアクションネットワーク協会の存在を知った時、思い切って「私も何かお手伝いしたいので、入れてほしい」とメールしてみたんです。すると「それならピアメンターになってみない?」とお誘いいただいて、そのまま参加することにしました。

田名部:ピアメンターになるためにはまず研修を受けるんですが、そこではたくさんの学びがありました。1つが「ひとりで抱え込まずに、みんなと一緒に考えること」。ヤングケアラーの子たちって、他人に迷惑をかけないようにひとりで抱え込んでしまいがちなんです。でも本当は、周りの人にもっと頼ったって構わない。その考え方に驚くと同時に、他のヤングケアラーの子たちにも伝えていきたいと思いました。もう1つは「◯◯してあげる、とは思わないこと」。ヤングケアラーの子と信頼関係を築くためには、フラットに接することが必要。でも「してあげる」というスタンスは、上下関係につながってしまいます。私自身、上から目線で優しくされてもうれしくないので、相手と対等でいることは常に意識しています。

石川:私にとっての大きな学びだったのは、「いまはしんどいかもしれないけれど、大人になれば大丈夫だよ、とは言ってはいけない」ということですね。私も当時はつらかったけれど、大人になって楽になれたので、それを彼らに伝えるべきかと迷っていたんです。でも、中高生の子たちは「いま」がきつい。将来楽になれるとしても、「いま」をどうにかしたいって思っているんですよね。なので、彼らと話すときには「いつか楽になれるよ」なんて楽観的なことは言わず、現状をどう乗り越えるべきかを具体的に話し合えるように気を付けています。

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ヤングケアラーには、家事や家族のケアに追われ勉強する時間も十分に取れない子どもたちもいる。Fast&Slow/PIXTA

ヤングケアラーの子どもたちの実態。まずは気にかけることから

――実際にヤングケアラーの子たちと接してみて、気付いたことはありますか?

石川:実際に話してみるまでは、「きっとみんな、すごく嫌だったこととか苦しかったことを吐き出すんだろうな」と構えていたんです。でもそうではなくて、本当に他愛もない話ばかりするんですよ。好きなアイドルとか、将来の夢とか。そしてそれがとっても楽しそうで。その子の問題を解決してあげなきゃいけない、と思ってしまう瞬間もあるんですけど、それよりも大事なのは「その子の居場所をつくること」なんだと気が付きました。相談に乗るよりも、他愛もない話をして仲良くなることで、きっと彼らも楽になれているのではないかなと思います。

田名部:私もそうでしたが、そもそもヤングケアラーの子たちって、誰かに相談するということに抵抗を感じるみたいなんです。だからこそ仮に相談したとしても、深刻に受け止めないでほしい、笑って気楽に話してほしいと考える子が多くて。それを踏まえると、深刻な態度で構えているよりも、石川さんが言ったように他愛のない話ができる空間をつくることの方が大事かもしれません。

写真:たこ焼きを焼く、ヤングケアラーの子どもたち
ケアラーアクションネットワーク協会が実施する「ヤングケアラー探求プログラム」では、新型コロナウイルス感染対策も万全に、たこ焼きパーティーなども開催

――もしかすると、私たち一人一人にできることにも通ずるかもしれませんね。

田名部:そうかもしれません。「支援する」と考えると難しく感じてしまうと思うんです。ただ、まずはその人のことを気にかけることが大事なんじゃないかな、と。私自身がそうだったんですが、切羽詰まるとどうしても視野が狭くなって、孤立してしまいがちなんです。そういうときに、「ここに見守っている人がいるよ」と教えてもらえるだけでもだいぶ救われたはずで。とにかくヤングケアラー当事者に対して、「あなたを見守っている人がいるんだよ」と知らせるだけでもプラスになると思います。

石川:母と私との関係のように、ヤングケアラー問題は、当事者の子どもも家族も小さな世界に閉じ込められがちなんです。それゆえに悲しい事件も起こってしまう。だからまずは、当事者だけの関係にしないことが大事。田名部さんの言うように、周囲の人たちが関わることで、狭い世界に押し込めないことが重要だと思います。

田名部:「あなたを気にかけているよ」とアピールするだけで、いざというときにヤングケアラーの子たちがSOSを出しやすくなると思います。だから私も、周囲に悩んでいる人がいたら手を差し伸べたいし、常にそういう気持ちを持っていたいです。

石川:私も同じ気持ちです。同時に、これまでは家族を最優先にする生き方をしてきたけれど、これからは家族のことを大切にしつつ、自分のことも優先しながら仕事ややりたいことに邁進してきたいって思います。

田名部:そうだね。ヤングケアラーとしての体験は、良かったことも悪かったことも引っくるめて貴重だったと思います。その体験をしたからこそ、他者の痛みを理解できるようになったのかもしれない、とも思うし。だからこれからは、そういった体験を活かしながら活動してきたいですね。

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ヤングケアラーとしての経験を踏まえ、将来は介護関係の仕事に就きたいと語る石川さん

現在は一人暮らしをしながら大学に通う、田名部さんと石川さん。子どもの頃から長年担ってきたヤングケアラーの経験を通して、後輩たちが「子どもらしくいられる」居場所づくりに努めている。

彼女たちのような実体験がなくても、当事者の周囲の人たちができる支援はある。もしヤングケアラーと思われる子どもと出会ったら、「大変な思いをしている子たちだから」と身構えるのではなく、まずは他愛もない会話からでも本人と関わることから始めてみてほしい。

一般社団法人ケアラーアクションネットワーク協会 公式サイト(外部リンク)

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