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増える自然災害、遅れる地域対策。プラス・アーツが取り組む、防災教育の担い手の育成

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防災プランナーズスクールで行われている、海外の学生との協働プロジェクトの模様。画像提供:NPO法人プラス・アーツ
この記事のPOINT!
  • 防災意識は高まりつつあるが、「どうすれば社会や地域に防災が根付くか?」まで考えられる人は少ない
  • NPO法人プラス・アーツは、次世代の防災プランナーを育成するプログラムを展開
  • いかに防災の重要性を伝える担い手を増やせるか、それが地域、ひいては日本の防災力向上につながる

取材:日本財団ジャーナル編集部

気象庁の調べ(外部リンク)によると日本では1年に1,000〜2,000回の地震が発生している。これは世界的に見ても非常に多く、全世界の地震の10分の1が日本周辺で起きているという。

また、日本では台風、豪雨、豪雪など天災も多い。2023年も早々に、記録的な寒波により広い範囲で交通障害や農業被害が相次いだ。

そんな、年々増加傾向にあると言われる自然災害(別タブで開く)による被害を軽減させるため、防災力の向上は必要不可欠だ。しかし、各家庭での防災対策は徐々に進んでいても、地域防災に関する課題はまだまだ多いのが現状である。

そんな中、NPO法人プラス・アーツ(外部リンク)では、高校生・大学生を対象に防災教育プログラム「防災プランナーズスクール」(外部リンク)を展開している。

「防災プランナー」の役割とは何か?なぜ、教育対象が大人ではなく子ども・若者なのか?プラス・アーツで理事長を務める永田宏和(ながた・ひろかず)さんに話を伺った。

防災が地域に根付いていない

永田さんが2005年に手掛けたイベント、「イザ!カエルキャラバン!」(外部リンク)は、遊びを通して防災の知識や技を身につけられるユニークな防災イベントとして多くのメディアで取り上げられ、話題を呼んだ。プラス・アーツはこのイベントをきっかけに設立されたという。

画像:消火器を使う女の子。カエルの形の的に水を当てている
「イザ!カエルキャラバン!」の模様。消火器の使い方をゲーム感覚で学べる。画像提供:NPO法人プラス・アーツ

永田さんが防災事業に携わる上で大事にしているのは「防災の伝え方と質」だ。

「2004年から防災に携わって約18年。当時と比較すると、人々の防災意識は高まっていると感じています。では、いまの課題は何か?それは高まった防災“意識”に反して、防災“対策”が根付いていないこと。防災対策をしている家庭は少しずつ増えてきましたが、地域単位で考えるとまだまだ進んでいるとは言えません」

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拠点とする神戸よりオンラインで取材に応じてくれたプラス・アーツ理事長の永田さん。防災に携わったきっかけは、阪神・淡路大震災により、学生時代を過ごした街が壊滅状態になってしまったことだという

地域の防災対策が進んでいない理由には、核家族化や地域コミュニティの希薄化などがあるが、中でも防災教育には教科書的なものが多く、伝え方がアップデートされていないことが大きいという。

そこで永田さんは3つのメソッドを考えた。それを既存の防災プログラムに取り入れることで、地域に防災が根付きやすくなり、防災力の向上にもつながると話す。

[3つのプラス・アーツメソッド]

1.強い「種」を育てる「風・土・水」

「風・水・土」は人の役割を指し、それぞれが最大限の力を発揮し連携することで、地域の防災力を向上させる活動(=種)がつくられる。

  • 風:デザイナー、プランナー、プロデューサーを指す。既存の防災イベントや活動をアレンジし、つくり変えた種を運ぶ存在。
  • 水:自治体職員、社会福祉協議会職員、町内会やPTAといった地域団体など中間支援者を指す。アレンジされた種を育てる存在。
  • 土:その地域に暮らす人々を指す。運ばれてきた種を受け入れその地に根付かせる存在。
イラスト:風・水・土の関係性

じょうろで土に水をやり、土に植えた種から芽が出ている。横からは風が吹いている。

・風の人
NPO法人プラス・アーツ(わたし)

・水の人
地域の町内会、自主防災組織、PTA、おやじの会、婦人会、子供会、自治体、社会福祉協議会、公民館、児童館、学校、企業など

・土の人
支援する地域にお住いの方々

・種
イザ!カエルキャラバン!、レッドベアサバイバルキャンプ、防リーグ、BOSAI図工室、地震ITSUMOプロジェクトなど
風、水、土の3つの役割が連携することで、初めて強い種(活動)が育つ。画像提供:NPO法人プラス・アーツ

2.地域住民を巻き込む「不完全プランニング」~強い種の条件 1〜

防災を根付かせるためには、防災イベントの実行者として地域住民に関わってもらうことが重要。それには「不完全なプラン」が効果的だという。

「私たちだけで準備をしてしまうと、住民はお客さんとして参加することしかできなくなりますよね。それでは防災を地域に根付かせることは難しい。私たちはあえて住民がイベントのプロセスに関わる余地をつくり、自主的に手伝ってもらうようにしています。『企画やイベントをつくり変えることに参加する人をどれくらい増やせるか』、それが大事です」

イラスト:不完全プランニングの解説

プログラム・イベントが中心にあり、その周りには隙間の空いた壁がある。その隙間からこども、デザイナー、ボランティア、アーティスト、NPO、学生、市民等が通れるようになっている
防災イベントのプランにはあえて空白部分を設けることで、参加者が一体となってイベントをつくることができ、地域への定着につながるという。画像提供:NPO法人プラス・アーツ
画像:沖縄用にローカライズした取り組みの例

シーサーやヤモリ、オリオンビールなど、沖縄に関わるものをモチーフとして、イベントを行っている

地域での取り組み事例:沖縄県若狭地区

キャラクターから地域で考えたオリジナルイベントが誕生!

全てのツールを手作りし、 沖縄版にローカライズ!公民館が中心となり地域の方と開発・ 準備を行い実施。
沖縄でのイベントの様子。プラス・アーツで設計した企画を、地域住民たちが地域に合った企画につくり変えることで、住民同士のつながりも強まる。画像提供:NPO法人プラス・アーツ

3.人々を惹きつける「+クリエイティブ」~強い種の条件 2〜

住民から「防災イベントに関わりたい」と思ってもらえる仕掛けも必要だ。「+クリエイティブ」は、まさにその中核をなすメソッド。

「魅力がない防災イベントや活動は、見向きもされません。防災にはクリエイティブ要素を導入し、『楽しい』『美しい』『感動する』など、魅力化が不可欠なんです。何か1つでも魅力に感じられる点があれば、関わりたいと思う人は増えると思いますし、防災イベントに参加する人が少ないなどの課題解決にもつながるはずです」

画像:プラス・アーツが企画したゲーム型の防災教材

・防災カードゲーム『なまずの学校』
・防災ボードゲー『GURAGURA TOWN』
・防災カードゲーム『みんなで遊んでたすカルテット』
・防災カードゲーム『シャッフル』
カードゲームで防災のノウハウを遊びながら学べるなど、プラスアーツでは防災教育ツールの開発にも取り組んでいる。画像提供:NPO法人プラス・アーツ

プラス・アーツは大阪府にある堺市総合防災センター(外部リンク)の展示物の企画にも携わっており、センター内は防災の情報を楽しく学べる工夫が施されている。

「見る人の興味を惹かなければ、展示物はすぐに飽きられ素通りされてしまいます。その課題を、私たちは展示物に謎解き要素を加えることで解決しました。初級~超級まで4種類の謎を仕掛け、展示物の中に答えの鍵を隠します。全ての鍵を見つけないとラストの謎が解けないようになっているんです。防災だって、仕掛けをつくれば楽しく学べるんですよね」

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堺市総合防災センターの展示物。防災に関する知識が、大きな本の形状となって展示されている。画像提供:NPO法人プラス・アーツ
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謎が書かれた「ナゾトキシート」。展示物の中に謎を解く鍵が隠されているので、楽しみながら学べる。画像提供:NPO法人プラス・アーツ

防災教育プログラムで「次世代の風」を育成

防災プランナーズスクールは、永田さんが防災イベントを開催する中で得た気付きをきっかけに2022年に立ち上げた、「“防災を伝えること”を実践的に学ぶ」プログラムだ。

「イベントを通して防災に触れていくうちに、防災が社会や地域に根付かないという課題は全国共通であることに気付いたんです。それはつまり、災害を乗り切るための原動力となる『地域コミュニティ』が機能していないということ。『風』の人材育成が急務であると感じました。強い種をつくり運ぶ『風』を育てられれば、防災力が向上する地域はたくさんあるでしょうし、私たちがつくり上げてきたメソッドを高校生や大学生に伝えられれば、防災教育の担い手の育成にもつながる。そのような思いのもと、防災プランナーズスクールを立ち上げました」

生徒は企画力を育てるワークショップや、さまざまな防災コンテンツの体験を行うフィールドスタディを通して防災を学び、プラス・アーツが行う防災イベントにプランナーとして参加する。

「防災は、現場に出て初めて学びにつながることが多いんです。実際に神戸市の三宮地下街で開いたイベントでは、防災プランナーズスクールに参加した学生たちに課題を伝えて、彼らなりにプログラムをつくり替えてもらいました。自分たちで考えたアイデアが実践できた方が大きな経験になりますし、お客さんの反応も感じられ、その先の未来にもつながるはずです」

画像:イザ!3くまキャラバン in さんちか 防災工作コーナーの模様

子どもが親と一緒に、段ボール等を使って工作をしている
三宮地下街で行われた防災工作をメインにした防災イベントの模様。画像提供:NPO法人プラス・アーツ
画像:イザ!3くまキャラバン in さんちか 防災プランナーズスクール生ブースの模様

防災プランナーズスクール生がイベントに参加した親子を相手にクイズを出題している
工作コーナー周りに配置された「防災グッズ暗記クイズ」ブースの企画アレンジを、防災プランナーズスクールの生徒が担当した。画像提供:NPO法人プラス・アーツ

防災に取り組む海外の同世代の若者と交流し、グローバルな視点で防災を身につける「グローバルプロジェクト」にも力を入れている。参加した大学院生の梶本夏未(かじもと・なつみ)さんは、ネパールでの体験をこう振り返る。

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実際にグローバルプロジェクトに参加した梶本さん。社会人経験を経て、現在は防災教育を学ぶ大学院生だ

「私はネパールの学校の先生や子どもたちに、災害のメカニズムや普段の備え方を伝えるというプログラムに参加したのですが、そこで感じたのは現地の方々の防災に対する熱量の高さでした。日本のようにインフラが整備され、学校の先生にも防災訓練のノウハウがあるような国ではないので、伝えること全てを新しい防災知識として吸収してくれるような感じでした。新たなプログラムをつくり上げる力も強く、とてもすごいなと。日本でも、ネパールのように熱量を持って地域の防災に取り組めれば、もっと多くの人が訓練やイベントに参加して、防災力も向上すると思いました。これからも防災が地域に根付くよう、精一杯活動しながら学びを深めていきたいと思います」

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ネパールでの防災イベントの様子。中央にいるのが梶本さん。画像提供:NPO法人プラス・アーツ

地域の担い手を増やす仕組みづくりが鍵

次世代の防災を担う人材の育成はとても大切だ。しかし同時に、自治体や地域、私たち一人一人が行動を起こさなくては、日本の防災意識は高まっていかない。

何かできることはあるか、永田さんに聞いた。

「自治体や地域に関しては、防災の担い手を増やす取り組みを考えてみるといいと思います。私たちは2015年から埼玉県で暮らしの防災講座の講師の育成に取り組んでおり、これまで延べ850人以上の方を送り出しています。また、大阪府堺市の健康福祉局でも同様に、その地域に住む高齢者に防災教育のインストラクターになっていただき、地域の防災を盛り上げてもらうプログラムを展開中です。防災の担い手候補は顕在化されていないだけで、必ずいるんですよ」

一人一人ができることについては、「積極的に動いてみることが大事」と永田さんは話す。

「いまはネットで検索をかければ情報がすぐに手に入り、書籍もたくさん出版されていますよね。阪神大震災当時にはなかったものがたくさんあふれていますから、しっかりアンテナを張っていれば、自分がやれることは自然と見えてくるはず。まずは自分から積極的に動いてみるといいと思います。防災について動く人が多くなるほど、防災大国に近づけるはず。受け身ではなく、能動的なアクションが必要なんだと思います」

取材の中で永田さんが「日本は災害大国だからこそ、防災大国にもなれるんです」と、話していたのが印象的だった。防災大国への道は、私たち一人一人の行動にかかっている。

〈プロフィール〉

永田宏和(ながた・ひろかず)

NPO法人プラス・アーツ理事長。兵庫県西宮市生まれ。大学で建築を学び、大学院ではまちづくりを専攻、地域活動の礎を築く。大学院修了後は大手建設会社に就職。退社後、企画プロデュース会社「iop都市文化創造研究所」を設立。2005年の阪神・淡路大震災10周年記念事業で、楽しく学ぶ新しいカタチの防災訓練「イザ!カエルキャラバン!」を開発したことをきっかけにNPO法人プラス・アーツを設立。2012年からデザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)の副センター長、2021年からセンター長も務める。
NPO法人プラス・アーツ 公式サイト(外部リンク)
防災プランナーズスクール 公式サイト(外部リンク)

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